きめつ

□名前呼びを試す話
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5 名前呼びを試す話

「あー、時透くんだ、こんにちは!」
「こんにちは、琥珀」

 今日はいい天気!洗濯日和の料理日和だね、こころなしか町のみんなも元気に見える。かくいうわたしもめちゃくちゃ元気。雨の呼吸使ってるけど晴れも好きです。
 そんなこんなで甘いものが食べたくなりまして甘味処に来ました。さっきまで人を怖がって挙動不審だったやつが知り合いにあった喜びで大声だしたもんだから、かんわいい看板娘さんがぎょっとした顔でこちらを見ました。お前そんなに声出せるんかみたいな?
 偶然知ってる人に会うことってなかなかないから(わたしなんかは知り合いがそもそも居なかったからね)、嬉しくなっちゃうよね。

「時透くんも甘いもの食べに来たの?」
「まぁそんな感じ、琥珀はよく来るの?」
「たまに来るよー、お茶だけ飲む日もあるし今日みたいに甘いもの食べる日もあるよ!週に1度あるかないかぐらいだけど」
「そうなんだ、じゃあおすすめとか聞いても分からない?」
「そんなことないよ!ここはあんこがとってもおいしいから、全部美味しいけどおすすめするならおはぎとか大福かなぁ。練りきりは見た目もよくていいよね。でもわたしはお饅頭も好きー!」
「ふふ、そう。参考になったよ。じゃあお饅頭にしようかな」

 色鮮やかな練りきりと並ぶ時透くんも見てみたかったがそうそううまくは行かないか。そもそもにこにこしながらわたしの長い話を最後まで聞いてくれて、さらにわたしの意見をもとに結論を出してくれた時透くんにはお金を出してあげようかなって思ってしまったよね。お姉さんなんでも食べさせてあげるよぉ。
 そういえば何歳か聞いてないわ。

「時透くんって何歳なの?」

 注文を終えたらしい時透くんに声をかける。

「…14だったかな」

 14歳!?年下だとは思ってたけど14歳ってこんなに落ち着いてるもんなの?わたしが落ち着いてないだけ?悲しいことに友達がいなかったから比較ができないんだね…。
琥珀は?目線でそう訴えられた。

「16です…」
「…16にしては…」

 ごくり

「小さいよね」
「脳みそがですか!?」
「違うよ、身長の話」

 …よかった、そこまでのバカだとは思われてないってことかな。
 やっぱり低いんだわたしの身長。伸びてないとは思ってたけど。どれもこれも同年代の知り合いは全く居なかったせいで、分からなかったことが結構あるなと、最近身に染みている。
 …さすがにもう身長止まるのは早いんじゃなくって?わたくしにもそのぐらいは分かりましてよ…。

「そういえば琥珀はお団子食べてるんだね」
「あ、あぁ、今日はそういう気分だったから」
「ふーん」
「お団子も美味しいんだここ、あんこもだけどきめ細かい感じで…。ふふ、とっても大切に作ってるんだろうなって思うよ」
「今度来たときはお団子食べてみようかな」
「うんうん、そうして!」
「でも僕…」
「忘れちゃうかも?そしたら、わたしが覚えてるよ、時透くんの分まで」

 寂しそうだったからつい宣言しちゃったけど、わたしは覚えてる自信がある。約束したことなんかは特に。

「…うん、ありがとう。ところで、僕たちって仲がいいと思ってるんだけど」

 急に話変わるんだね?…えっ!?仲がいいと思ってくれているの!?めっちゃ嬉

「琥珀はいつまで僕のことを時透くんって呼ぶつもりなの?」
「は?」
「別に呼び方が嫌な訳じゃないけどさ」

 来たお饅頭をもぐもぐ食べてる時透くんも素敵。あぁ、時透くんってだめなんだっけ?名字だからってこと?
 いやでもさぁ、こんなに仲良くなった人初めてだから名前呼びしたことなんて無いんですよね。緊張しちゃうなぁ。

「む、む…むむむ」

 そんな白い目で見ないでよ…むいちろうくんより、ときとーくんのほうが言いやすいじゃん…

「別に今すぐって訳じゃないし、無理して言ってもらいたいわけでもないから。ただ、ちょっと嬉しいかなって思っただけ」

 絶対いつか言えるようになるぞ(決意)
いっそ愛称ってどうかな…、むいくん…とかね、へへっ。

「(また考え事してる…でも今度は落ち込んでる感じじゃないみたい。むしろ楽しそう。本当に顔に出やすいなぁ琥珀は)」

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