長編・私は貴方の妹です!

□新しい兄
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「突然奪うようなことをしてすまなかったな。驚いたか?」

私はルキたちに連れられ、会場の外のバルコニーで夜風を浴びていた。

「いえ、大丈夫です・・・」

私はと言えば、待ち望んていたはずのルキとの再会に何を話していいかわからず、ただ尋ねられたことに言葉すくなに答えることしか出来なかった。

「メイちゃんも大変だよねー、あんな最悪の奴らのところにいなきゃいけないなんてさ、さすがに同情するよ」

華やかな青年は私のことを知っているようで、私の反応を意にも介さず明るく言い放った。

「あいつらには何もされなかったか・・・いや、あいつらのことだ、されていない訳がないな。すまない」

ルキの質問に一瞬身を固くしたが、直後に謝られてどうすればいいか分からなくなった。もう随分長い間会っていないから距離感がわからない上に、あの頃と違って私は身分の差というものを理解している。
ルキたちも兄たちと同じれっきとしたヴァンパイアなのだから、きちんとかしこまらなければならないのだ。

「いえ、大丈夫です、私は卑賤の身ですから、仕方のないことです」

「そんなことない・・・メイさんは何も悪くないのに、そんなのおかしいよ」

包帯をまいた青年が、たどたどしく慰めてくれた。彼らが誰なのか私は知らないが、ヴァンパイアらしくなく、規格外に優しい方々のようだ。

「ご親切にどうもありがとうございます・・・」

「おい、そのめんどくせえ敬語どうにかなんねーのかよ?」

「はい?」

いらついた声をあげたのは大柄な青年だった。体格と同じく声も大きいらしい。

「そうだな。お前、幼い頃は俺に敬語など使っていなかっただろう」

ルキの指摘に、恥ずかしくなって俯く。あの時はまだなにもわかっていなかったから敬語も使わなかったし、ルキ兄などと失礼な呼び方をしてしまっていた。
本来ならば許されることではない。

「駄目です。私は・・・その、ハーフヴァンパイアですから。恐れ多いです」

「・・・」

恐縮すると、沈黙が降りてしまった。なにかまずいことを言ってしまっただろうかと、もう一度口を開きかけた時、ルキがため息をついた。

「・・・お前たち、言ってもいいな」

「この子にならいいんじゃないかな」

「ルキがいいなら俺はいい」

「・・・うん、いいと、おもう」

「?」

ルキは三人の青年から了承を取ると改めて私に向き直った。

「俺たちは純血のヴァンパイアではない。元は人間だ」

「っ」

思わず声にならない声が漏れた。エデンに出入りできるほどの身分なのだから、さぞ名のある貴族の方なのだと思っていた。

「こいつらは皆、人間として死にかけていたところをカールハインツ様にヴァンパイアにして頂いたんだ。だからお前が思うような大層な身分ではない」

「つーことだから、んな畏まんなよ。こっちがめんどくせえだろ」

口調はきついが、大柄な青年は人の良さそうな顔でにかっと笑っていた。ほかの青年たちも同じような笑みを浮かべている。
・・・もしかしたらこの方たちは、私と似たような苦しみを抱えているのかもしれない。

