dream novel

□友達の条件
1ページ/1ページ


俺は間違ってなんかいない。
そんなこと、今まで考えたことすらなかった。
今までの誰もがみんなそうだっただろう。
俺を否定することは絶対に許されない。
なぁ?お前ら。

友達の条件 feat.才虎芽斗吏

カネがあれば人生においてどんな場面でも勝ち組だ。
その証拠に物はカネで買える。
人はカネで動く。
友達ははしたカネで作れる。
今まで俺はカネと引き換えに全てを手に入れてきた。
これが俺に与えられた定めだ。
どんな場面でも俺の思い通りになる。

しかし、この貧乏学校はクソつまらない。
全部、あいつらの所為だ。
照橋心美を始め根暗貧乏、その他貧乏共も俺の力に全く屈しなかった。
カネ以外の何があいつらの心を動かすんだ。
今まで教わらなかった。
だがそんなこと考える必要はない。
あいつらに目にもの見せてやる。
俺に関わる全ての人間は俺に屈服する運命なのだ。

「まぁ入れよ、宿題持ってこさせたんだから茶でも出してやる」
「それはいいけど学校には来いよ、何だかんだ言ってみんなお前を待ってるんだから」
「…あぁ」
海堂瞬、中二病という訳のわからない病にかかっているそうだ。
チビで弱そうだし、こいつが一番騙しやすそうだ。
俺はお前らに侮辱されたことを一生忘れないぞ。
部屋に入れて茶菓子を出させる。
やはりまだこの俺を警戒しているようだ。
手に包帯なんて巻いて見るからにバカそうだ。
口元が緩みそうになる。

「友達っていうのはカネよりも大事な物なんだな、今まで誰も教えてくれなかった…」
「…まぁ確かにカネは大切だけどよ、カネよりも大事な物って他にもあると思うぜ」
「何だよそれ」
「…絶対に自分が後悔しない選択をすることだ」
バカみたいだ。
カネで手のひらを返す奴は五万といる。
そんな奴を親父を通して何万人と見てきた。
目に見えない価値のない物がどんな価値にも代え難いカネより大切だっていうのか。
「海堂…少し聞いてくれるか、今まで誰にも言ったことはなかったんだが」
小貧乏が、思い知らせてやろう。
そんなものを守ることがどんなに下らないことか。
カネが全てだろう。
カネがあってこそ世界は回る。
例えば俺が習ってきた演劇、これで心情を偽わることだって出来る。
「…頼む……俺を見捨てないでくれ…っ」
絞り出した声は我ながらいい演技だと思う。
俯いて表情は隠す。
笑ってしまって哀しい顔は作れそうにないから。
「俺は、カネが全てだと親から言われてきた…だから…カネで人と繋がる方法しか知らないんだ、」
親の世界が全てだった。
いずれは親の仕事を継ぐため、ひたすら親の敷かれたレールの上を歩んできた。
俺の意志で動いたことは一度もない。
だから俺は悪くない。
そんなようなことを言った気がする。
「…俺も親から勉強勉強って言われてきたから気持ち分かる。でも自分の人生は自分で決めれるんだ!芽斗吏!」
感極まってこの俺を呼び捨てにしたことはこの際許してやる。
しかしどうやら上手くいったようだ。
見ろ、カネの力で屈服させたぞ。
まずは一人。
口角が緩む。

登校を終えると予想通り小貧乏が近寄ってきた。
警戒が解けたように自分の趣味をひたすら話してくる。
内容はバカらしいが、まあいいだろう。
見たか貧乏共、俺はやはりいつでも勝ち組なのだ。
「なぁ瞬、どうしたんだよお前」
中分け貧乏が眉をひくつかせている。
ふん、ざまあないな。
他の連中も小貧乏を心配そうに見ている。
「…なぜ俺がカネが全てだと思うか、お前らにだって先入観ってものがあるだろう。俺の場合は親父にずっとそう言われ続けていたからだ」
全員が驚いて俺の話を聞いている。
バカが、演技に決まっているだろうが。
俺は何としてでもお前達を従わせるぞ。

「………」
「は?」
根暗貧乏が黙ったままハンカチを差し出してきた。
詫びのつもりか、こんな汚ない布切れなんて受け取るか。
「……芽斗吏、お前も辛かったんだな…」
「辛い?そんな話なんてしてないだろ?俺が言いたいことは」
突然目の前を暗がりが覆った。
顔を上げた瞬間、顎貧乏にタックルされた。
思いきり床に背中を打った。
今までに感じたことのない痛みだ。
「貴様…何をする…くっそいてぇ……っ」
「…おめぇ、何で泣いてんだ?」
「テメーが芽斗吏をおもくそ床にぶつけたからだろうがっ!」
小貧乏が顎貧乏に掴みかかろうとするが、体格差があり過ぎて手が届いていない。
それより俺が泣いている?バカバカしい。
乱れた髪を掻きあげると冷たいものに触れた。
雨?室内で?
「これは涙…?なんで…」

[何でだろうな、自分の胸に手を当てて考えてみろ]
誰とも分からない声がした。
頭がぼーっとする。
その後、記憶は途切れた。







目を覚ますと白で配色された室内のベッドで寝ていた。
こんな寝心地の悪くて安っぽい、寝具は初めて見た。
起き上がると根暗貧乏と顎貧乏が居た。
目覚めが非常に悪い。
「具合はどうだ?お?」
「貴様…さっきの無礼、忘れたとは言わせないぞ覚悟しろ」
「いやー何か具合わりいみてーだったから、別の痛みで忘れさせようとしたんだけどよ、俺っち流治療法だ」
「何その荒療治…」
いかん、こいつらのペースだ。
俺はこいつらに復讐することが目的なんだ。
目的を忘れるな。
「つーか何処がいてーんだ?お?」
「ふん、俺は怪我などしてない」
立ち上がって衣服の皺を叩いて直すと、斉木も現れた。
まったく、どいつもこいつも暇人だな。
照橋心美が見当たらないが、まぁいい。
「そうか、じゃあ大丈夫そうだな帰りラーメン食って帰ろうぜ!」
「は?ラーメン?何でそんな下級層なもの」
「だってよぉ、俺達ダチだろうが」
「バカバカしい、カネで動かなかったくせに今さら何で友達なんだよ」
「泣くほどダチが欲しかったんだろ?それにダチになるのにカネなんていらねーよ、そうだろう相棒!」
根暗貧乏の肩を抱いて豪快に笑う。
俺がいつ、友達なんか欲しいと言った。
しかも貧乏な下級層共とだ。
「一つ聞いてやる…お前らの友達になる条件って何だ」
「条件?何言ってんだよ、ガチンコでぶつかったらダチだろーが」
「ガチンコ…?」
何だそれ、こいつらもしかしてただのバカなんじゃねーの。
「…バカだなお前ら…はは、」
こいつら本当に何も考えてないんだな。
バカと天才は紙一重とは言ったものだ。

[いわゆる本音でぶつかった相手とならお前の言う友達になる”条件”に当てはまるんじゃないのか]
[お前の演技も中々だったぞ]

20161220


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