07/25の日記

02:42
惚れた弱味【2】
---------------
エメットの目の前に有ったのはモスグリーンの制服、では無く…
濃紺の軍服の様なデザインの大きな背中だった。
其の目の前に居る人物は、エメットに迫って居た白刃を防いでくれて居る様で、暴漢の1人と鍔迫り合いをして居るかの様な音がして居た。
突然の出来事にエメットが状況の理解が出来ずに居ると、其の人物は少しだけ此方を振り向きながら突然にエメットの安否を確かめて来た。
其の唐突な問いに、混乱の極みで有ったとは言え「多分」としか答えられなかった自分が恥ずかしくて、動揺は激しくなるばかりだった。
そして、まともに相手の顔を見る余裕も無かった。
だから、其の時は誰が助けに来てくれたのか分からなかったのだが、目の前にある逞しい背中に安心感を感じずには居られなかった。
其れでも、体の痺れによって身動きが取れなかった事を此の人に察してもらえて良かったと思った。
あのままだったら自分は確実に死んで居たと分かるから…


エメット:「…未だ、満足に動かせる状態には戻らないか…」
???:「白ボス、其の儘ちょい待っとり、直ぐに終わらして医務室に運んだるから(笑)」
エメット:「へっ?僕の事、知ってるの?」
???:「声で分かるかと思っとったんやけど…まぁ、其の辺りも後で纏めて説明しますわ…」


未だ満足に動けない事に対して吐いた悪態に返って来た声に、聞き覚えはあるものの、咄嗟に誰か思い出せなかった。
特徴的なイントネーションで話す彼の事を思い出したのは、暴漢を取り押さえた後の事だった。
ジュンサーさんへの連絡位はさせてくれと申し出て、ライブキャスターで連絡を取り手配が終わると暴漢を縛り終えた其の人がエメットの元に戻って来た。


エメット:「連絡、出来たから…」
???:「態々すんません、手間掛けさせてしもうたみたいで…」
エメット:「良いよ…此の位は…其れよりも、君の事を知りたいな…君は、もしかして…」
???:「未だ思い出せんのですね(笑)まぁ、しゃあないか…サブウェイマスターの補佐役を仰せ付かっとる【クラウド】です。思い出せませんか?」
エメット:「…クラウド…あぁ、何時もクダリを探す係りの?」
クラウド:「其れはまた酷い覚えられ様やな…まぁ、間違っても無いんで構いませんけど…」
エメット:「嘘だぁ…じゃあ、一つ確認したい事が…」
クラウド:「…其れは、ジュンサーさんにこいつを引き渡した後でも構いませんか?」
エメット:「えっ…あぁ、うん。其れで構わないよ。」
クラウド:「おおきに(笑)」


少し話して居る内に相手から明かされた【クラウド】と言う名前に内心驚きを隠せなかった。
此方に研修に来た時に鉄道員の中でも一番の古参であると言う彼が、入社したてのサブウェイマスター2人の指導係だったと言う話を聞いた位で、クラウド其の人とは余り接点の無い儘であったからこその驚きだったのだが…
噂でも、彼がそんな能力を保有して居るなんて話は聞いた事が無かった。
其れに、誰よりも周りを気に掛けて、新人のフォローやサブウェイマスターの補佐として立ち回る其の敏腕振りに、来たばかりの頃は特に迷惑を掛けてしまって居る感が強かった物だ…
何かミスが見付かった時にも、大丈夫だと笑い飛ばしてくれる其の姿に助けられた事が多かったのも思い出して、如何して忘れて居たのだろうと恥ずかしく為ってしまった…
其れに、自分達兄弟の能力については国家レベルで箝口令が敷かれて居た様で、イッシュに来てからも不穏な空気に晒される事無く過ごす事は出来て居たが、だからこそ不安な事も多かったのだ…
だから、其の後暴漢をジュンサーさんに引き渡して事情聴取を終えた所で、クラウドに頼んで人の来ない所に連れて来て貰った。
フィーリアスに関する事柄は、出来る事ならサブウェイマスターの2人にすら聞かれたくは無い話だったからだ。
クラウドは其の辺りの事も察してくれた様で、最初にクラウドが暴漢側に攻撃を仕掛けて居た鉄塔の上に連れて来てくれた。
此処ならば、風の流れで話す声は下に居る者にも聞こえないからと、一番高い所迄連れて来てもらって居る途中で、彼が自分より10歳も歳上だとは思えないなぁ、とか呑気に思ってしまった。


