春が来れば
□源氏兄弟と審神者
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本日も晴天なり。
ということで、庭に大きめの桶を出して刀剣たちの衣装の洗濯をしていた。
勿論、神である彼らに衣類の洗濯など必要ないが、人の姿を得ている以上人の生活を知って欲しいというのが 名無しの意向だった。
「ふたりが来てからもう二月にもなるのね」
ふと名無しが呟く。
最初は2人の関係性がわからなかったので、弟から先に本丸にやってきたのだが兄とどのように再会させるべきか悩んだものだった。
「そうだな、最初はこの生活に疑問ばかりだったが慣れたものだ」
「僕が来た時には、膝……ひざ……膝切りが既にいたんだよね、おかげでなれるまで早かったな」
「兄者……」
「髭切……」
二月経っても弟の名前を覚えないのはどうしてなのか……ほかの本丸の彼もそうなのかな……。
刀剣認知症……まさかね。
「それにしても、主……その格好は如何なものか」
「うん?Tシャツにショーパン?おかしいかな」
「僕達の時代では滅多に見ない格好だからね」
膝丸がわざとらしくコホンと咳払いをしたかと思えば、少し頬を赤く染めつつ聞いてきた。
しかし毎日こんな格好でいるわけではない。
もともと和装は好きだし、いつもは着物や羽織袴で過ごしている。
今日は暑いし、洗濯するということで多少濡れても気にならないような格好を選んだつもりだ。
言うなれば小学生の田んぼの代掻きの時みたいな。
しかしまあ、日本の女性が腕や脚を剥き出しにするような格好は最近のものだから、ましてや源氏生まれの彼らが見慣れないのも無理はない。
「今度一緒に現代に行ってみますか?もっとすごい格好の人がうじゃうじゃいるから」
ハハッと笑いながら冗談で言ったつもりだが、膝丸はボッと顔を更に赤く染めた。
「な、な、そのような……はしたないやつらが……」
「ははは、でも、主みたいに脚が綺麗な人はそういう格好も似合うよね。僕は嫌いじゃないよ」
「あ、兄者……」
「髭切……!!」
本人は無意識で言っているのだろう。
しかしこれが世の女性を落とす必殺技である。
美形は何言っても許させる……と痛感すると同時に、名無しは久々の褒め言葉に嬉しさのあまりじーんと感動した。
手が洗剤まみれなのを忘れて熱くなった目頭をこすろうとしてしまった。危ない。
っと、いけない、本題を忘れるところだった。
「話を戻すけど、二月経ってみてどうです?何か困ったこととかないかな?」
刀剣達の部屋割り、出陣、内番、生活上の文化の違いだとか……なるべくこっちが気付いてあげられるようにはしているつもりだ。
まあ大体の刀剣は最初に、現代から持ってきた文明の機器やカタカナのつく食べ物、道具なんかに興味を示すんだけど。
今ではケーキは短刀ちゃんの大好物だし、テレビについてはゲームをしたり戦闘者のアニメを見たり……。
あ、コンセントをただの穴だと思って塞いだり糊を入れたり木の枝を突っ込む輩はいなくなったな。
政府に修理を頼む度何度不思議な顔をされたことか。
現代のものを本丸で使う以上、その説明も審神者の義務だ。
「……まあ、とくには無いな」
「誰かに聞けばどうにかなったからね」
「そう?ああ、それに、みんなとも上手くやってるようで安心しました」
膝丸は……今剣に“薄緑”と呼ばれて、彼が来た時は新入りを弟が出来たみたいに世話を焼かれていた。
同じ三条でも自分が末っ子のような扱いだったから嬉しかったのだろう。
兄の魅力を語る会、とかなんとか、次郎ちゃんや浦島なんかと語ってたし、粟田口の短刀とも兄の自慢大会をしていた。
髭切は……先に本丸に来てた膝丸にぜんぶ面倒見てもらっていた。
浴衣の着方がわからないって私を尋ねてきた時は驚いてひっくり返ったけど。
彼は一期みたいにあんまり弟についてしゃべる方ではない。
でも名前が覚えられないって色んな刀剣に相談したり……そのうち諦めたけど。
あとは知らない内に本丸のまわりの野良猫を手懐けてたり……恐ろしい子。
きっと皆が協力的で仲良しな本丸なんだよね、良かった良かった。
「まあ、強いて言うなら……ええと」
「ん?何でも言ってみて」
「僕もその、てぃーしゃつとやらが欲しいな、楽そうでいいよね」
(うすみどり、めずらしいものをきていますね。それはなんですか?)
(これか、主からの土産でな。てぃーしゃつ、というらしい。兄者と色違いだそうだ)
(へー、よかったですね!げんだいではなかよしのひとたちでおなじものをもつそうですよ)
(な、仲良し……俺と兄者が、仲良し……!!)
(あ、肘丸、ここにいたんだね。主が呼んでるよ)
(ひ、肘……)
(……うすみどり、ふくになまえをかいておいたらどうですか)
(ああ……ぐすっ)
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