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□バイトの先輩
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ガシャーン!

深夜のコンビニにけたたましい音が響いた。

「大丈夫ですか!?」

俺はカウンターを飛び出て、音がした方へ走る。

そこには山積みされたペットボトルのダンボールが見事通路に倒れ、中身が散乱していた。

「あたた…、ははっ、ごめん、やっちゃったよ」

「片桐サン…」

バイトの先輩である片桐さんは転げたダンボールの中に埋れていた。

「どうやったらダンボールと一緒に倒れられるんですか?」

俺は飽きれた口調で言いながら、片桐さんの周りのダンボールを移動させる。

運良く深夜のコンビニは客もおらず大事には至らなかったが。


あらかたダンボールを片付けたが、先輩はその場から中々動こうとしない。

「…どっか痛めました?」

俺が尋ねると、先輩は大きく肩を揺らした。

「や!平気平気!!今痛いから立てないけど、すぐ動けると思う!」

「立てないんですか!?」

「いや!立てる!立てるはず!…イででででっ!」

慌てて立とうとした先輩は痛みに声を上げうずくまってしまった。

「片桐サン、バックルームまで手貸しますよ」

そう言って手を差し出すと、

「い、いいって!」と、
結構豪快に手を払われた。

少しムッとした。
せっかく助けてやろうというのに…。

見れば片桐さんは年上の癖に小さいし華奢だし、腹いせに嫌がる事をしてやろうと思い立った。

「よっこらしょ、と」

「なっ!?」

脇から手を入れ、もう片方の手で両足をすくい上げ立ち上がった。

「バカっ!降ろせよ!!」

男としてはお姫様だっこなんて罰ゲーム以外の何物でもない。
その目論見は当たり、先輩は羞恥と驚愕に顔を歪め腕の中で暴れた。

その時先輩以上に驚愕していたのは俺だ。

何、この軽さ!
体の肉の付き具合!
なんとも言えない匂い!
男をお姫様だっこしたのは生まれて初めてだけどなんだろう、悪い気はしないしむしろ……。

「降ろせ!小林!!」

「あ、はい」

本気で怒鳴られ我にかえった。

「ときに片桐サン」

「なんだよっ!」

「何で顔赤いんですか?」

あれ、なんで俺こんな質問してるんだ?口が勝手に動いてる感じだ。

「…っ!」

あ、恥ずかしがる顔が可愛いからだ…

「ぶぁーーかっ!!死ねっ!」

先輩は脚を引きずりながらバックルームへ消えた。


それから1カ月、口はおろか、目も合わせてもらえなかった。


まだ恋人になる前の話。

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