春が来れば
□審神者と刀剣たち
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「主様ー!そっちにいきました!」
「待てー!!」
本丸内で走り回るべからず。
こんな決まりを作ったのはいつだったか。
本丸に刀剣が増え始めた頃だったかもしれない。
しかし今回は仕方ないと思うのだ。
天気もいいし、今日は刀剣たちのペット(?)の狐や虎のシャンプーをしようと決めたのだが、五虎退の虎が4匹しかいない!と、一匹が彼の元から消えてしまったのが事の発端。
本丸に待機していた刀剣と審神者総出での虎探しとなった。
「えいっ!」
「ガウッ!」
「〜っ!!」
手を伸ばした名無しを身軽に交わし、またも逃げる虎。
着物を着ていては走りにくいし思うように動けない。
先程からこのように見つけては追いかけ逃げられて、を繰り返していた。
しかし昼を過ぎても虎はなかなか捕まらない。
「主、虎は俺達に任せてくれ」
「いや、でも」
岩融が名無しに声をかける。
また一期一振にどやされるぞ、と本日の近侍の名前を出されては何も言い返せない。
言い方から察するに、私の要領の悪さを知っているみんなも同意の上なのだろう。
結局虎探しはみんなに任せ、名無しは仕事が溜まっていたため審神者業務へと戻らせてもらったのだった。
さて、名無しが自室に着くとおかしな点が一つ。
襖が少し開いているのだ。
まさかと思い中を見渡せば、さっきまで整理整頓されていた部屋はごちゃごちゃに荒らされ、箪笥の引出しがひっくり返されていた。
その中身は全て散らかり、その中央がもこもこと動いている。
虎であろうそのもこもこの上に被さったTシャツを取り除けば、目当ての虎が名無しの服を噛んで引っ張って遊んでいた。
よく見ればところどころ穴が空いている。
お気に入りだったのに……と落ち込む半面、やっと見つけたと安堵する。
しかし、それだけでは終わらなかった。
さて、虎を回収しようと息をついたその時。
「えっ、あっ、こら!待って!」
再び虎が逃げ出したのだ。
しかも、名無しの勝負下着を咥えて。
ードタバタドタドタドタ!!!
「あ、主様……と、虎くん!」
「捕まえてください!五虎退!前田!」
縁側の下を覗いて虎の捜索を続けていた五虎退と前田が大きな音に顔を上げれば、探していた虎と名無しがこちらに物凄い勢いで走ってきた。
名無しに至っては鬼の形相である。
「虎くん、おいで!」
よく見れば近づいてくる白い虎……の口元から赤色の何かが見え隠れしている。
何を咥えているのだろうか。
「あ、主様、あれは……」
「大事なものなの!取り返してー!」
「は、はいっ」
手を広げて虎を呼ぶ五虎退。
前田は捕獲用の網を構えている。
しかし意に反して虎はひょいっとそれらを躱すと、走っているにもかかわらず廊下の曲がり角を器用に曲がって行ってしまった。
「くっ」
あれが年長の刀剣の手に渡るとまずい……。
これは検非違使よりも厄介かもしれない。
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