隠しごとを、してました

□「同情なんかは、」
1ページ/4ページ

初めてあの男――タカオと出会ってから、かれこれもう3カ月経った。

遠い「シュウトク」という村から来ているらしいこの男は、2日に1度か3日に1度の頻度で僕の城に訪れていた。

だが、タカオは初めて僕の城に来た時のように僕に極度に触れたりはせず、村の特産品だというニンジンや、伝統料理だという「オシルコ」というものを持って来ては、僕に押しつけていた。

そういえば、先月のある日は「豆乳ドーナツ」というものを持ってきていた。あれは正直、とてもおいしかった。きっと湯豆腐と同じ味がするからだろう。

このままではいけない、何とか僕の世界を元に戻さなければ。そう思って過去に何度か結界を張り直してみたり、タカオに冷たく「帰ってくれ」と言ってみたが、全く効果は無かった。



そして今日も、タカオは僕の城にいる。
この光景が日常と化していることが、僕は怖かった。
今日こそは言ってやろう。「もう来ないでくれ」、と。
しかし、それだけでは、きっと奴は明日か明後日も来るだろう。何か、何かいい言葉は…

長年の知識が詰め込んである脳の思考回路を、グルグルとフルスピードで回して出た答えは、何とも簡単な答えだった。


「正直、迷惑だ」
「え?」


やっと言えた。
タカオはオシルコを作っている手を止めて、振り返った。その顔には、いきなりの言葉への驚きが表れていた。

これこそが僕の脳が叩き出した答え。
迷惑だと言っている相手の所にわざわざ遠い所から通うモノ好きなんて、どこにもいない。
その相手が人から忌み嫌われている「化物」なら、今更。

僕の世界に平穏が訪れるまでもう少し。
僕は駄目押しとばかりに、言葉をどんどん付け加える。


「ほぼ毎日のように押し掛けてきては変なものを押しつけて…相手が迷惑だと思わないのかい?」
「迷惑、だったの?」
「ああ、すごく迷惑だ。それにお前も、わざわざこんな化物の所に通うなんて、アホじゃないのか?」
「別に俺は、」
「何かの罰かは知らないが、遠い村からこんな辺鄙な森にまで来るなんて馬鹿げている。このままだと、お前も僕の仲間として村八分にされるぞ。」
「…。」
「そもそも何故、そんなに僕に笑いかけるんだ?罰か何かならば、この森の前まで来て村に戻ってもバレはしないだろうに。」


「そうやって、自分のこと卑下すんのはやめろよ!」



あと一歩で奴をこの森から遠ざけられる。僕の世界に平穏がやってくる。そう思った時だった。
タカオが、突然怒り出したんだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