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□好みはひとそれぞれ
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休日のゴールデンタイム。

夕食を済ませた俺らは30インチのテレビを観覧中。

ソファの中央、定位置に座った恋人の右隣が俺の場所。

画面にはバラエティ番組なのか、沢山の芸能人が出ていてぎゃあぎゃあと騒がしくしている。
その中に最近よく目にとまる若い司会者がいた。
ちょっと雰囲気が藍くんに似てるんだよね。だから気になるのかもしれない。

「この司会者、最近よく見かけるよね。真面目そうで良いと思わない?」

隣の男前を見上げると、なんとも難しい表情をして画面を睨みつけている。

「んー、・・・」

あらら、中途半端な返事が返ってきた。そして、

「俺は、あんまり好きじゃないかも」

とバッサリ。

ま、まあ人には好みというものが有るしね!となんなく自分を鼓舞してみる。

「こ、このアイドルの女の子は可愛いよ、ね?」

最近流行りのアイドルグループのコを指差して恐る恐る尋ねてみた。

実はこのコ、俺の好みの女の子だったりする。

するとまたまた難しい顔で「んー」と唸って、

「そうですかねー、そうでもないと思いますけど」

...何か落ち込むんですけど...。

自分が良いと思ったものを好きな人に否定されると、まるで自分が否定されてるみたいな錯覚に陥ってしまう。

隣でしょぼんとした俺を察してか、恋人は俺の頭を撫でながら顔を覗き込んできた。

「何?俺何か気に障る事言いました?」

「…ううん、言ってないよ」

普通に返事したつもりだったのに、ちょっと声が暗くなって、「しまった!」と思った。

年上な俺はこれしきの事で動揺して恋人困らせてはならないのだ。


「でもソウさん何か不満あるっぽい」

「ないって…。...たださ、」

「ん?」

俺は藍の胸に頭を寄せた。

「趣味とかさ、好みとか価値観違うってだけで破局するカップル沢山いるっていうじゃん…」

「あー。…...ってそれ、さっき言ってたアレ?司会者とか女の子とか!」

恋人は目を大きくして合点を得た顔をした。

「そうだよ!俺、お前と好みが全然違くて、それでっ…」

さっきの不安な感じが目頭に押し寄せて、危うく泣きそうになるのをぐっと堪えた。

女々しいところなんか見せて引かれたら立ち直れない。
うつむいたまま両手を握りしめ、気持ちが静まるのを待ってたら、恋人に体をすっぽりと抱きすくめられた。

「な、なに?」

「違うから」

向きをずらして恋人の顔をうかがうと、照れたような笑顔。

「違うって?なんだよ…」

はー、と恋人は息を吐くと、俺と視線をしっかと合わせた。

「俺以外の奴にイイとか好きとか言わないで。マジで嫉妬するから」


冗談ぽくないトーンで言われ、恥かしくて体温が一気に上がる。

「あっ、相手芸能人じゃん…。なら、女の子に可愛いって言うのもダメ?」

照れ隠しに質問したけど、

「だめ」って顔の近くで優しく言われたら完全にお手上げです。
嬉し恥ずかしです。

さっきまで落ち込んでたのに今は舞い上がっております。

「ソウさんの好きなものは好き。でも人間はNGでお願い。きっと赤ちゃんにでも嫉妬できるから俺」

そう言って男前な顔でニッコリ。
……じゃないだろっ!!


「あー、もう!大好きだーっ!!」

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