クラウド:「さて、此処迄来たら、ちと寒いかも知れんけど…誰にも聞かれとぅ無い話なんやろから、堪忍な(苦笑)」
エメット:「ぅぅん、ありがとう…此処の方が僕も都合が良いから、助かるよ(笑)」
クラウド:「で、儂にどんな事聞きたいんです?」
エメット:「あぁ…うん。あのね…ぁの…其の…」
クラウド:「…?…あぁ、聞きたいんは、もしかしてこの力の事か?」
エメット:「ぅん…察してくれて、ありがとう…( ̄▽ ̄;)」
クラウド:「見た所、白ボスも似た系統の力持っとった様やけど…」


流石は歳上と言う所なのか、言い淀むエメットの様子から聞きたい事を察してくれたクラウドに感謝を述べつつ、何故其の話を聞きたかったのか話し始めた。
エメットは、自分の能力の事や今迄国から受けて来た扱い等、誰にも話せなかった事を訥々と話していった。
クラウドは相槌を打つだけで決して焦らせる事無く、エメットの話を根気強く聞いてくれた。
そんな聞き上手なクラウドに、乗せられる様に胸の痞えを吐き出していったエメットは、話す前よりも随分とスッキリとした顔をして居た。


エメット:「ありがとう…今迄誰にも話せなかったから、無茶苦茶スッキリした…(笑)」
クラウド:「いえいえ、誰彼構わず話せる様な内容や無いし、儂で聞いて応えられる事なら幾らでも聞いたるから、此れからも遠慮無く相談しに来たらえぇよ(笑)」
エメット:「そう、言ってもらえると嬉しいな…(笑)本国に帰ったらまた…多少の期間の間、研究所に軟禁されるんだろうから…」
クラウド:「其れは、かなり…難儀な事やな( ̄▽ ̄;)まぁ、儂は先々代のサブウェイマスターに手を貸して貰えたから五体無事に済んどるんやけどな…(・д・)そうや無かったら、儂も実験体扱いされる事は避けられんかったやろうね…此処で働けてもおらんかったやろうし…」
エメット:「良いなぁ…僕達なんて、親から勘当されたも同然の扱いで研究所に引き渡されて、其れからは研究対象としての毎日…まぁ、知能テストとかでかなり良い点取れてたから、今の職に就く機会にも恵まれたけどさ…」
クラウド:「そうか…こっちに居れたら理解者として側に居てやれるんやけど…」
エメット:「其れは…僕達だって研究対象として本国に戻るのは嫌だけど…我儘が通る程融通が効く国でも無いからね(苦笑)」
クラウド:「何なら…ボス等に頼んでみようか?こっちで残れんか如何か(笑)」
エメット:「えっ?…あの2人もこの能力の事、知ってるの?」
クラウド:「まぁ、今のボス等は先代に1番近い血縁者やし…儂の事も含めて能力の事は聞いとる筈やで?…其れに何より、儂なんかよりもあの2人の方が余程強い力を持っとるからな(笑)儂に相談するよりもあの人達に聞いてもろた方が早いかも知れんな…(´-`)」


