頂き物
□WC前、ある日の出来事
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「黒子っち、体調悪いでしょ」
「は?」
お昼になり、黒子の「黄瀬君里内君、お弁当食べましょう」との言葉に返した黄瀬の何の脈絡もない言葉に、里内が驚く。
「……特に悪くはないです、よ?」
「黒子っちが頑張ろうとしてたから黙ってたけど、もう限界。俺に隠し事出来ると思ってるの?」
め、と指で優しく黒子の額をつつく。
「ほら。指先だけでも分かる、熱あるっスよ」
「マジか。ちょい額貸せ黒子」
「え、あの、里内く、」
体を引こうとしたのをやっぱり優しく黄瀬に阻止されて、黒子の額に里内の手が触れた。
「……黒子、お前平熱何度だ」
「35.5度っス」
「何で黄瀬が答え……まあいいや、結構低いな。それでこの熱は高すぎだろ、よく我慢出来たな。熱はかったのか?」
黒子は、真剣な顔の里内と黄瀬に観念したように眉を下げる。
「はかってないです……体温を自覚してしまったら、倦怠感を隠し切れませんので。WCも近いんです、練習は休めません」
「馬鹿野郎、今無理してWCで倒れちゃ意味ねえだろ」
「黒子っち早退しよ。俺、先生に言ってくるから」
「あ……」
離れようとした黄瀬の服を、反射的に掴む。
どこか泣きそうにも見える表情に、黄瀬は黒子の頭を撫でた。
「里っち、5限目なんだっけ」
「1組と合同体育。黒子は早退しなくても保健室だな。黄瀬も気になって授業どころじゃねえだろ」
「後頼める?」
「おう。財布と携帯以外は置いてけ、部活終わったら黒子ん家届けてやっから」
「ごめん、じゃあ頼むっス。黒子っち、帰ろ」
多くを言わなくても分かってくれた里内に小さく頭を下げて、黄瀬が自然と腰を落として黒子に背中を見せると、やはりつらかったのか素直に黄瀬の背中に乗り首に腕を回して抱きつく。
「きせくん」
「うん?」
「黙ってようとして、ごめんなさい」
「いいっスよ。とにかく、今は早く体調戻す事考えよ」
「はい……」
「ほら、俺怒ってるわけじゃないんだからそんな顔しないで。体の力、抜いてていいからね」
「はい」
いつもの素直さを取り戻した黒子に微笑みかけて、黄瀬は教室を出ていく。
「…………」
黒子は本気でだまし通そうと思っていたのか、それとも黄瀬なら言わなくても気付いてくれると思っていたのか。
「黒子の性格を考えたら、限りなく後者に近い前者かな……」
呟いて、2人共早退した事を伝えてこようと里内は教室を出た。