頂き物
□WC前、ある日の出来事
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まずは病院へと向かい、診察している間に黒子の母親に連絡を入れると、急いで病院に来てくれた。
「38.1度……?」
思っていた以上の高熱に、黄瀬は一瞬言葉を失う。
診察の結果、ただの風邪だという事で安心しながらも、やはり黄瀬は黒子をおんぶして黒子の家まで送っていき優しくベッドに寝かせてやった。
そしてすぐに額の上に乗せられたアイスノンの気持ちのいい感触に、黒子が頬を緩ませる。
「何だか、一気に体にだるさが襲ってきました……」
「家に着いて気が抜けたからじゃないスか?」
優しい黄瀬の声、優しく髪を撫でてくれる感触。それが気持ちよくて、黒子は目を閉じる。
「眠れるようなら少し眠った方がいいよ。次黒子っちが目を覚ました時も、俺ちゃんといるから」
「いてくれるんですか?」
「もちろん」
ちゅ、と柔らかな感触が瞼に触れたのを感じると、徐々に眠気が襲ってきて。
「お休み、黒子っち」
大好きな心地のいい温もりに、黒子は簡単に意識を手放した。
それからどれくらい寝ていただろうか。
ふと目を覚ますと、部屋には誰もいなかった。
眠る前よりは幾分かはましになっているようだけれどまだ体はだるく、ゆっくりと起き上がった。
「きせくん……?」
物音一つしない部屋。
まだ明るい外、時計を見ると16時を回ったところのようだ。
「きせくん」
再び呼んだ名前に、大好きな声は返ってこない。
今は黒子を起こさないよう多分リビングにでもいるんだろう。
(懐かしい夢を見ました……)
まだ付き合い始めの頃の夢。
あの頃、あとをついてきていたのは黄瀬の方だった。
黒子っち、黒子っちと名前を呼んで、甘やかすと満面の笑みで抱きついてきて。
今でもあの頃のように甘やかしてあげたいのに、それより先に甘やかしてくれるのでついついそれに身を委ねてしまう。
「黄瀬君」
風邪を引くと人恋しくなるもの。
普段から、側に黄瀬がいる事で心の安定を保っている黒子にとって、感じるそれは常人の比ではない。
黄瀬の事を考えていたら、顔が見たくなった。声が聞きたくなった。
「きせくん……」
「黒子っち?起きたの?」
声と共に開く扉。
やっと見られた黄瀬の顔に、自然にポロポロと涙がこぼれる。
「どうしたんスか、怖い夢見た?1人にしてごめんね、黒子っちそろそろ起きるかなって、すりおろし林檎持ってきたんスよ」