そして、クラウドから齎された話で、今回の研修に於いての最大の爆弾が投下された瞬間が此の時だと後に為ってからも思う事に為った。
あのサブウェイマスターの2人も、自分達と同じ系統の力を保有して居るなんて話こそ、青天の霹靂と言うか寝耳に水と言うかな状態だった…
クラウドの話によると、あの2人の能力は僕等の其れとは作用の仕方から異なる物の様に感じた。
僕等の力は、能力を使う相手との信頼関係やフィーリングで発動出来る値が増減する物なのだが…
あの2人の力は、能力を行使したいと望んだ相手が自身の手持ちで無くとも、自分達の意思の元に従わせ、其の力を最大限に引き出し発動出来る物なのだと言う…
話を聞いて思った事は、其の様が正に【絶対王者】の様であると言う事だった。
インゴにも似た様な空気感は存在する。
目の前に居る者に与えるプレッシャーが其の激しい気性故に凄まじい物に為るのは分かって居るのだが、多分あの2人の力は、そんな物の比では無い事が何と無く分かってしまった。
出会った瞬間に感じてしまった感覚とでも言えば良いのか分からないが、胸を掻き毟りたくなる程の【渇望】と【服従】への欲求が自分の中に生まれた事を自覚させられた様なと言えば良いのか…
僕は、あの時確かにあの2人の内の何方でも構わないから、自分の事を所有し隷属させて貰いたいと思ってしまったのだ…
クラウドからすれば、其れも仕方の無い気持ちの流れなのだと言われた。
あの2人の力は、態となのか如何なのかは不明だが、略オフに為る事が無いのだと言われて居るらしい…
其れに、ポケモンに対してだけでは無く、使い様によっては人間に対しても其れなりな力を発揮する為、アレだけのカリスマ性を保持出来て居るのでは無いかと言う話も有るのだと…
然し、あの2人には元々其れなりにカリスマ性は備わって居たのだろうし、其れが自身の保有する力によって底上げされたのだとすれば、あの衝動を起こさせる迄の魅力になり得るのだと素直に思う事が出来た。


エメット:「そっか…2人に聞いて見るのも…一つの手かも知れないんだね…」
クラウド:「あの2人なら白ボスの待遇、何とでもしてくれると思うで(笑)」
エメット:「其の自信は一体何処から来るの?(笑)」
クラウド:「只の勘、ですわ(笑)儂の力、白ボスとはちぃと変わった系統らしいんでね(´д`)」
エメット:「変わった、系統?」
クラウド:「儂が一番の力を発揮出来るんは、相手のタイプ技を真似して放てる所なんよ(笑)」
エメット:「相手のタイプ技を真似して?」
クラウド:「そや(笑)白ボスの所でフィーリアスて呼んでる此の力で、自分の体と融合出来るんは儂の場合は手持ちの子だけなんやけど、其の状態でバトルした時の相手のタイプ技をそっくり其の儘自分の物に出来るっちゅうめっちゃ優れ物なんよ(笑)しかも、其の後のバトルでも制限無く使えるから使い勝手も結構ええしな(笑)」
エメット:「其れは、結構便利かも…僕の方はインゴもなんだけど、融合した子の覚えてる技と其れ以外の手持ちの子達の技、其れに其の子達が覚えられる範囲の技が出せる位だから…如何してもタイプ的に偏りが出ちゃうんだよね…1度に何体もの子達と、同時進行でフィーリアスは発動したり出来ないし…(´-`)」
クラウド:「そうなんか?其の辺りもあの2人は特別っちゅう事なんかな…1度に何処迄融合するんが可能なんかは知らんけど、一回だけ5、6体纏めて融合しとった事が有ったんやけど…其れは可能な事なん?」
エメット:「ぅわぁ…其れは多分インゴでも無理だね…一対一でも均衡保つのがキツイのに、6体同時とか本気で冗談抜きで無理だよ…(( ;゚Д゚))ブルブル 」
クラウド:「そうなんか…やっぱり、そう思うて見るとあの人等、普段ちゃらんぽらんな所あるけど、やっぱり凄いんやね(笑)」
エメット:「そう言うクラウドも、助けてくれた時とか凄い、恰好良かったよ…(照)」
クラウド:「…ありがとさん。其の言葉だけで、助けた甲斐があったっちゅうもんやな(笑)」
エメット:「本当に助かったよ(*´ω`*)僕だけじゃあの数、防ぎ切れてたか分からないし…」
クラウド:「白ボスのアーケオスがボイスレコーダー持って儂の所に転がり込んで来た時は、何かと思ったけどな…ホンマに間に合って良かったわ(笑)」


