四季彩回路
□story3
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買い物というのは大半の人が想像するものとは違い、切花の買い物は大抵食である。服などの買い物は出来ないところが切花の不自由だった。
「私はね、こんな壊れるモノよりも、美味しく食べられる物の方が好きなのよ」
「強がり?」
「言い聞かせよ」
彼女の服は七鋏家と花王家の混合製。七鋏家の幽かなる程の布と、切花の魔力を練り合わせると出来るもの。
けれど切花は何処と無く気づいていた。
その能力は手以外では壊すほどではないことを。
「今日は、何にしようかしら」
「俺は生姜焼きがいいかな」
「貴方に作るなんて言ってないわよ」
「じゃあ今日は七鋏家にお邪魔しようかな」
淡々とした会話は、仲間内のその会話とは違い、これでも緩い方なのだ。
切花の視線はちょいちょい服屋が映る。見て見ぬフリをしているのは自分が虚しくなるからだ。
水生は目を逸らす。切花は気付かない。
「…切花、私は…」
「貴方はまた本に感化されているのね」
「あ…」
一人称だ、水生は無意識のうちにいつも使う一人称とは違うものを出していた。もとより水生は本に影響されることが多く、一人称もその一つだった。
切花はそう言ってからクスリと笑って続けた。
「まるで科学者ね、いつか出て行ってしまいそう」
「…出て行ったらどうするんだい?」
「この世界を壊してあげるわよ」
「は…」
「私ならできるわよ、この手があるのだから。」
「壊したところで、戻っては来ないだろう」
「壊れる前に躍起となって椿と陽平が探すわよ、きっと」
「見つからないならば?」
そう問うと、少し足早に先に行き振り向いた切花が言った。
「貴方は必ず私のところにくるのよ」
そう言った切花は、異様に当たる日の光に照らされて、影が妖しくかかっていた。
End.