絆創膏と高熱

□待たされた男
1ページ/14ページ








「また、だ」

薄く開いたカーテン。
その間から昇ってきた日が照らす、午前5時。

残暑も過ぎ、秋口の今。
すっかりと冷え込んだその日の夜に、何もせずこうして座っていたことが悪かったのだろう。
固まった体を動かしては、また深く腰掛ける。


彼を待ち続け、俺はそこにいた。





また、と言葉を吐いたのは、こうして彼が帰ってこなくなるのが1度や2度ではないからである。
最近はめっきり少なくなったものの、昔はこんな光景も珍しくはなく。
そのたび、待ち続けた俺は、どこか麻痺してしまったのか、彼を待ち続けることは苦ではない。
ただ、彼とて俺とて歳を重ねてきたわけだ。


失ったものが戻るわけではない。
その時間はきっと、この後もまた、大きく積み重ねられていくのだろう。


それは今更、彼が誰かの物となったとして。
俺がそれに頷けるのかという話だ。
彼とは俺が中学生のころからの付き合いである。
9歳差である俺たちだから、そのころ彼は大学生。

すっかり惚れ込んだ彼の家へ何度も足を運べば、見せつけられるような彼の恋人。
週替わりなのか日替わりなのか。
その数は知れず、けれども彼らがすることは同じ。
そうして、子供の自分はそんな彼のもとから追い出されるだけ。




高校を卒業した後に、無理やり入り込んだ彼の居場所。
ゆっくりと、彼との時間を重ねてきた。
それから時間が流れて今。


彼が家を出る回数は少なくなり、週末にしろ仕事終わりにしろ、家で共に過ごすことが多くなって。
体を重ねることも、最近はどちらともなく進めるようになった。



恋人関係。
そう呼んでもいい日々がここ最近は、長らく続いていたのだ。








そうして、今日。
彼は帰ってこなかった。





それから、少しして日が高くなったころ。
鳴り響いた電話に彼の声。
伝えられる言葉を自分は解釈できないまま、彼の名を呼んだ。
何度も何度も。



もう帰らない。
そんな彼の言葉があまりに大きくのしかかって。





それが別れなのか。
あまりにも突然に、そうして電話が切れる。






俺は一人、彼の部屋。
帰らない彼を、今でも待っている。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