そう言って笑い掛けて貰える状況に、多少のドギマギ感を味わいながら、エメットはクラウドと共にギアステーションに戻った。
戻る道中、フィーリアスの副作用のせいでフラつく体をさり気なく支えてくれた事も有難い事だった。
何時も自分の事を実験体としか見てくれない国の対応とは明らかに違うクラウドの優しさに、エメットは心の奥底で惹かれて居る事に気付いて居た…
然し、この想いは禁忌であると同時に到底周りの人間に受け入れて貰える物でも無いと言う事も分かって居た。
この想いは、隠して居なければならない。
伝えてはならない。
其れだけは確かで、自分の気持ちを整理して本国に帰るつもりだった。
だが、イッシュのサブウェイマスターの発言権は、自分達の本国のお偉いさん方を黙らせるだけの力があったらしく、エメットとインゴはイッシュで暮らしても良いと言う事に為った。
インゴは其の事を凄く喜んで居たけれど、エメットは少々複雑だった。
自分の自覚してしまった想いに、踏ん切りを付けて帰る気で居たせいかも知れない…
クラウドの笑顔が眩しくて、彼の前では上手く笑えない自分に気付いてしまった。
今迄の笑顔も本心からでは無かったと露呈してしまいそうで怖かった…
クラウドの声が聞こえただけで、心臓が早鐘の様に鼓動を刻み出すのを止められなくて…
何時しか、クラウドと2人きりに為るシチュエーションや其れになりそうな状況から逃げ出してしまう様に為って居た。
其れは、無意識にだったり意識し過ぎてしまったからだったりするのだが…
周りの者から見れば、いきなり変わった其の対応に疑問を抱いた様だったが、本国から此方に来たばかりで色々と有るのだろうと遠巻きに見るだけに留めてくれて居た。
其れが今は有難くもあったが、インゴやサブウェイマスターの2人からは何度かキチンと話し合いをした方が良いと言われて居た。
言われ無くとも、そんな事は自分でも分かって居た。
自分の中の感情を悟られたく無くて、クラウドからいきなり距離をとってしまった自分に、クラウドは変わらずに接しようとしてくれて居た。



iPhoneから送信

日記を書き直す
この日記を削除

02:28
惚れた弱味【エメクラ】
---------------
其の状況に陥ったのは、偶然と油断が招いた事だった…
駅構内の見回りの途中で遭遇した不審者相手に、1人で声を掛けたのが抑もの過ちだったのだと気付いた時には、其の仲間であろう者達に取り囲まれて居た。
取り敢えず危害を加えられる前に彼等の要求を聞いて見た所、彼等はポケモンバトルでは無く、肉弾戦で僕と決着を付けたいのだと言って来た。
其の申し出を受けて、僕は少々と言うかかなり困った…
其の理由は、僕が今居るのが母国のユノヴァにあるバトルチューブでは無く、イッシュにあるバトルサブウェイである事に起因した。
ユノヴァのバトルチューブでは、トレインを用いて行うポケモンバトルと、もう一つトレインを用いず行うイアバトルと言うバトル形式が設けられて居た。
イアバトルとは、ポケモンは一切使用せず、武器を用いてお互いの命を賭けバトルを行うと言う物で、ユノヴァのバトルチューブでは正式に許可されて居るのだが、イッシュのバトルサブウェイでは武器の携帯すら許可が下りない為にこのバトル形式は勿論許可されて居ない。
そうは言っても、イアバトルにも銃や剣等の武器を用いて行う形式と、重火器は用いず己の身体一つで行う形式の2パターンがあるのだが、今回求められた形式は如何やら後者の様で…
其れならば、場所を移せば彼等の希望に添えるかも知れなかったのだが、生憎とこのイッシュと言う土地は刃傷沙汰を酷く厭う土地柄らしく、兄と言い争いをして居ただけでジュンサーさんを呼ばれた事がある程だった。
其の為、イアバトルを行う事は固く禁じられて居るのだが…
このままでは、悪戯に彼等のサンドバッグに身を落とさねば成らなくなりそうなので、少しだけ手荒だが強制的にお引き取り願う事に決めた。
僕は198cmの身長で体重が65kgしか無い為にかなりモヤシっ子に見られがちなのだが、この職に就いた時から兄と身体を鍛える事だけは妥協した事が無かったから、護身術には其れなりに自信があった。
僕の居る母国のユノヴァでは、ナイフを持った暴漢相手に素手で立ち向かわねばならない状況もざらに起こるから、今回の様に相手も素手ならば格段に此方が有利に立てると思った。
其れが、自分がしてしまった過ちであり慢心から来た油断だった…
其の油断が、今の絶体絶命の窮地に自分を追い込む事に為って居るのだけれど…
一応構内だと直ぐに制止が入ると言う理由を付けて、人の目に付き難いコンテナ置き場も兼ねて居る所に場所を移して話を付ける事にしたんだけど…


