dream novel

□ありのままの自分
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私はずっと悩んでいた。私の全てを受け入れてくれる人は、きっとこの世の何処にもいないだろうってこと。だって誰よりも自分が一番、私自身を受け入れられないのだから。




ありのままの自分
feat.窪谷須亜蓮×女主





転校してきた窪谷須亜蓮くん。最初は目立たなかったけど、同じく転校生の才虎芽斗吏くんの一件で元ヤンということがクラス中に知られてしまった。でもそれが彼らしさならいいと思う。とても羨ましい。


「…窪谷須くん、本当にいいの?送ってもらうなんて」
「いいって気にすんなよ。それに怪我させたの俺のダチだしな」
事の発端は、今日の体育の時間に起きた。男女別で男子は野球、女子はテニスをしていた。然堂くんが打った球がまさかの柵を越えてテニスコートに入った。私はそれを踏んでしまい、足を挫いたのだった。然堂くんは謝ってくれたし、責任を持って送ると言ってくれたけど私の家はかなり遠くて歩きで登校している彼には悪いと断った。そこをちょうど通りかかった窪谷須くんがバイクで来ていたので、送ると申し出てくれたのだ。私は才虎くんの一件で彼に興味を持っていた。

「でもヘルメット二つもないよね…」
「今朝ちょうどヘルメットにヒビ入って予備に一つ買ってきたんだ」
「そうなんだ」
彼とは同じクラスで話す機会は少しはあったけど、よく知らなかった。それ故に近寄りがたさもあったのかもしれない。それでも学校生活を送る彼を見る限り、悪い人には見えなかった。むしろ気になっていた。
「あれ?でも、バイクの二人乗りは免許とってから一年経たないとしちゃダメなんだよね」
「夏休みの座学で一ヶ月経てばいいって習ったぜ?」
あれ?おかしいな、確かバイクの二人乗りはいくつか条件があったはず。でもスマホで調べても二人乗りは一ヶ月経てばルール違反にはならないらしい。そんな話をしているとちょうど同じクラスの斉木くんと目が合った。

駐車場に行くと明らかに目立つバイクがあった。いくら校則が緩いPK学園でもバイクで通学している生徒は珍しかった。
「さてと…八月朔日の家の方向はだいたい把握したけどよ、乗り方についてなんだが」
「うん」
「まあ普通に乗ってればいいんだけどよ、バランスとるために身体は密着させて俺の腰辺りを掴んでいてくれ」
「うん、分かった」
通学時間はだいたいバスで片道二時間ちょっとだ。通勤ラッシュ時はもっとかかる。12月の肌寒い季節に加えて冷たい風に覆われる。唯一暖かいのは窪谷須くんに密着している部分だ。


「…コンビニ?」
「あぁ、わりい。ちょっくら休憩させてくれ」
途中でコンビニに止まった。冷たい風が当たって頬が赤くなってしまっている。バイクの運転席は直接風に晒されて寒いに決まっている。暖かい飲み物でも買おう。彼がトイレに行っている間に暖かい飲み物を買ってバイクに戻る。
「わりいな」
「大丈夫だよ、はい、寒いよね」
頬にペットボトルを当てて渡す。彼は少し驚いて受け取る。指先が少し当たった。
「サンキュ、助かるよ…足はまだ痛むか?」
「ううん、落ち着いてきたから大丈夫だよ」
「…そうか、良かった」
「窪谷須くんは何でたくさん喧嘩してたの?」
「…まぁ親がどっちも元ヤンだったのもあるが一番の理由は俺自身、周りに認めて欲しかったってのがある」
「そうなんだ…そうだよね」
「八月朔日もそう思ったことはないか?」
「……そうだね、思うよ。だけど私が認められるはずない」
会話を遮るように立ち上がって空き缶入れに缶を捨てた。本心を話しても、分かってもらおうとは思わない。

ヘルメットを被り、再びバイクに跨がる。窪谷須くんは何か言いたげだ。また私の悪い癖が出た。自分の性格に嫌気が差して自己嫌悪になる。自分が嫌いで嫌いで、仕方ない。
「…なぁ、この後何か用事あるか?」
「え?ないけど…」
「ならちょっと俺に付き合ってくれ」
返事をする前に、エンジンを掛けられた。声が届かない。彼の制服を掴んで何度も声を上げる。それでも聞こえていないのか何も答えない。バイクは家とは違う方向を走る。諦めて沈んでいく太陽をぼんやり見つめた。


