春が来れば

□鳴狐とお供の狐と審神者
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これまでに何回鍛刀してきただろうか。







最初は初期刀の加州とともに右も左もわからず、小さな妖精にも驚いて飛び上がったものだ。



鍛刀して、新しい子に出会って、と思ったら既存の子がやってきて。



それだけではなく、出陣した子たちが新しい子を拾ってきたこともある。




任務達成のため、刀解したり連結の資材にまわしたり……悲しいけれど、ここに来てくれたことに感謝して、必ず勝ち進めるよう祈りを込めて……





新入りの刀剣には自己紹介をして、本丸の中を案内して、その日の晩に宴会をして……



日常生活動作(衣食住)のわからないことは同じ刀派の子らに任せて……





「主殿〜」


「……ん?」




ふと呼ばれて後ろを振り返ると……誰もいない



ということはなく、目線を下へと移すと、鳴狐のお供の狐がじっとこちらを……私の手元を見ていた。




「こ、これはあげられないよっ」


「!?」




ガビーンと音が聞こえそうな程に項垂れるお供の狐。


手に持っていたのは、彼の大好物……そう、油揚げであった(一枚千円もする)。


野生のカンだろうか、どうやら油揚げの質がわかるらしい。


こちらを見つめるその顔はいつもより数段可愛らしい顔つきに見え……なくもない。




「……やあちゃんの分(数百円)はちゃんととってありますから」


「なんと!本当ですか!」


「だから、後で鳴狐を連れてきて。みんなで一緒に食べましょう」




自分の分が確保されているとわかり安心したところで、疑問がひとつ。




「では、そちらは?」




自分のものでも、名無しのものでもないとすれば、一体誰の……この本丸に自分たち以外に油揚げを大好物とする刀剣はいないはずである。




もしや……




「こんのすけ殿に…「やつにはやらん。」




にっこり、きっぱり、答えた名無し。



こんのすけの名前が出た途端に遠い目をした名無しに、お供の狐はこれは禁句でございましたと心の内で反省した。




「ではどうなされるのですか?」


「これはお供えするの」























さて、本丸の裏庭には大きな桜の木があった。



その横に並ぶようにして、社を模した小さな祭壇が設けられている。


これは名無しが政府に掛け合って(やや脅して)建てさせたものだった。




名無しとお供の狐は祭壇の前に立った。




「……なんだかね、小さい頃からずっと神様が見守ってくれてる気がするの」




しゃがんで祭壇に油揚げを備え、手を合わせる。

お供の狐も一緒になって参拝した。


それから少しの沈黙の後、名無しが桜の木を見つめて話し出した。




「イメージではなくて……会ったことはないと思うんだけど、狐の姿をしていてね」


「だから油揚げを供えるのですね」


「……うん、いつも出陣や遠征の部隊が無事に帰還できるようにお願いしてるんだ」




こんな話、誰かにしたのは初めてよと笑ったその顔はとても暖かく美しかった。


鳴狐に見せたかったですなぁとお供の狐が思ったその時。






ーガサッ





「「!!」」













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