エメット:「ちょっとさぁ…君達何人掛かりで来るのさ…(´_`)」
暴漢一:「何人で来てたって構わねぇだろうが!!」
暴漢ニ:「俺達はお前をボコれりゃそれで良いんだよ!!」
エメット:「何と無くそんな気はしてたけどさぁ…(´_`)君達、僕の事何だと思ってる訳?」
暴漢ニ:「何だと思ってるかって?地下に籠ってポケモンバトルするしか能のねぇ根暗野郎って所かな(笑)」
暴漢一:「それ言えてる(笑)」
エメット:「そぅ。分かった…君達の言い分は僕を好きなだけ殴りたいって事なんだよね?」
暴漢一:「やっと俺達のサンドバックになる決心が付いたのかよ(笑)」
エメット:「一方的に殴られるのは癪に触るから、こっからは完全にプライベート…只の根暗野郎だって馬鹿にした事、後悔させてやるよ…」
暴漢ニ:「随分とヤル気だね〜(笑)」
暴漢一:「お兄さんに勝機が有ると思ってるんだ(笑)残念だよね〜(笑)」
エメット:「可能性が0じゃなきゃ、其れは諦めるべき事柄じゃ無いんだよ。」
暴漢ニ:「良く分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ!!」


そう言いながら拳を突き出して来る相手と距離を取りながら、エメットはコートと制帽を取りサブウェイボスのエメットでは無く、ユノヴァでは少しは名の通った【キュレムのエメット】として相手をする事にした。
通り名の由来については分からなかったが、如何やら自分のイアバトルに於ける戦闘スタイルが余りにも冷血漢と言う言葉を連想させる類いの物だったらしい、と言うのは何処かで耳にしたのだけれど…
兄は【イベルタルのインゴ】とか言われてるみたいだから、僕の方が未だマシな気がする。
相手は最初の頃は10人位だった筈なんだけど…
何れ程相手にしても敵の数が減らない事に疑問を抱いて、正確な人数の把握をしようとコンテナの上に登った時に見えた敵勢力の数に、流石に1人で相手取る事に無理を感じ出した頃…
敵の後方から不穏な光が見えた。
まぁ、この頃には素手対素手では無く、素手対鉄パイプとかに為ってたからルールなんて無用の様相を呈してた訳だけど…
流石にポケモンの遠距離技【かみなり】【でんげきは】を人間に対して出されるとは思ってなかったし、そこ迄根性が腐ってるとも思ってなかった…
僕は何処かで、イッシュの人間はそんな事をする筈が無いって信じたかったのかも知れない。
コレがユノヴァだったら、もっと違う対処も出来たのだろうけど…


エメット:「くそったれ共が…僕が何かした?って言うか、ここ迄して僕の事潰したい訳?」
暴漢一:「あぁ、潰したいね…」
暴漢ニ:「右に同じ。」
エメット:「見覚えのある顔では無いんだけど…(´_`)僕に何らかの恨みを持ってるのは確かみたいだね…」
暴漢ニ:「俺達の事覚えてねぇんだ…」
暴漢一:「ふざけんなよ…アレだけコケにした癖に…」
エメット:「僕がそこ迄コケにするなんて余程の事をされた相手だったんだろうけど…居たかな…記憶に無いって事は無い筈なんだけど…」


