長編・私は貴方の妹です!

□新しい兄
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舞踏会当日。私は兄たちと連れ立ってパーティー会場に到着した。招待状を見せ、中に入ると、すでにパーティーの準備は整っているようだった。まだパーティーの始まる時間ではないから、数十人のヴァンパイアたちがまばらに会場で雑談を楽しんでいる。

「ちっ、今年も何だか大勢いやがるなあ」

「親父が主催してる舞踏会なんだ、当然だろ」

既にうんざりしているアヤトに珍しくシュウが反応した。城に到着してから着替えてここまで徒歩で来ただけあって、かろうじてまだ眠っていないらしい。

「んふ、妹ちゃんのドレス、セクシーだね。脱がせてあげたくなるよ」

「っ!?」

言うが早いか、ライトが私の背中をするりと撫でた。私のドレスはお父様の使い魔が届けてくれたもので、上品でセンスの良いデザインが気に入っている。が、背中はぱっくりと開いていて、普段は直に触れられることのないような場所への刺激に、私は思わず体を仰け反らせた。

「やめなさいライト。公の場でそのようなことを口にしないで下さい。不快です」

レイジがたしなめ、やっとライトは私から離れていった。しかし、ライトの視線は未だに私のもとに注がれている。カナトも同様だった。

「ふうん、凡庸な見た目でも着飾ればそれなりに見えるんですね。ね、テディ」

「・・・」

居心地の悪さに身じろぎをする。ちらりとスバルのほうに目をやるが、スバルはこの城に来たことで機嫌が悪く、ふてくされたように床の一部を睨んでいる。

と。

「よく見えるのは当然だろう。俺が見立てたんだからな」

「!?」

その声に逆巻の誰もが驚愕に目を見開いた。聞き覚えのある低音に、私は信じ難い思いでゆっくりと振り返る。

「・・・・・・ルキ、にい?」

「随分と久しぶりだな、メイ」

私は我が目を疑った。てっきり、もう二度と会えないものと思っていたのに。

「ルキにい、えっと、お久しぶりです・・・!」

一体何年ぶり、いや、何十年ぶりだろうか。私がまだ幼い頃、お父様の居城であるエデンにいらっしゃって、ほんの少しではあるが、私の面倒を見てくださった人だ。

「久しぶりだな、メイ」

言いながら、ルキはさりげなく私の頭にぽんと手を置いた。それだけでなんだかどぎまぎしてしまって、私は俯く。
ルキとの思い出は淡く、掠れていて、私の中で彼の存在はなかば神格化されていた。もしや孤独だった幼い私の幻覚だったのではないかと思いもした程だ。まさか、こんな所で会えるとは。

「おい、そいつとどういう関係なんだよ、ああ?」

アヤトが眉をひそめ、挑発気味にルキを睨んだ。が、ルキは馬鹿にするように鼻で笑うだけで、取り合おうとしない。

「どうということもない。そうだな、お前たちよりはメイの兄らしい存在かもしれないが」

「っ!?」

唐突にルキに腕を引っ張られ、勢いを殺せずルキに突進してしまった。そこを抱きとめられる形で、私は彼の腕にとらわれる。

「彼女は僕たちのものです、返してください」

逆巻兄弟の殆どが、ルキを敵意の篭った目で見ている。カナトはまだ癇癪を起こしていないが、感情が感じられない低音は手がつけられなくなる前兆だ。

「る、ルキにい、離してくださいっ」

このままでは乱闘騒ぎになりそうで恐ろしい。ハーフヴァンパイアの私に、彼らを止める力はない。

「なんだ、俺が嫌なのか。嫌なら離してやるが」

「・・・っ、い、嫌ではないですが」

彼の腕は腹違いの兄たちのそれと違って優しく、私に痛みを与えない。

「ちょっとお、そこいちゃいちゃしないでくれる?・・・僕の可愛い妹ちゃん、僕たちのところに戻っておいでー」

ライトは迎えるように腕を広げるが、その先には苦痛と屈辱しかないことを私は知っている。争いを避けるために私はあちらへ行かなくてはならないのに、体は言うことをきかなかった。
と。

「あ、逆巻くんたちー」

やや華やかな格好をした青年が私たちの方へ近づいてきた。逆巻をくんづけするとは恐れを知らないヴァンパイアだが、身分のある方なのだろうか。
彼の後ろには大柄な青年と、俯き気味で所々に包帯を巻いている青年が続く。

「んだよさっきからよ」

「もうすぐパーティー始まっちゃうよ?お父さんのところに挨拶しに行かなくていいの?」

舞踏会で招待されれば、会の主にまず顔を見せに行くのが礼儀だ。

「んなめんどくせえもん誰が行くか!」

アヤトがむきになって言い返すが、ここで冷静なレイジが静かに会話に入ってきた。

「・・・貴方方は何を企んでいるのです?」

「何も企んじゃいねーよ!ただ、舞踏会の間こいつは俺たちが預かる、それだけだ」

今度は大柄な青年が答えた。こいつとは、恐らく私のことだろう。ルキと彼らは繋がっているのだろうか。

「・・・・・・おい、なんでもいいからさっさといくぞ。遅れるとまた親父がうるさい」

黙っていたシュウがうんざりと声をあげ、レイジも少し考えて首肯した。

「・・・そうですね、面倒なものが消えてむしろ好都合かもしれません。・・・無神ルキ、舞踏会が終わったらきちんと返却していただけるのですね?」

貸し出すことを了承されたこともそうだが、レイジがルキの名前を知っていたことにも驚いた。思えば間にはカールハインツがいるのだから、知り合いだったとしてもおかしくはないかもしれない。
ルキに身柄を預けられるのだから、自分の身の処遇についてはあまり心配してはいなかった。

「ああ、必ず返そう。ではメイ、行くぞ 」

「・・・あ、はいっ」

ルキに優しく手を引かれ、私は新たな青年三人とともにその場を立ち去った。
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