あんスタ
□朔間家妹からみた留学事件
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「俺、留学するから」
それは実に突然の事だった。凛月はもちろん私も空いた口が塞がらなかった。
ずっと一緒にいた人が突然しばらくいなくなるというのは堪えるものだった。
そうだ、凛月はどんな顔をしているのだろう。そう思って右を見ると静かに泣いていた。
あぁ、まただ。
凛月が泣いているとどんなに悲しくても虚しくても辛くても泣けなくなってしまう。でかけた涙だって引っ込んでしまうのだ。時に便利で時に不便なものだった。
わたしはまた泣けないのだ。
「…行かないでよ」
凛月は言った。私だって行ってほしくない。でも、でもわかるんだ。どうしてお兄ちゃんが留学しなくては行けないのか。痛いほどわかるから、凛月がそう言うならわたしは凛月とは反対のことを言わなくてはいけないんだ。
「…凛茉」
わたしがあんまりに何も言わないからお兄ちゃんが意見を求めてきた。まだ、なにもまとまってないけれど言うしかなかった。凛月はわたしが何を言うのか分かっているようだった。
『いいよ、行ってきても。心配なんでしょう、行くしかないじゃない。いつでも帰ってきてよ。わたしが居場所を作っといてあげる。空けておいてあげる。わたしが、お兄ちゃんの居場所になってあげる。学園のみんなの事もちゃんと見るからさ、安心して行ってきてよ。』
分かっていても凛月はみとめたくないようだった。わたしにはどうしようもできまい。もうお兄ちゃんは決めてしまったのだから。
「…いか、ないでよ……」
また泣くの、凛月、もう泣かないでよ。わたしが泣けなくなってしまうから。凛月の泣き顔なんて見たら自分なんかどうでもよくなっちゃうんだから。