そこ迄思考を巡らせた所で、直感的に危険を察知して後方に跳躍した其の直後に【あなをほる】の奇襲を掛けられたのを確認した。
寸での所で気付いて回避行動を取れた為に、直撃は免れたものの、自分が立って居た場所から敵が放ったポケモン【ペンドラー】が顔を覗かせて居るのを見て、本気で自分の命を取りに来て居るのだと感じた。
自分の今の手持ちは、後の業務が構内の見回りだけだからと【アーケオス】と【ミロカロス】しか居らず、更には見回りの直前迄バトルを行って居たから体力的にも万全のコンディションとは言えない状態だった。
しかも相手の手持ちの推測が当たっていれば、自分の手持ちを一撃で沈められる技を持つタイプか苦手とするタイプが居る事は間違いなく…
さっき【かみなり】や【でんげきは】を放った相手が此方に来た場合は下手に【ミロカロス】を出す事は出来ない…
そして【アーケオス】はいわとひこうの両タイプで多彩な技を覚えてくれて居るけれど、だからと言って弱点が無い訳じゃ無い…
コンディションが万全の状態なら、問題無く出せたかも知れないが…
矢張りギリギリ迄クダリと手合わせをして居たのが、不味かったのかも知れない…
今更考えた所で手遅れな考えばかりが頭を巡ったが、今は増え続ける敵がギアステーション内に入り込む事だけを阻止出来る様に立ち回る事にした。
密かにアーケオスに伝言を吹き込んだボイスレコーダーを持たせて、ギアステーションの中に居る職員、若しくはサブウェイマスター達に渡す様に指示を出して、構内に向かわせた。
アーケオスには、渡せるのならばギアステーションの誰でも良いと伝えて有るから直ぐにでも異変には気付いてもらえるだろう…
後は、自分が其れ迄持ち堪えられるか、と言う所だろうか…


エメット:「チッ…面倒だな…」
暴漢一:「如何したよ?さっきから逃げてばかりじゃねぇか(笑)」
暴漢ニ:「俺等の相手してくれるんじゃ無かったのかよ?(笑)」
エメット:「この技は、使ったら上からお叱りが来るんだけど…此の際、仕方ないよね(´_`)後でちゃんとした報告書と始末書書いて出せば問題無いかな…」
暴漢一:「一体何を言ってんだよ(笑)」
暴漢ニ:「此の数相手に未だ勝てる気なんだ?(笑)本当に頭イってんじゃないの?」
エメット:「ミロカロスだけで如何にかしなきゃ成らないのがちょっと痛い所だけど…僕との相性は抜群の子だから大丈夫だよね(* ̄▽ ̄*)…今から其の耳障りな声、黙らせてあげるから(笑)」


