仄神‐シキガミ‐

□第一輪
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「ねぇ聞いた?」
「うん、聞いた聞いた」
「転校生だって」
「マジ!えっ、イケメンかな」
「女の子だって」
「可愛いかな」
「通りで、男子が煩いわけだわ」
「どんな子かなぁ」



私立永鈴学園。
幼・小中高大と完全一貫のその学園は、
学力のある者と将来を期待される者が通う、
全国でも指折りの名門校である。


今日、そこは、
いつもよりも騒がしく、どこかそわそわとしていた。





高等部第一学年のAクラスの教室。

担任教師が現れると、チャイムと同時に生徒は起立する。



「おはようございます」



生徒たちが朝の挨拶をすると、教師はそれに応えて、全員を着席させた。



「今日は、もう聞いている者もいるだろうが、我が校に編入してきた生徒を紹介する」



担任は改まった口調でそう言うと、



「入りなさい」と、教室の入口の方へ声をかけた。


ガラッと扉が開く。

教室の生徒達は一斉にその生徒に注目した。



「天涛伊代さんだ」



黒板に書かれた名前。
その前に、彼女は立った。



「天涛です。よろしくお願いします」



お辞儀をする伊代。

教室は一瞬静まり返った。

なぜなら、生徒が皆、彼女の持つ不思議な空気に息を飲んだからだ。

とは言っても一瞬だった。


すぐに、少しの歓声があがり、ひそひそと話し声がその中に混じった。


彼女の容姿は確かに醜くなく、むしろ小綺麗であったが、特別目を引く方でもなかった。



「何かと不便もあるだろうから皆、サポートしてやってくれ」


伊代は、担任に指定された席に座った。

窓側の一番後ろにあるその席は、風の通るいい席だった。






転校初日のイメージというものは彼女の学校生活に少なからず関わってくるものだ。


そのイメージは、一限目にして確固たるものとなった。



「では、教科書の21Pをひら…」



教員の声を遮る、ガラッという音。


教室のドアが勢いよく開き、見るからに態度の大きい男子生徒が、



「伊代!」



と一声。


聞き間違いだと、伊代は思った。自分の名前を、Aクラスの生徒と教師以外に知る者はまだいないはずだ、と。



「ふ、風残院さま!」


(様?)



伊代が不思議に思っていると、ざわめく教室にずかずかとその男子生徒が入ってくる。



「おい、お前」
「はい!何でしょうか」


(教師になんて態度…てか、先生腰低っ)



「伊代はどこだ!」
「えっ…あっ…伊代…さんは…」



担任が慌てながら座席表を探す。



「黒の皇子と知り合いなの?天涛さん」
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