長編・私は貴方の妹です!

□忘れ去られた記憶
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ーーー一方その頃逆巻邸。

「・・・つまりライト、お前は無神の野郎に迫られてる無表情の声を聞いたってのかよ」

「うん、そうだよ。可愛かったなあ、んふ」

アヤトの質問に、ライトは恍惚とした表情で答えた。経緯を説明する上で、ルキに翻弄されるメイの声を思い出し、興奮していたのだ。

ここ、逆巻のリビングには珍しく兄弟全員が集まっている。元々ソファで寝ていたシュウを除き、ライト様々な機転を利かせて兄弟たちを集めたのだ。

「・・・で、そのようなことを私たちに伝えて、一体貴方は何をしたいのです?」

レイジが苛立たしげに眼鏡を上げて言う。彼らはライトによって、メイが今どのような状況にあるかを聞かされていた。ライトはメイに密かにつけた使い魔によって彼女らの声を盗聴していたのだ。

「まあまあ、すぐ説明するから焦らないでよレイジ。そろそろ妹ちゃんを迎えに行こうと思って、使い魔に妹ちゃんのところまで案内させようとしたんだ。そうしたらわからないって言ってさ」

すると、スバルは元々顰めていた眉をさらに厳しく寄せた。

「はあ?なんでわからねえんだよ。使い魔があいつのあとをつけて、ちゃんと盗聴器まで持って帰ってきたんだろ」

スバルはいつまで経っても帰ってこないメイに痺れを切らして、兄弟だけで人間界に帰還した時からずっと荒れている。

「それがさあ、本気でわからないみたいなんだ。多分、魔力でも効いているんだと思うんだよね」

「魔力?無神の奴らが使い魔に気がついて、道をわからないようにしたっていうんですか?」

「そんなまどろっこしいことするくらいなら、使い魔殺すだろ、普通」

馬鹿にしたカナトの態度に、アヤトが賛同するように言葉を重ねた。

「・・・恐らく、自動的に発動するようなものでしょう。例えば、彼らの家に何か細工がされているとか」

レイジの発言に、一同が納得したような表情を見せた。それならライトの使い魔が生還したことにも合点がいく。

「それでね、皆には愛しい妹ちゃんを助ける手伝いをして欲しいと思って」

これがライトの言いたいことだった。彼女が無神にさらわれてから今日まで、兄弟は一部を除いてメイを探してはいなかった。本来であればライトが簡単に見つけ出すところなのだが、それも難しそうなので兄弟も駆り出そうという魂胆だ。

「はあ?なんで俺があんなやつ探さなきゃなんねえんだよ」

アヤトは心底不機嫌そうである。スバルだけではなく、彼らは皆程度の差こそはあれ不機嫌だった。理由は明白、メイである。それなのに、彼らはメイを探そうとしない。殆どが見栄を張っているのだ。

「・・・そうだ。あんなやつ、放っておけばいいだろ」

そんなこと言って、スバルくんはこっそりあの子のこと探しているくせに。
ライトは言葉を飲み込む。彼らをメイ捜索に向けさせるためには無用な発言だ。

「そんなこと言わないでよ。無神くんちに負けたままでいいの?」

本当はメイを探したいくせに、見栄を張っている。それならば、同じく彼らのプライドを刺激させるような方向に話を持っていけばいい。

「負ける?なんでだよ」

人一倍、一番であることに敏感なアヤトが食らいつく。

「だってそうでしょ?家にいた女の子が攫われちゃったんだよ?それを放っておくって、はたから見たら泣き寝入りだと思うんだけど」

「はっ、くだらない。そんなことを言って、ただ自分が彼女を欲しいだけでは、」

そこでレイジの言葉が遮られた。大きな扉の音がして、入ってきたのはぐったりした様子のユイだった。あの日からユイは必死にメイのことを探し続けている。雨の日は全身がびしょ濡れになるほど歩き続け、転んで怪我をして帰ってきたこともあった。ユイの表情が浮かないところからも、結果は誰もが予想できた。

「・・・メイ、帰ってきてない?」

「・・・いえ」

ユイの縋るような質問にレイジが静かに答えると、ユイは絶望しきった顔で部屋へ戻っていった。その様を、兄弟たちは神妙な面持ちで見送る。

「あんなに必死で探して、もし見つかったら、妹ちゃんは完全にビッチちゃんべったりになるだろうね。・・・いいの?ビッチちゃんなんかにあの子を取られたりして」

「「・・・」」

誰もライトの言葉に答えなかった。しかし、その意思が完全にライトの思惑通りに決したのを、ライトは気づいていた。

と。

「・・・なんだ」

それまで黙っていたシュウが初めて口を開いた。その瞳は訝しげに細められ、珍しく周囲を警戒しているように見える。最初はなんのことか分からなかった兄弟たちも、次第にその理由に気づいていった。

「青い・・・霧?」

彼らのいるリビングに、いつの間にか青い煙のようなものが立ち込めていた。その異様な色は自然に発生するものではない。当然、そのようなものを発生させる機械もこの屋敷にはないはすだった。そして何より、それは恐ろしいほどの魔力を含んでいた。ヴァンパイアの王の息子である彼らにとっても、驚異的であるほどには。

「・・・っ、これ、まとわりついてくるんですけど!!何なんですかこれ!?何とかしてくださいよ!!」

カナトが半狂乱になって叫ぶ。暴れてみるが、霧は全く動じずに静かに冷たく兄弟たちを飲み込んでいく。そして・・・気づけば彼らの姿は消えていた。
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