そう言った後、エメットは堆く積まれたコンテナの上に登り、手持ちの【ミロカロス】を呼び出した。
突然の呼び出しにも動じた風無く、辺りの状況を一瞥しただけで何を望まれて居るのか把握してくれたらしい。
本当に出会った時から変わらず賢しい子だと、エメットはミロカロスの体を撫でながら微笑み、そう思った。
エメットがしようとして居る事は、自身の本国でも禁止事項にされて居る物で多用すれば命の保証も出来ないと言われる程に危険な物だった。
其れは【フィーリアス】と呼ばれるポケモンとの融合を可能にする能力の事で、能力的には融合したポケモンの身体能力、覚えられる技、特性なんかを自身の物として発揮出来ると言う物なのだが…
其の中にはポケモンの言葉を理解し、ポケモンにも人語を解させる程の影響があるらしい…
然し、其れらは自分の手持ちとの信頼関係や元々のフィーリングが合わないと徒らに寿命を縮める事になると言われて居る物の為、其の能力事態忌み嫌われる様に為って居るのだと言われて居た。
嘗てはシャーマン等がそう言った能力者だったのでは無いかと言われて居たが、彼等は短命で今でも存命の者は皆無で有ると言われて居る為に、確かめる術すら無かったのだと言う…
然し、エメットとインゴは其の忌む可き能力に目覚めてから、幾度と無くフィーリアスを行って来たが体に弊害を齎す事無く今迄来れて居る為、国から研究対象として見られて居る部分が大きかった。
だからこそ、本国の人間達は実験施設以外では此の能力を使われる事を酷く嫌がった。
だが、そんな能力を使わずともエメットもインゴもバトルの腕等が優れて居た為に、結構制約を受ける事無く今迄過ごして来れた方だと言えた。
然し、此の能力事態、年齢と共に衰える物だと考えられて来たのに対して、エメット達は年齢が上がるに従って能力値は上昇し続けて居り、研究対象から抜けられる日は未だ未だ来そうに無い。
だが、そんなエメット達でもオールマイティに全てのタイプとフィーリアスが発動出来る訳では無く、エメットは【水】【鋼】【電気】【岩】【飛行】【虫】【ドラゴン】【ゴースト】【火】【地面】【フェアリー】【エスパー】【氷】【格闘】の14種類のタイプに対してフィーリアスが発動出来るのに対し…
兄のインゴは【ノーマル】【悪】【毒】【ゴースト】【地面】【火】【飛行】【ドラゴン】【鋼】【電気】【草】【虫】【エスパー】【格闘】の14種類のタイプに対してフィーリアスが発動出来るのが分かって居る。
一卵性の双子である事から、発動出来るタイプが被って居る物もあるが、基本的には自分達が手持ちに加えたポケモンのタイプが最初にフィーリアス対象として認識されて居る様だった。
エメットの手持ちは【アイアント:鋼、虫】【ミロカロス:水】【アーケオス:岩、飛行】【ガブリアス:ドラゴン】【デンチュラ:虫、電気】【シビルドン:電気】の6体がメインの面子で…
インゴの手持ちは【シャンデラ:ゴースト、火】【オノノクス:ドラゴン】【ドリュウズ:地面】【ウォーグル:ノーマル、飛行】【ジャローダ:草】【イワパレス:岩、虫】の6体がメインの面子に為って居る。
こうして見て見ると、発動出来るタイプが手持ちに左右されて居るのが良く分かる。
エメットとて、此れからもずっと無事で居られる保証が無い事位分かって居た。
無闇に能力を行使する事にメリットが無い事も…
其れでも、大好きな此の場所を護りたいから、自分の評価が地に落ちても構わないとエメットは【ミロカロス】に手を翳して、笑いかけた。
其の笑顔はまるで、涙を流さずに泣いて居る様だと、ミロカロスに連想させる様な痛々しい笑顔だった。


エメット:「ミロカロス、此れで君とバトル出来るのも、指示出せるのも、最後に為っちゃうかも…ゴメンね(´・ω・`) 」
ミロカロス:「そんな事、今更でしょ?最初に出会った時から、こんな運命になるかも知れないって、散々話し合って来たじゃ無い(笑)」
エメット:「流石、僕が心底惚れ込んだだけあるね…ありがとう、僕の手持ち史上最上級の女王様(笑)」
ミロカロス:「当たり前でしょ?私を誰だと思ってるの…貴方の情けない所なんて嫌と言う程見て来たんだから、今度は恰好良い所を見せ付けて、私の事を貴方の虜にして見せなさいな(笑)」
エメット:「其れは、難しそうな注文だね(笑)…だけど、ありがとう(*´ω`*)やっぱり君を連れて来てたのは、正解だった。最後のバトルの相方が君だなんて、なんて運命だろうね(笑)」
ミロカロス:「フフフ、全くね(笑)まるであの時のバトルを彷彿とさせる様な物だものね(笑)」
エメット:「今から楽しみだよ(*´ω`*)…そろそろ、行くよ…」
ミロカロス:「えぇ…此れで本当にお別れかも知れないから…最後迄貴方の手持ちで居れた事、最前線で貴方の事を支えられた事に、感謝を言わせてね(笑)」
エメット:「…ミロカロス…」
ミロカロス:「しんみりしないでよ…調子出なくなるでしょう(笑)」
エメット:「ゴメン…やっぱり君は最高のパートナーだったよ(笑)リミッター解除…フィーリアス、限定発動の規制を解除…ミロカロスとのフィーリアス発動…」
ミロカロス:「主人、エメットからの申請を全面的に許可、フィーリアス開始。」


