リュウガ×ソウシ side

□指輪
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幽霊船から戻り、1週間。

むせる様な花の匂いと桜吹雪は今でも胸に焼き付いている。
あの島には、たくさんの切ない魂が眠る。

あのような終わりの形があるのだな。
そう呟き、ソウシは医学書をそっと閉じた。


あれから、船長とは一言も話していない。

「当たり前か…。」
幽霊船から戻った私を、皆は喜び、あるいは泣きながら迎えてくれた。

でも、船長は。
私に労いの言葉をかけた後…
宴の最中すら、一度も目を合わそうとしなかった。
ヒラリと流れる様に踵を返し、花の中に消えて行った後姿。

「怒っているかな。」
…多分。
いつも能天気なあの人がここまで怒るのは相当だ…。




ソウシは、皆が寝静まった頃、船長室のドアをノックした。

「入れ。」
リュウガの不機嫌な声が返る。

「…お前か…。何しに来た。」
ソウシの顔を見て、あからさまに眉をひそめる。

その様子に言葉を選んでいると。

「…。」

リュウガは小さく舌打ちをすると、手にしたウォッカの小瓶をテーブルに乱暴に置き、
ソウシの横をすり抜け、部屋を出ようとした。

「…っ…。」

言葉が継げず、すれ違いざまに、リュウガの腕にすがる。

(…私はどんな顔をしていたのだろう。)

「離せ。」

リョウガがソウシの腕を掴む。
ソウシは、顔を伏せて、リュウガにすがる手に力を込めた。


「おまえ…。」

少しの沈黙の後、リュウガが重く口を開く。
そのライトグレーの瞳に暗く、深い海を湛えながら。


「…!…」

突然、唇が重なり、深く、貪られる。

「っ…ん!」

噛みつかれてるような、強引なキス。
角度を変えて、長く長く貪られる口付けに、ソウシの理性と思考が溶けて行く。

二の腕にしがみつくソウシの手がするりと落ちると。


唐突に唇を離したリュウガは、ソウシの腕を掴み、乱暴に船長室のベッドに組み敷いた。

パタンと無機質に扉が閉まる音が響き、静寂に包まれた室内に、満月の薄光がやんわりと降り注ぐ。


ソウシの上に馬乗りになったリュウガに、再び唇を塞がれ。
乱暴に胸をはだけられ、武骨な手に撫でられて。

「…っ…。」
それだけで、ソウシの身体がビクンと跳ねて、吐息が漏れた。

「お前の…。」

唇が離れると。

「お前の指輪をあいつが持って戻った時、気が狂いそうになった。」

そのまま、リュウガははだけたソウシの胸に頭を落した。

風呂上がりの、まだ湿ったその髪に、ソウシが指を絡める。

「…お前は、あいつが好きなのか…?」
暫くの沈黙の後、リュウガが絞り出すように続けた。

「彼女を守れと言ったのは貴方ですよ。」

「…それはそうだが…。」

「それに…。」

ソウシの手が、ゆっくりとリュウガの頬に触れる。

そのダークグレイの瞳に熱を込めて。
吐息のようにゆっくりと囁いた。
「貴方なら、どんな手を使っても、必ず私を助けにきてくれるでしょう?」


(オレの船にこねぇか?)
いたずらっぽい笑顔で言われたあの日から。
私はこの人と共にいる事を後悔した日は一度もない。
いつも傷だらけで笑う船長に、私は生きる希望を見出せるかもしれないと。

リュウガに対する絶対的な信頼と。
尊敬と。
…そして、愛情と。



「助けに行くさ…。地獄の果てまでもな…。」
再び、リュウガに唇を塞がれる。


服を剥ぎ取られ、胸を荒々しく愛撫され。
そのまま鳩尾を撫でた手が、下腹部の膨らみに這い、掴まれた。

「…っ…!」
塞がれたままの唇を、あまりの息苦しさに離そうとすると、頭を掴まれ、一層深く嬲られる。

そのまま足を広げられ、間に割り込まれた身体の大きさに驚き、ソウシの身体がビクリと跳ねた。

「男は、初めてか…?」

「あたりまえです…。」
やっと離れた唇で息を整え、声を絞り出す。


「…辛いぞ。」

「…かまいません…。」

リュウガはその手の中に滴るソウシの体液を指に絡め取ると、
その助けを借りて、ゆっくりと後ろに侵入させた。

「…ツ…ぅ…っ」
音がする程中を弄ばれ、ソウシはその指の動きに翻弄される。



汗が浮かんだ肌に髪が張り付き、頬が徐々に紅潮していく。

あられもない格好で弄ばれ、ソウシの理性がだんだんと遠のく。

「ソウシ…。」
リュウガの吐息混じりの低い声が耳に掛かり、ソウシが涙の滲む目でリュウガを見た。

「いいか…?」
きつく目を瞑り、精一杯頷く。
開いた足の間に現れたリュウガのそれに息を飲みながら、ソウシは必死に力を抜く。

一瞬の沈黙の後、ゆっくり侵入してきたそれに、酷く熱い熱を感じ、息が詰まった。

「…ッ…。」
リュウガが眉をひそめる。

「あ…っ…。」

ゆっくりと時間をかけて、ソウシの中にそれが全て収まると、
やんわりと腰を回され、痛みと焼けるような熱に、ソウシの身体が反り返った。



リュウガが動く度に息が詰まり、頭と身体が切り離されていく。
閉じられない口から声が溢れ、ソウシは必死にリュウガにしがみついた。

「あ…あっ…っ…」

ソウシの口がうなされるように、リュウガを呼ぶ。

「せん…ちょう…。」
「…リュウガだ…。」

一層激しく突き上げられ、ソウシの固くなったそれにリュウガの指が絡まる。

「いつもみてぇに、リュウガって呼べよ…。」



「りゅう…が…」


ソウシは遠のく意識の中で何度も、うわ言のようにリュウガを呼んだ。






陽が高くなり、明るい陽射しの中で、ソウシは目を覚ました。

顔をなでる風と体に掛かるシーツが心地良い。
「リュウガ…?」
見渡す部屋にリュウガの姿はない。
身体が重くて、酷い倦怠感に、起き上がることすら億劫で。

ふと、シーツを掴んだ手を見ると、あの指輪ががはまっていた。
「…。」



もう少し、この余韻にひたっていよう。
ソウシは、サラリとシーツを引き寄せる。

リュウガの逞しい、傷だらけの身体と、荒々しい動き。
熱い吐息。
優しい声。
…私を愛した男の余韻に。

私は朝陽に煌めく指輪の石に口付け、目を閉じた。

「もう、外しません…。何があっても…。」

そう呟き、再び眠りに落ちていった。



END


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