長編・私は貴方の妹です!
□抗えない
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ユイと約束を交わしたあと、取り留めのない話を少しして、ユイは去っていった。
どうやらアヤトたちに私に近づくなと命令されていたようで、私の部屋に来たことがばれたら困るからとのことだった。
一方私はと言えば、先程起こったことが今でも信じられない。
この私と仲良くしてくれる人がいたなんて。あんな風に親しげに言葉を交わしただなんて。
今からでも夢だと言われたら簡単に信じてしまいそうだった。
心中浮き足立ち、半ばぼんやりとしていると。
「メイ。出てきなさい」
冷たい声音に現実に引き戻された。
この声は・・・。
(レイジお兄さま)
私は慌ててドアを開ける。
するとそこには、声色同様冷たい光を宿した目で私を見るレイジが立っていた。
「晩餐の仕度が整いましたから、ダイニングにきなさい。場所がわからないでしょうから、ついてくるように」
そう言って私の返事も聞かず、レイジは踵を返してさっさと歩き出してしまう。
歩幅が広く歩くのが早いレイジを、私は急いで追いかけた。
ダイニングに着くと、既に料理が並べられ、レイジを除いた兄弟全員とユイが席についていた。
「おい、おっせーよ無表情!」
行儀悪く椅子を傾けながら、アヤトが不平を言う。
その隣には食事用のナイフを弄ぶカナト。
ライトは私を機嫌良く見つめ、反対にシュウは音楽を聴きながら目を閉じていた。スバルは興味なさげに肘をついている。
ユイを見ると目が合い、微かに微笑んで頷いてくれた。
「貴女の席はここです」
空いた席を勧められ、言われるままに腰をおろすと、それを合図に食事が始まった。
皆が一斉に手を動かし始める。
私は気後れし、グラスに口をつける程度にとどめた。
(私がいない間にお兄さまたちが話したこと・・・何か言われるんじゃないかな)
警戒していると、案の定レイジが口火を切る。
「メイ。まず最初にお伝えしておきますが」
(きた)
「っ・・・、はい」
ごくりと唾を飲む。
「私たちは、貴女がここに居候することを認めることに決めました。父上のご指示であることも間違いなさそうですし」
ほっと息をつき、肩の力を抜く。
だが当然、話はそこで終わりではなかった。
「ですが、だからといって妹だと特別扱いする気はありません。寧ろ貴女はわたし達にとっての餌の血も引いている下賤な存在なのです。それをしっかりとわきまえて行動なさい。いいですね?」
「・・・」
レイジの冷たい言葉が私の胸に突き刺さる。結局私はどこへ行っても差別される運命なのだと思い知らされる。
こんな扱い、もう慣れっこな筈なのに・・・実の兄の言葉だと思うと、それが重くのしかかってくる。
何も答えない私が反抗していると思ったのか、レイジは更に言葉を重ねた。
「父上は貴女を殺すなと言った・・・つまりは殺す以外なら何をしても良いと言うことです。・・・この意味、分かりますね」
「・・・っ、・・・・・・はい・・・わかってます」
わかってはいたことだったが、それでも背筋にぞくりと何かが駆け抜ける。
ヴァンパイアの残虐性は、よく分かっているつもりだ。