「まあ、そのうち慣れるだろう。・・・では、少し遅れた感はあるが、弟たちを紹介しよう」

この謎の青年たちは、どうやらルキの弟だったらしい。

「まあ血は繋がっていないがな。次男のコウだ」

元々人だったとのことだし、彼らにも複雑な背景があるのだろうか。
ルキは先程から明るくて華やかな青年に目を向けた。

「初めましてメイちゃん!無神コウです!一応アイドルやってるんだけど、メイちゃんはそういうのあんまり知らなさそうだね・・・」

「申し訳ありません・・・」

だからどこかしらきらきらとしたオーラが漂っていたのだろうか。

「いや、謝ることじゃないよ!これから知ってもらえばいいし。よろしくね!」

ぎゅっと手を握られた。握手、というやつだろうか。こんなに躊躇いなく好意的に私に触れるのは、ユイ以外にはいない。彼の笑顔がとても眩しかった。

「次は三男のユーマだ」

「おう、よろしくな!」

大柄な体格にふさわしく、彼、ユーマは豪快に笑った。一見怖そうに見えるが、彼らと同じく、本当は良い方なのかもしれない。

「よろしくおねがいします・・・!」

「おうよ」

「っ!?」

挨拶を返すと気を良くしたのか、ぐしゃっと髪を強引にかき混ぜられた。髪が乱れた筈なのに、何故か喜びがあふれる。

「最後に、末のアズサ」

「よろしくね・・・メイさん・・・」

最後に紹介されたのは包帯をまいた青年だった。前の二人などとは対照的な性格らしく、気が弱そうで、うっすらと微笑んでくれている。

「よろしくおねがいします」

「俺、メイさんとずっと会いたかったんだ。だから、会えて嬉しい・・・」

その言葉はどこまでもまっすぐで、私の心に染みて、私はまともな言葉を返すこともできなかった。

「一応俺も話しておこう。長男の無神ルキだ。お前が幼い頃に会ったきりだな」

「はい、ルキさま。その、当時は、大変お世話になりました」

彼にはいろいろなことを教えてもらった。一般知識から、本の面白さ。弱者が虐げられなからも生きていく術。そして何より、彼は私を差別しなかった唯一のヴァンパイアだった。その出会いは一瞬で、まるで幻のようだったけれど、私は決して忘れることはできない。

「・・・敬語はいいと言っただろう。それに何故敬称がついているんだ」

「それは・・・」

「メイ、俺に畏まる必要はない。あの時教えてやったことはもう忘れてしまったのか?」

「・・・・・・忘れてない、よ。・・・ルキ、にい」

「それでいい」

ルキの満足げな微笑みに、なんだか私までふんわりとした気分になった。

「へえ、笑うとなかなかいい顔するじゃねえか、お前」

「っ」

ユーマの指摘に、ほんの少し、顔が熱くなったけれど。


「それで、どうして私をつれてきてくれたの?ルキにい」

幼い頃はルキに敬語など使っていなかったから、一度外れてしまえばそれがもう自然だった。

「いや、お前が正式に逆巻の妹になると聞いたからな。心配になって来てみれば、思っていた通りだった」

「だから、舞踏会の間だけでも助けてあげられないかなーって。ね、アズサくん」

「うん・・・メイさん、可哀想・・・」

コウとアズサがルキの言葉を継いだが、私には全く聞こえていなかった。それよりも、ルキの発言が私の頭から離れない。

「私が正式に、逆巻の妹に・・・?」

「今日がその発表の場なんだろう?」

「・・・・・・・・・・・・」

聞いてない。そんなの聞いてない。

「・・・もしかして、知らなかったの・・・?」

「はい・・・」

そもそもハーフヴァンパイアとして育てられてきた私が何故いきなり逆巻の人間になるのか。一体お父様は何を考えていらっしゃるのか。

「うわー、それを俺たちの口から聞かされるって・・・メイちゃん可哀想ー」

コウが明らかに同情してくれるが、私はそんな場合ではなく混乱していた。今まで卑賤の身として過ごしてきた私が、いきなり貴族に。

「・・・まあそんな悩んでも仕方ねーだろ!心配すんなよ」

驚愕に無言でいると、またぐしゃぐしゃとユーマに髪をかき混ぜられた。

「そうだ、決まってしまったことは仕方ない。お前が逆巻の人間になることで面倒事は増えるかもしれないが、いざという時は俺たちを呼べばいい」

「・・・うん、俺たち・・・助けに行くよ」

そう言って無神兄弟は朗らかに笑ってくれた。一方私は、涙をこらえるのに必死である。

「どうしてそこまで私を助けてくださるのですか」

「・・・うーん、俺たちも昔いろいろあったからね。なんか放っておけないっていうか。なによりルキくんの妹ってことは、俺たちの妹ってことだからね!」

コウの言葉に、ユーマとアズサも肯定の意を示す。

「・・・みなさん・・・」

「みなさんじゃないでしょ、お兄ちゃん!」

もう、何を言っていいのかわからなかった。


今日メイには、血は繋がらないけれど、とてもとても優しいお兄ちゃんが、できました。
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