短編 ベリキュー2

□時の灯火 6
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目が覚めるとみんなまだ眠っていて。
同じくらいに見えるのに年相応なのは私だけなんだって


思うとすこし面白くって。


人よりも長い時間を生きている二人と
人の身で長い時をこえた二人。


こんな集まりはもう…二度とないかもしれないよね。
来れて、よかったと心の底からおもう。



「…」



今日は移す日だからこの地とは本当にお別れをするという。
部屋から渡り度まで歩くと雨が降っているのが見えた。



「私たちが出会ったのも雨が降ってたよね」
「あいりっ!?」


急に声をかけられて驚いて手すりから落ちそうになって
朝から騒いでしまった…。


「ご、ごめん」
「私こそ驚かしてしまってごめんなさい」


しゅんとした愛理に酷く懐かしい気分になって
でも、あの頃とは違う大きさで


全てが新鮮で。


「おはよう、愛理」
「おはよう、舞美ちゃん」


すこし驚いた愛理の顔も揺れるように笑うその姿も
全部私の中にあったんだ。


「碁、やる?」
「覚えてるの?」


「もちろん!」
「じゃぁ、やるぅ」


カチッ、カチッっと石を置く音がする。
これからも、ずっと一緒にこうして碁を打ったり

お話したり。


触れ合ってご飯食べて。


空白の年数も超えて私達は一緒に歩んでいきたい。



「愛理?」
「なーに?」


鼻をすするような音にふと顔を上げてみれば
拭わず流れたままの涙に私は動揺して



「ど、どうしたの!?」
「どうもしない…」



席を立ち愛理の真横に座って涙を拭おうとした。



「愛理!?」
「違うの、またこうして会えて…嬉しいの」



拭おうとした手を握られてそして、頬へぴたっとくっつけられた。


「私も嬉しいよ」
「会いに来てくれてありがとう」


ふと、雰囲気が変わった愛理に言葉が出なかった


「出会ってくれて、思い出してくれて必要としてくれて
ありがとう、私に大好きを教えてくれて…本当に、ありがとう」



されるがままになっている反対の手で愛理を抱き寄せた。
沢山の思いに答えられないままいるのはいけないと

思ったから。


握られていた手を首にまわしてすっぽりと収まる体を
ぎゅーって抱きしめて愛理の匂いに泣きたくなって



「大切な時間をくれてありがとう」


私のありがとうに余計に泣き出した愛理を慰めるのに
みんな起き出してきて茶々を入れられたのは言うまでもない。


そして、愛理の泣いた意味を理解出来たのは
取り返しがつかない状態になってからだった。





――――――――――――――――




朝餉を食べて説明をうけて階段のところまできた。
みやがすこし離れたところですこし大きな輪を開く。


「3人はこっちきて」


みやに引き連れられてぞろぞろと歩いていくと時が止まったかのような
そんな場所にやってきた。


愛理と千聖の家を移す土地の近くにはお団子屋があって



「じゃぁ、持ってくるからここにいてね」
「うん」



わいわいとお団子を食べながら待つこと数時間
疲れきった二人がやってきた。



「あー!舞美お団子たべた!?」



来るなりももに叫ばれて。



「た、食べちゃった…」
「ちょっと、みやー説明しなかったの!?」


いたずらっ子みたいな笑みを浮かべるみやと
諦め半分呆れ気味のもも。

なんだろう。



「愛理や千聖みたいな子が食べると妖怪化出来るのここの食べ物って」
「え、私食べちゃったけど…私も妖怪になるの?」



恐る恐る聞くとみやと顔を見合わせた。



「うんん、愛理や千聖までいけば確実になるけど舞美じゃならないよ」
「じゃぁ、なんで?」

「運が悪いと愛理や千聖みたいな存在になってしまうってだけ」
「そうなの?」



みやをちらっとみると目を逸らされた。



「うん、でも覚えておいて、今まで以上に力は強くなる」
「えー、やだっ」



そのあともこうなったらやけだとお団子をみんなで沢山食べ。
お開きになった。



「わーっ!!自由だ!」
「あ、千聖〜」


