春が来れば

□審神者と今剣と小夜左文字
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畑仕事は何も刀剣たちだけの役割ではない。

審神者も彼らと一緒に土を耕す時もあるし、雑草抜きをすることもあれば、収穫に携わることもある。


就任した頃はまだ内番をこなせる刀剣数がないので、畑仕事も馬当番もやっていた。

しかも初期刀ー加州清光の強化のため、木刀を振り回して鍛錬もやっていたのだ。

私も出陣できるかな、といえば加州に、はぁ!?ばっかじゃないの!?と怒られたのだった(愛ゆえの心配、だと信じてる)。




さて、今日久々に畑に赴けば、誰が植えたか立派なスイカが5つほど実っていた。

そういえば少し前にお兄さん組が弟たちに食べさせたいと裏の畑で必死こいて作ってる、とか聞いたような……。


まあ、現代でも大きくて形のいい美味しいスイカは値が張るもので。

その理由としては立派なものに育てる過程の大変さだろう。

水をあげすぎれば割れてしまったり、栄養をあげすぎれば腐ってしまったり……。


その出来栄えを見れば弟たちを喜ばせたいという思いがひしひし伝わってくる。




今日は今剣が近侍を務めていて、最近やってきたばかりの小夜左文字が近侍業務の研修中である。

そして審神者業務の合間に息抜きも兼ねて畑にやってきたのだった。



「あるじさま、この まりみたいなものはなんですか?」

「はじめて見た……」

「ん?あぁ……それはね、スイカ」



最初に見つけたのは今剣。

そして小夜も初めて見るということで目を輝かせている。



「一個貰って食べよっか!」

「「!!」」



ポケットに入れておいたハサミを取り出しスイカの蔦を切る。

その身を持ち上げると腕にズシリと重みを感じた。

……これは美味いぞ。



「おもくないですか?」

「僕らで持とうか?」



さすがいい子、男の子。

でも小さい子(年齢は私よりはるかに上だが……)に持たせるのもなんだか……

というわけで結局私が運ぶことになった。


どんなあじがするんですか?、中はどうなってるの?、それは野菜?果物?と質問攻めにあいながら台所へ。


スイカ割りをしようかとも思ったが、真剣を扱う彼らに容赦というものは存在するのか……木っ端微塵になったら……という心配からやめた。

きっと数日のうちに粟田口勢で開催するだろうし。

国民の休日、日曜日が存在するわが本丸なら全員で夏祭りをしたっていい。



「さ、切りますか」

「どきどきしますね!」

「……!」



スイカを調理台の上に置く。

みっちゃんがきれいに台所を使っているおかげでステンレスのその台はピカピカだ。


スイカに包丁の刃を当てる。

刃物を研ぐ腕が一流の鍛刀部屋にいる妖精たちに渡せば、間違って指ストン並みに切れ味が良くなる。

きれいなスイカの模様を割り、スッと刃が進んでいく。

刃が進めば短刀2振りの目の輝きは増していった。



ーゴロン

その刃が調理台の表面にたどり着けば、半月型になったスイカが転がる。



「わああ!!」

「赤い……!!」

「美味しそ〜う!!」



みずみずしい赤い実、きれいに並んだ黒々した種……。

食欲をそそる見事なスイカだった。



「縁側に座って食べようか、切るから運んでくれるかな?」

「はーい!」

「うん」



とりあえず……流石に3人でスイカ一つはつらいので、半分に、そのまた半分に切る。

そして食べやすいように三角に切っておぼんにのせた。


麦茶も冷蔵庫の中で冷えてるので、氷入りで持っていこう。




スイカの乗ったお盆を嬉しそうに持って縁側に急ぐ今剣。

彼が転んでスイカが落ちないか心配そうに横に並んで歩く小夜。

その後ろから麦茶を入れたコップをお盆に乗せて追いかける名無し。


歩を進めればカラン、カランと氷の揺れる音が響いて暑さが和らいだ気がした。














(さて、いただきます!)

((いただきます……!))

(……お、美味しいー!!)

(あまくておいしいですね!あるじさま!)

(コクコク……)

(ふふ、そうね!それじゃあ、種飛ばし競争しますよ!プププーー!!)

(たのしそうですね、それ!プッ!)

(負けない……!プッ!)





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