長編・私は貴方の妹です!
□無神家
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カールハインツから発表があった時は会場に衝撃が走ったが、彼の威光のおかげか、特に大きな混乱はなかった。
発表が済んでから私は逆巻兄弟とも無神兄弟とも顔を合わせておらず、一人夜風に当たって気持ちを落ち着かせている。自分が正式に逆巻のヴァンパイアになったのだとは到底信じられず、まだふわふわと心が宙をさまよっているようだった。
・・・思えば私は自覚が足りていなかったのだろう。貴族になるとはどういうことなのか。自分が無防備に猛獣の前に転がった獲物だということを、私は気づいていなかったのだ。
後ろに誰かがいる。そう思った時には首に体温のない手がかかっていて、視界が闇に落ちた。
「おい、そろそろ起きろよ」
「う・・・」
肩のあたりに強い衝撃を感じて、私は覚醒した。目を開けたはずなのに前が見えない。目隠しをされているらしい。腕も後ろ手に縛られていて、足も同様に拘束されて地面に転がされている。
「あ、起きた」
「ったく、軟弱すぎだろお前。半分もヴァンパイアの血なんて入ってねーんじゃねえの」
くすくすといやらしい笑い声が聞こえる。声を聞く限り、私をとらえているのは二人以上の男性のようだ。一体何が目的なのだろうか。少なくとも、彼らの声に聞き覚えはない。
「・・・」
「おい、起きたんならなんか言えよ」
「・・・」
「ちっ」
何の前触れもなく鳩尾を蹴りあげられた。内臓がぐうっとせりあがり、息が詰まる。
「ぐっ・・・げほっ、ごほっ!!」
「あはは、もろ入ったな。可哀想」
「こんぐらいでいいんだよ、なんせ半分は人間だ」
耳ざとい一部の貴族は私に流れる血の正体を知っている。私に流れる人間の血の匂いでわかるヴァンパイアもいる。彼らもその一人なのだろう。
「・・・どうするつもりなの」
「ああ?そうだな、お前を人質にお前の兄貴たちをおびき寄せて袋叩きにする」
尋ねてみれば、返ってきたのはなんとも稚拙な考えだった。逆巻に恨みを持つヴァンパイアは数え切れないほどにいるが、みなその力を恐れて手出しをするようなことはない。よほど万端に準備を整えているのだろう。
「・・・・・・私を人質にしても、お兄様たちは来ない」
半分人間である私ならば勝てると襲ったのだろうが、あいにく彼らは私を助けようなどとはしないだろう。親切心で告げてやると、彼らは機嫌を悪くしたようだった。
「お前は黙ってればいいんだよ。あいつらが来る間、お前を痛めつけてやったっていいんだぜ」
脇腹を踏みつけられ、足で無理やりうつぶせにされる。硬い床が額に当たって痛かったが、特に気にならなかった。折檻も、屈辱も、私にとっては今も昔も日常茶飯事だ。
「何とか言えよ、怖いとか痛いとか。お兄様助けてって哀願して呼んでみろよ」
無反応な私に、男たちは苛立ちを募らせていく。うつ伏せになって動かない私の髪を一人が掴みあげ、強引に上を向かせた。いくら言っても無駄だと、もう一度繰り返そうとする。が、私が返事をする前に、誰かの声が聞こえた。
「うん、俺お前のこと死ねばいいと思うけど、お兄様助けてって呼べってのは合ってると思うな」
次の瞬間、私に馬乗りになっていた男の体重が消え、視界が開ける。目の前にいたのは、心配そうに顔を歪めるルキとアズサだった。
「ルキ兄・・・?アズサさま・・・?」
「遅くなってすまない」
「ごめんねメイさん・・・でも、もう大丈夫だよ」
訳がわからず、私は数度瞬きをする。
「うぜえんだよ、おらっ!!」
その間にも、コウとユーマは数も装備も万端に整えられていたはずのヴァンパイアたちをいとも容易く蹴散らし、アズサは私の拘束を解いてくれた。
「どうして・・・」
助けなど来ないと思っていたのに。
「何言ってんだ。俺たちはお前の兄貴だろ」
いつの間にか敵を片付けたユーマが、口角を上げながら私に手を差しのべる。
「そうそう、お兄ちゃんってのは妹を助けるものなんだからさ。ピンチになったら呼んでもらわないと」
傍らではコウがうんうんと頷いていた。躊躇いがちに、私は大きなユーマの手に自分の手を載せる。私の恐れなど無視して、彼は力強く私の手を握り、私を立たせてくれた。