饒舌なる死者 B


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 何んとか由利亜と穏便に別れるために、二人の間に距離を置こう考えた。
 うちの親が留守の日に俺の部屋に由利亜を呼んでセ ックスしていたが、こういう関係をもう止めたいと思い始めた。
 処女だった由利亜も一緒にア ダルトDVDを観て、テクニックも身につけさせたし、快楽に目覚めさせて一人前の女になったことだし、俺でなくてもやっていけるだろう。
 その日、シャワーを浴びて帰ろうとする由利亜に、ついに俺は話を切り出した。
「受験も追い込みだし、俺は勉強に集中したい。だから入試が決まるまで、当分お互いに逢うのは止めようぜー」
 そう話を持ちかけたら、ショックのあまり急に泣きだして「逢えないなんて嫌だー!」と発狂しそうになっていた。
 宥(なだ)めるように、逢うのは無理だけどメールくらいなら構わないと由利亜に言ったら……その日から、朝昼晩、寝る前に、一日20通以上メールを送ってくる始末だ。
 逢わないと言っているのに……学校の食堂や塾まで俺と同じにして、いつも少し離れた場所からこっちをジーッと見てやがるから――マジ気持ち悪くなってきた。
 そんなある日、突然電話が掛かってきて、緊急の用件だから逢って欲しいと懇願された。勉強が忙しいからと一旦は断ったが、五分でも十分でもいいからと……泣かれて、仕方なく、スタバで逢うことを約束させられた。
 わざと待ち合わせに遅れて行ったら、由利亜はテラスの席に座って待っていた。しばらく振りに逢ったら、少し痩せたように見える。
 コーヒーを持って席に着いた俺は、ぶっきら棒に訊ねた。
「で、緊急の用件ってなんだよ?」
 縋るような目で俺を見ていたが、ガクリと頭を垂れて泣きそうな声で言った。
「わたし……妊娠したみたい……」
「はぁー!?」
 俺は飲んでたコーヒーを噴き出しそうになった。
「――生理がこないの。二ヶ月もない」
「ちょっと待てよ。それってホントなのか? 俺はいつもちゃんと避妊していたぞ」
 俺たちは高校生だから――。頭の悪いDQN(ドキュン)じゃあるまいし、女の子を妊娠させて学校を退学させられるのなんて真っ平だ。それだけは細心の注意をしてセ ックスしていたのに――。
「病院で看て貰った? 妊娠検査薬で調べた結果なのか?」
「ううん。まだ……だけど……」
 曖昧な返答だった。
「だったら、妊娠したとか言って俺を驚かせるなよ」
「だって、生理がないから心配で……」
「おまえの妊娠なんか知らない!」
 わざと冷たく突き放した。
「俺に言いがかりつけて受験勉強の邪魔するんじゃないっ!」
 頭にきた俺は語気も荒く叱りつけた。
「あなたに逢えなくて……寂しくて……寂しくて……」
 とうとう由利亜はテーブルにうっぷして泣き崩れた。
 ああー、この粘着する女からどうやったら逃れられるんだ。こいつは《女神》なんかじゃない。俺にとってはただの疫病神だった――。
 女なんか、抱いてしまえばどいつも皆同じじゃないか! 俺的には、由利亜をモノにした時点でゲームセットにするつもりだったのに……。
 ちくしょう! 古賀のせいで、こんな地雷みたいな女を踏んじまったじゃねぇーか!
 イライラした俺は心の中で毒づいていた。 
 待てよ。……そうだ! この女を古賀に押しつけてやればいいんだ。――その時、俺は頭で姦計を巡らしていた。

 家に帰ってから、中学の生徒名簿から古賀真司の電話番号を探して、あいつの自宅に電話をかけた。
 最初に祖母と思しき老婆がでた。耳が遠いらしく、こっちの名前をなかなか聴き取れなくて、俺をイライラさせた。
 ずいぶん待たされて、やっと古賀が出たが俺からの電話に訝し気な声だった。
「もしもし……なんか用?」
「昔さ、おまえに助けられたことあったよな?」
「はぁ?」
「不良に絡まれた時さ、大声で助けを求めてくれたじゃないか?」
「あ、そうだったっけ?」
 とぼけてやがるが、絶対に忘れるはずない。
「それで、今更だけどお礼がしたいんだ」
「…………」
 俺の申し出に不審に思ったのか、古賀は黙ってしまった。
「鈴木由利亜にその話をしたら、自分からも古賀君にお礼がしたいっていうんだ」
「由利亜さんが……?」
「そう。俺ンちでミニ・パーティしよう。三人でさぁー」
「……俺はいいよ」
「そんなこと言うなよ。由利亜がおまえに会いたいって言ってるんだぞ!」
「だけど……」
 古賀は俺の話に疑いながらも、鈴木由利亜の名前には強烈に惹かれているようだった。よし、もうひと押しだ!
「由利亜が古賀にあげたいモノがあるらしいぜ」
「えっ? 本当に……俺に?」
 急に嬉しそうな古賀の声だった。
「そうだ! だから楽しみにして俺ンちに来いよ」
 その後、日時を決めて一方的に告げた。
 半信半疑ながらも由利亜信者の古賀は、憧れの由利亜さまに会えることと、プレゼントを貰えるかも知れないという甘い期待に、俺の申し出を断われなかった。
 電話を切った俺は、ニンマリと笑った。












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