長編・私は貴方の妹です!

□コウにい
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また深く眠った。いろいろな疲れが溜まっていたんだと思う。
今度は何の夢も見なかった。ただ、暖かい闇に包まれていた。

「ん・・・」

「あ、起きた」

無意識に、握られている手をきゅっと握り返した。その手の少し低めの温度、今まで自分が恐れていたヴァンパイアの温度が、何故かとても心地良かった。

「メイちゃん、起きたんじゃないのー?」

穏やかにまどろんでいた私は、その声にはっと意識を覚醒させた。目を開けると間近にコウの顔。このシチュエーションに既視感をもったが、気のせいだろう。

「コウさま!」

驚いて飛び退こうとするが、ベッドに横たわっているのでどこにいけるはずもない。結局目を丸くして、目と鼻の先のコウを見つめるしかなかった。

「ふふ、照れてるの?可愛い」

コウは私の鼻にちゅっと軽くキスを落として離れていった。

「うん、随分顔色良くなったね。気分はどう?」

「は、はい・・・いいです」

本当は起き抜けに驚かされて気分も何もあったものではないのだが、確かに体調が良くなったのも事実なので頷いておいた。

「そう、良かった。・・・ところでさ、さっき俺のことコウさまって呼んだよね?」

「はい」

先程起きた直後のことを言っているのだろう。

「あのさ、俺、メイちゃんのお兄ちゃんだって言ったでしょ?さま呼びするのっておかしくない?」

コウの言う通り、兄のことを兄さまと呼ぶときはあるだろうが、実名にさまをつけて呼ぶのは明らかに他人行儀である。

「だからさ、俺のこともコウにいって呼んでよ」

コウは眩しいほどの笑顔で言うが、一方で私は戸惑いを隠せない。ルキは幼い頃に接していたから昔の呼び方がつい定着してしまっただけで・・・本来ヴァンパイアをそのように気安く呼ぶことは私にはできなかった。

「申し訳ありません、コウさま」

言外に無理だと伝えると、コウは明らかに機嫌を悪くした。

「えー、なんで?ルキくんのことはそう呼んでるのに。それに敬語もやめてよ」

「ですが・・・」

相手はヴァンパイア。そう思うだけで、自然と萎縮してしまうのは癖のようなものである。今更簡単に敬語を外すことなどできない。

「・・・ねえ、何度言ったらわかるの?俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」

そう言ったコウの声色は、今までとは全く異なっていた。相手を脅すような声。暴君の声。・・・私の実の兄たちと、同じような。
怯える私に気がついたのだろうか、コウは煽られたように怒りをあらわにした。

「なんでそんなに怯えてるの?俺が怖い?」

「そんなことは・・・」

しかし、私はコウに恐れを抱いていた。優しくしてくれはいたが・・・やはり本質はヴァンパイア。私を軽蔑し、虐げる存在なのだと思った。

「・・・なんだよその目。なんでそんなに怖がってるんだよ!」

無意識にベッドの中でコウと距離をとっていた私は、腕を掴まれてコウの側に引きずり戻された。急に力を入れられてバランスを崩した私は、コウにされるがまま・・・気づいたらコウの胸に抱きしめられていた。

「っ」

「だったらいい。こうしてやる・・・」

コウの吐息が耳に当たる。反射的にコウを押し返すが、半分人間の私が彼に勝てるはずもなかった。
そして、あの痛みが・・・実の兄たちに屈辱と絶望とともに覚えさせられたあの痛みが、再び首筋を刺した。
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