エメットがそう言ってフィーリアスを開始した直後、コンテナの下の方に向かって火属性の技の一つである【やきつくす】の攻撃が放たれたのを視認した。
一度開始したフィーリアスを途中で取り止める事は不可能な為、エメットはミロカロスとのフィーリアスを続行したのだが、其の間も下の方では暴漢達の断末魔にも似た叫び声が引っ切り無しに聞こえて居た。
ミロカロスとのフィーリアスを終えたエメットは、手始めに眼下のフィールド全体に効果を齎す天候技【あまごい】を発動させた。
辺り一帯を燃やし尽くす様な勢いだった炎の火の手は、【あまごい】のお陰で降り出した雨によって其の勢いを徐々に弱めて居る様だった。
其の様子にエメットは、取り敢えずは此れでコンテナ類が焼失する事は無く為ったと胸を撫で下ろし、先程の攻撃を放った人物を探し始めた。
其の人物はギアステーションに程近い所から攻撃を放った様にも見えた為、職員の誰かなのでは無いかと思ったのだが、其れにしては辺りにモスグリーンの制服姿の人物は見当たらず…
エメットは自分の見間違いだったのかも知れないと考えもしたのだが…
直ぐに其の考えが間違って居なかった事を知る。


エメット:「何…?アレ…って、まさか…僕達の同胞…?」
ミロカロス:「エメット?」
エメット:「ミロカロス、見える?彼処の鉄塔の上に居る人…」
ミロカロス:「…えぇ、見えたわ。」
エメット:「同胞…なのかな?」
ミロカロス:「分からないわ…でも、アレがギアステーションの職員の誰かだって事は確かね…」
エメット:「なら、あの人は僕達の敵では無いね(*´ω`*)」
ミロカロス:「少なくとも今はそうでしょうね。」


ミロカロスがそう言った後、鉄塔の上の其の人が眼下の敵に対して火属性の技である【はじけるほのお】を発動させるのを見て、エメットは驚きを隠せなかった。
其れは、あの人物が自分と同じか同じ系統の能力の持ち主であると言う事の証明に他ならなかったからだ。
ポケモンの技を模倣し、放つ事等技をコピー出来るポケモンならば出来る芸当だが生身の人間が出来る筈が無いのだから…
フィーリアスを終えて居たエメットは取り敢えず、鉄塔の上の人物の事は置いておいて眼下の敵に集中する事にした。
最初に【あまごい】を発動させて居たので、エメットは不敵な笑みを隠しもせずに更なる技【ぼうふう】を放った。
暴漢達は、僕等2人の攻撃にすっかり戦意を喪失してしまった様で、バチュルを散らす様に逃げ去って行ってしまった。
せめて1人でも捕まえてジュンサーさんに突き出して遣りたかった所だけど、事なきを得る事が出来ただけ良しとして今回は引く事にした。
エメットが、ミロカロスとのフィーリアスを解除した瞬間、背後で何か不穏な気配がした気がした。
其れが何だったのか確認しようと振り返った先に有ったのは、視界いっぱいの自身に迫って居る抜き身の刃だった。
其の奇襲に、エメットは咄嗟に反応出来なかった。
フィーリアスを解除したばかりで大きな隙が有った事も原因の一つだろうが、何よりもフィーリアスを発動して居る間に使用した技によっては解除した後に副作用の様な物が出る物もある。
今回は相手よりも優位に立って居ると言う油断から安易に其の技を発動させてしまった事が原因と言えた…
【あまごい】等の天候其の物を操る技を発動させた場合は、解除した後に痺れ等の副作用が出る事をうっかり失念して居たのだ。
エメットは、自分の命が此処で終わるのだと瞬時に考え、腰のホルダーからミロカロスの入ったモンスターボウルを咄嗟に外し、自身からなるべく遠くに放った。
そして、来るべき衝撃に備えて目を固く閉じた。
然し、待てど暮らせど予想して居た衝撃がエメットの体を襲う気配は無く、恐る恐る目を開けて見ると、予想外の光景が広がって居た。



iPhoneから送信

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