春が来れば

□審神者と加州
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「きよ」




本丸で自分のことを“きよ”と呼ぶのは一人しかいない。


加州清光は、爪を磨いていた手を止めて声のする方へ顔を向けた。




「主!どうしたの?」




名無しが襖の影からひょっこり顔を覗かせていた。



審神者自ら刀剣たちの部屋を訪れるのは珍しい。

加州は自分に会いに来てくれたのかと嬉しくなった。

犬のようにしっぽが生えていたら、高速で振り回しているに違いない。




刀剣たちの個室は本丸の母屋にあった。


ここは加州と安定の二人部屋。

部屋分けは名無しの采配で、同じ刀派だったり親しい関係性で分けられている。




「はい、これ、お土産」


「ん?何だろ……」


「ふふ、開けてみて下さい」




部屋に入り、加州の隣に座って花柄の小さな紙袋を手渡す。



口には出さないが、加州の喜ぶ顔が見たくて、現代に戻った時に買ってきたものだった。


本人に頼まれていたからでもあるのだが。



そのきっかけは実に簡単なことだった。














たまには勉強をしようと現代から教科書やファイルを持ってきた時のこと。


その中にたまたま女性雑誌に似たカタログが紛れていた。


それが加州が近侍の日であったため、審神者の部屋を訪れた際に一際目立つ冊子を彼が不思議に思ったのが始まりだった。




「主、この本……?これ何?」


「ん?ああ、それはね、ほしい商品の番号を手紙で送ると買えるの。所謂、通信販売ですね」


「へぇ〜」




興味津々にページをパラパラとめくる加州。



実際に、本丸の家電などは政府からのカタログで発注している。

本丸の経費と合わせて管理しているのは光忠たちであるが。




「主、この商品は?説明も番号もついてないけど」


「ああ、それは新商品の広告。」




これから発売しますよ〜ってこと、と説明すると、じゃあまだ注文できないんだ、と落ち込む加州。


その姿を見て焦った名無しは焦り、ほかのもので何か欲しいものないの?と、元気になってもらおうと一緒にカタログを見たけれど、他にコレ!というものは無いらしかった。



カタログではまだ取り寄せられないかもしれないが、確か現代のショップになら売っているかもしれない。



と現代に戻ったときにふと思い出し、ふらりと店に立ち寄ると、果たしてそれは……あった。

新発売!の表示とともに陳列棚の一番目立つ場所を占領していた。



会計の際、レジでプレゼント用ですか?と営業スマイルを浮かべる店員に尋ねられた時、加州の顔が浮かんで思わず、可愛くデコっちゃってください、と言ってしまったのは失態だった。

表情を変えずにはい、わかりました、とだけ返した店員には敬意を表したい。


私がやっても可愛さはきよの半分にも満たないな、と自嘲気味に笑った。













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