春が来れば
□大倶利伽羅と猫と審神者
1ページ/2ページ
「……」
「……」
「可愛いね」
「ああ」
「……」
「……」
にゃーん……
事の発端は午後2時、本日の近侍ー鶯丸と書類の整理をしていたところ、急に雨が降り出した。
午前中は晴れていたのに……通り雨だろうか。
「いけない、洗濯物取り込まなくちゃ」
60以上の刀剣たちが人間と同じように生活をしているこの本丸では洗濯物は大量だ。
一般家庭どころではないその量を取り込むのはよいではない。
いつもは一人か、本丸で待機中の刀剣たちとゆっくり取り込んでいるが、雨となってはそうはいかない。
再びあの大量のタオルや手ぬぐい、衣類を乾かすのは大変だ。
土砂降りじゃなくてよかった、と急いで物干し竿から取り外しては籠に放り投げてく。
愛染や蛍丸、明石といった来派の協力もあって、数分で取り込むことが出来た。
手分けして全てたたみ、衣類はそれぞれ刀派ごとに分けて部屋へ運んでもらって、タオル類は私が洗面所に運ぶことにした。
さて、洗面所は少し離れたところにある。
かごを抱える腕も少ししびれてきた頃、にゃーにゃーという鳴き声が廊下の先から聞こえてきた。
この本丸には狐や虎はいるが猫はいない。飼ってもない。
今日は雨が降っているから野良猫が縁側の下に雨宿りにでも来たのかな、とわくわくしながらゆっくり声に近づく。
廊下の角を曲がると目に入ったのは黒い襟足の長い癖っ毛。
「くりちゃん?」
「!」
わが本丸の猫こと大倶利伽羅が、野良猫と戯れていた。
「わ、猫?可愛い〜」
声をかけるとビクッと驚いたものの、腕の中の猫は彼に頭をすり寄せている……すごく懐いてるな。
どうやら雨に濡れた猫の体をタオルで拭いてやっているらしい。
彼の優しい一面をまた一つ発見した。
その態度や口調とは裏腹に優しい刀剣なのだ。
たとえば、出陣して誰かが傷を負えば庇うように剣を振るうし、遠征では疲労がたまった短刀をおんぶして帰ってきたり、内番では短刀と一緒に畑仕事をして色んなことを教えているらしい。
馬にも本丸で一番懐かれているし、もともと動物に好かれやすいのか……。
選択籠を端に置いて、大倶利伽羅と猫に近づく。
.