「……何で今の時期に海…」
「海はいいよな、たまに来るんだ」
日はすっかり落ちた黒い海は初めて見た。風が強く、月だけがゆらゆらと静かに揺れている。
「……スゥー、っしゃボケカスーー!!才虎の奴、いつかギャフンと言わせてやるぜ、覚えてやがれ!!
突然叫び出した窪谷須くんに驚く。ドスの効いた声がこだまして響いている。今どき青春ドラマでもやらないよ。
「……お前もやったらどうだ?すっきりするぜ」
「…いいよ、叫びたいことなんてないし」
「そうか、叫びたいことがないのに何でそんなに泣きそうなんだ?」
「…泣かないよ!私に構わないで」
もう自分を上手く隠すことができそうになかった。涙を堪えていると胸がツンと痛い。もう自暴自棄になりたかった。




「窪谷須くんは私を嫌いになるよ、絶対に」
次の瞬間、私は勢いよく海に入った。水がキーンと冷たくて、服が重く動きにくくて、波に身体が持っていかれそうだ。もっと遠く、誰の目にも入らない所まで…
腕をぎゅっと掴まれた。窪谷須くんも海に入ってきてびしょびょに濡れてしまっている。
「…な、にしてんだよお前!死にてえのか!!」
「うん、死にたいんだ、だから放して」
彼を巻き込んで風邪を引かせてしまったら申し訳ないと思う。だけど、もう何もかもどうでも良かった。
「お前……絶対に離さねぇ!!」
腕を引っ張られるけど、そっちに戻るつもりはない。放すように抵抗する。波が高く、頭から水を被った。水を吸い込んで息が苦しくなる。
「…げほっ、げほっ……こんな私、誰が認めてくれると思う?」
「…恵……お前のことは信用しねえ、お前をぜってぇ離さねぇって俺自身のことを信じてる
体温が急激に下がったからか意識が薄れてきた。目が霞んで、月と彼のシルエットだけがぼんやり見える。なんだか凄く眠い。


「……んっ!」
唇に触れた刺激に意識が戻される。窪谷須くんの顔があまりにも近い。気づくと背中に腕が回されていて、身動きがとれなかった。息が満足に吸えず、苦しくなる。彼の背中をどんどん叩く。
「……っはぁ、はぁ…っ」
「わりい、苦しかったか?…初めてでよく分かんなかった」
「…ふざけないで、私に触らないでよ!!」
背中の服を思いっきり引っ張る。それでも彼はビクとも動かない。
「ふざけてなんかねえよ、マジだって分かるまで何度でもしてやる」
ぐいっと近づいてくる彼から顔をそらすと、今度は強く抱きしめられた。密着していると彼も身体がどんどん冷たくなってきているのが分かる。
「…ごめん、分かったから浜に戻ろう…」
「……そうだな、」
今まで私にこんなに身体を張ってくれた人はいただろうか。少しずつ自分がしてしまったことについて後悔する。
「ごめんなさい、本当に…お願いだから、窪谷須くん死なないで…」
「はは…さっきまで自分が死ぬって言ってきかなかったくせに…俺には死んで欲しくないのか?」
「当たり前だよ!私なんか死んでも構わな「…お前、全然分かってねえな……」」
窪谷須くんは苦しそうに笑って目を瞑った。顔から一気に血の気が引いた。暗闇から人影が現れる。よく見えない。




「斉木くん?」



















「………っ、」
目が覚めた。窓の外を見ると、まだ夜中だ。しかもここは俺の部屋じゃない。辺りを見渡すと、隣に恵が寝ていた。それに少し離れて斉木がいた。夜中なのに月を見ている。振り返って目が合う。
「…なんだか分かんねえけど、お前が助けてくれたんだよな。サンキュ、助かったぜ」
「【お前もお人好しだな、危うく死ぬ所だったぞ】」
「もし死んでも俺は恵を助けれたらそれで後悔しない」
「【それは八月朔日恵が悲しむんじゃないか】」
「そうだな…でも今日ので決心がついた」
「【そうか、明日も学校だ。もう寝よう】」
再びベッドに入った斉木に俺も横になる。隣で寝ている恵を一目見て目を瞑った。




「……昨日は大変、大変なご迷惑をお掛けしました」
「【そうだな、まぁちゃんと反省したなら構わない】」
そう言って斉木くんは去って行った。残る窪谷須くんを見る。嫌われてしまったけど、きちんと謝れて良かった。すると、いきなり彼にデコピンをされた。
「あだっ!?」
「ったく、本当バカだよお前は…意味分かんないこと突然するしよ」
「巻き込んでごめんなさい…」
「っ違うだろうが!もうあんなことしないって誓え」
なかなか離してくれない窪谷須くんは私に何が言いたいのだろうか。
「…はい、分かりました」
「…だから、お前が変なことしないように俺が一生見張ってやる…っ」
「…うん、え?何で私のこと嫌いになったんじゃ」
「バカ野郎!嫌いになんてなるわけねえだろ
俺はお前が好きなんだよ!!
「………え?えーーー!!
その後、窪谷須くんの告白は大声過ぎて学校中に広まっていった。私たちは付き合い、彼の言葉は真実になり、私の猜疑は杞憂となった。




20161221


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