絆創膏と高熱

□置いて行かれた男
1ページ/15ページ











「先輩は僕がいなくなっても、きっとなにもかわりません」






そう言葉を吐いて、彼が消えてからどのくらいの月日が経ったのだろうか。
一人暮らしをしていた彼のマンションは、次の日にはすでにもぬけの殻で。
連絡もつかなければ、共通の友人でも誰も彼の居場所を知らないまま。



恋人関係だった俺たちの関係は、そんな彼の言葉で終わった。




始まりだってどうってことない。
大学の後輩だった彼が自分をよく慕ってくれて。
それがその当時いた彼女との時間よりも、居心地がいいと気づいて半年。
気付けば体も重ねて、彼自身もそれに対して嫌がるようなしぐさも見えなかった。


結局、彼女には縁を切られたものの、自分にとってそれが傷になることもなく。
彼と友人以上の付き合いを続けてきた。


それでも、さすがにどちらもその関係を他に明かすことはなく、人目を気にしながら、それでも満足のいく関係だった。
その後、俺が大学を卒業。
一般企業に就職すれば、一年遅れて彼も卒業。
彼とてそれなりの企業に就職。
その後、互いに多忙になり、会う時間が格段に減りながらも、時間を合わせては短い夜を過ごす。
そんな日々が3年は続いて。


そろそろ落ち着こうかと、溜まった金を見ては、将来について考えていたころである。
彼とのつながりは、その言葉と共に突然になくなった。






しかし、こちらとて社会人。
そんなにも長い休みが取れるはずはなく、休日彼が行きそうな場所を訪れるものの見つからなければ、また次の週末まで仕事。
彼の実家を訪ねても、家族関係が浅い彼の家独特でわからないその居場所に。
結局は手の打ちどころがなくなった。





仕事は続けている。
今の時代、簡単に捨てられるような正社員の職ではないからだ。
しかし、彼が心配なのは確かで、一人の夜、彼を想わない日はない。
置いていく彼に踏ん切りはついているのだろうか。
置いて行かれた自分はただ一人、何の手がかりもつかめないまま、通り過ぎる日々をただ流れるように過ごしていて。






今年で30。
どこか思考も年をとってきたのだろう。
思えば彼のことを心配に思う自分は、どこか親のようで。
あのころ抱いていた熱い激情は戻らない。



それを歳のせいと考える自分も自分で残酷である。
そう思わせるほどの長い時間が過ぎていた。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