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□俺の為に
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蒼さんに関してはほぼ全肯定な俺だが、実は一つ、これはやめてもらいたいと思う事がある。
付き合う前からの習慣で、どうしてもやめられないらしく、今も俺の目を盗んでベランダに。
うるさがられるのは承知で、同棲を始めてから事あるごとにお願いしてみたのだが、説得に未だ成功していない。
カーテンを引き、ベランダを見ると、手すりに背中を預け、夜の何もない空を見ながら煙草の煙をくゆらせている蒼さんの姿があった。
「蒼さん」
はきだしの窓から顔だけ覗かせると、蒼さんはチラリと目だけをこちらによこして、大きく息を吸った。
煙草の先が一際赤くなる。
「んー?」
「…また煙草」
「あぁ、ごめん。…なんか今日は我慢できなくてねー」
蒼さんの煙草を吸う姿は、いつもの可愛い感じとは違いどこか淋しそうで、俺の知らない一面を見せられているみたいでいたたまれない。
やな事あるなら俺を使えばいい。
悩みがあるなら本気で聞くし、八つ当たりしてくれてもいいし、癒しが欲しいなら俺がいくらでも一肌脱ぐ。
近くにいるのに遠い。
蒼さんはそれから数回吸って、さっと灰皿に煙草を押し付け火を消し、窓の前に立っていた俺の前までやってきた。
「もう、吸わないから。ね?」
と甘えるような声と上目遣いで俺を諭そうとする。
でも今日の俺は折れないと決めた。
「藍?っ!」
両腕を強くつかみ、そのままキスでを口で塞いだ。
歯を舌でこじ開けて、口内を沿う様に舌で舐め回し、蒼さんの唾液をすくい取り吸い上げた。
「ばっ、煙草吸ったばっかで」
「うん。苦い」
「当たり前だろ?!」
「体に悪いからやめて」
睨む勢いでお願いしてみるが、蒼さんからは煮え切らない声。
「うーん、わかってるんだけどな。でもつい吸っちゃうんだよ。藍は吸わないからわかんないだろうけど」
「要するに中毒なんだろ?」
「まあそうだね」
「煙草の代わり、俺のキスにしとかない?」
「…はいーー?」
「無害だし、蒼さんの事気持ち良くさせるよ?」
ホントだったら笑えるような言葉だが、そこは堪えて真剣に。
そして最終兵器を投下する。
「蒼さんの体、心配なんだよ…ホント。吸いたくなったらいつでもシていいからさ。…お願い蒼さん、俺の為に煙草やめて」
腕を掴んでいた両腕をゆるゆると下ろし腰に巻きつけ、見上げる蒼さんから視線をわざと逸らし、年下らしい拗ねた様な甘えた様な表情を作ってみせた。
言っとくけど日頃なら絶対に、絶対にしない!あくまで最終兵器。
蒼さんの顔が嬉しそうに紅潮する。
「それ反則だって!藍のバカ…」
腕が俺の首に伸びて顔を引き寄せられると、唇に柔らかい感触を感じた。
もう苦くはなかった。
「禁煙、約束したからな?」
「え、あ、うん。吸いたくなったらさ、藍の甘えた顔思い出すよ」
ぷっと吹き出す蒼さん。
俺もやってて相当恥ずかしかった。
でも本当にこれでやめてくれるなら、恥をかいた甲斐があるというものだ。