叫んで走り回っている千聖をももが追いかけているのを
尻目に私はみやに輪の外へつれていかれた



「ここ、こんなに狭かったんだね」
「うん」


みやって本当にわかりやすいんだ。
だって、こんなにも言いづらそうな顔で

私を見るんだもの。



「みや?」
「お別れの時間なの」

「お別れって、どういう…」
「ごめん、でも、舞美は人間だから」



人間ってそれなら



「ももだって人間じゃん」
「あれは、元人間」


みやはどうしたって私をあっちに戻す気はないらしく
こうなれば強硬手段だとばかりに突撃をかまそうと走り出せば


へんな突風に弾き返された。



「いったっ!」
「ごめん」


「待って!愛理とまた離れるなんて聞いてないっ!」
「…ちょっと力のあるただの人間をあんなところに
置いておけるはずがないじゃん」



ちょっとした、間があった。
けれど、確実にみやは私を切り離そうとする。



「なら、私も妖怪になるっ」
「どうしても、愛理に会いたいなら自分で来い」


冷たく言い放たれて。
みやとは思えない別人のようで


「まって!まって、みやっ!」



みやを飲み込んだ輪が小さくなっていく。



「ごめん…来るの待ってるよ舞美」



ぼそっと呟いた一言は聞こえなかったけど
その時、確かに私はまた愛理と離れてしまうことになったんだ。
































あれから、数百年の時が流れた。
ももの言うとおり衰えることなく

これだけの時間を過ごし


未だに、あの世界へ繋がる道は見つけられずにいる。



化物呼ばわりされ生きながらえている私はあの愛理達がいた
あの地で暮らしている。


同じように空間を捻じ曲げ、屋敷を作り。
巻物ばかりが溢れかえるようなそんな場所だけれど


愛理への手がかりはひとつだって見逃したくないんだ。




「…もう、だめかなぁ」


力も爆発的に飛躍し様々な妖怪と日々を過ごしている。


「なにがダメなの?」
「なっきー…?」


この子も同じ妖怪。


「なっきーでーす」
「もう、諦めようかなって」


「あ、それなんだけどね舞がくれたのよこれ」
「舞って今どこにいんの?」


紙をもらいながら聞いたその一言に心臓が飛び跳ねるのを感じた。


「やじが探してる場所」
「…え?」


慌てて紙を開くと、陣が書かれたその脇に小さく
血で線を真横に引くことと付け加えられていた。


「ありがとう」
「どういたしまして」



落ち着いた雰囲気のなっきぃにちょっとした疑問が湧いた。



「ねぇ、なんで一緒にいかなかったの?」
「やじと行くからに決まってるでしょ」

「そっか…ありがとうね」
「ほらっ、早く行こうよ」


屋敷から出るために階段を下りて
庭のど真ん中へきた。


陣をかりかりと書いていき。



「じゃぁ、中に入って」
「了解」


なっきぃが入ったのを確認して
白紙の巻物に指から溢れ出る血を一直線に引いたんだ。





「わぁ、すごーい!」



なっきぃの声に目をゆっくりと開けば
そこには、その時みた風景がそのままに映った。



「ごめん、なっきぃ」
「いいから、行った行った」



背中を押されて、お屋敷まで走ってひたすら走って
見えてきた見覚えのある外観。


門をくぐればあの4人がいて走ってきた愛理が見えて。
飛び込まれて転んで痛いはずなのに嬉しくて

涙が出てきて笑顔もこぼれて辛くて暖かくて
体をすこし離した愛理と手をつなぎ合う。



「やっと、会えたね」
「うん、ずっとまってたんだよ」


子供のように説明してくれる愛理にうんうんって相槌を打つ。


「これからは、ずっと一緒だからね」
「もちろん、一緒」


寂しかったんだ、不意に消えたくなるほどに辛く孤独を感じたの。
でも、それは孤独なんかじゃなくて痛い幸せだと気づいた。


寂しいのは貴女を覚えていたから。
愛理を知っていたからなんだよ、だから私は幸せだった。





近く集まっていた仲間へ「大切な時間をありがとう」







おわり
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