短編 ベリキュー2

□時の灯火 2
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それから、町は大騒ぎだった。
私はいつの間にか家の前にいて。


「舞美っ!あんた、どこ行ってたの!?」
「え?…わからない」


今日一日の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。


気づけば車に乗せられて
あの騒ぎから一ヶ月が経とうとしていた。



とくに思い入れもないこの地から
離れたくないと泣いたのはなぜだったんだろう。



私たちは新しい生活へ歩き出していたんだ。


































「あんたが成人なんて早いね」
「うん、私だって立派に大人だよ」


なんて、笑いあって。



恋人も作ってみたり。
大学も楽しい


けど、心に穴が開いたみたいに
いつまでも、私は私じゃないみたいで



ふいにやけに懐かしい気分になるの。




そんなときだった。
姉からのお祝いにもらったのは航空券で



「ありがとう、でもなんで航空券?」
「節目だからかな、故郷を今の目線でみるのも大切かなって」

「ふ〜ん」
「あんまうれしそうじゃないわね、もうちょっと喜びなさいよっ」




って圧し掛かってきたえり(姉)とじゃれて遊んで
騒いでいたらお母さんに怒られた



「ごめんなさーい」
「ごめんなさい」




こっちをみるえり
そんなに期待しても行かないし。



「あんた、もう夏休みなんだからさ」
「あー…うん」





そんなわけで、えりも日本にようがあるからとか
なんとかで気づけば日本へ降り立っていた。




「…」
「うわーさすがに八月じゃ暑いね」


暑いなんてもんじゃない
とけるわこんなんじゃ


「ほらほら、そんな顔しないの」
「元からこんな顔なの」


アイス買ってあげるから機嫌直してよ〜
なんて、子供じゃあるまいし。


おばあちゃん家についてすぐ
えりはばたばたと準備して



「ねぇ…」
「なーに?」

「普通、東京とかじゃないの?」
「里帰りになんで東京いくの?」


当たり前に返されたけど
これって、里帰りだったんだ。


「まさか、一人で行くのがつまらないからつれてきたの?」
「え?やだーそんなわけないでしょ」


そう?目が泳いでるけど



「で、その挙句私置いて遊びいくの?」
「友達と会う約束してんの、ごめんね帰りは3日後だからね!」



そういって、飛び出してった。


弾丸すぎて都会に出る意味もなさそう。



「舞美も散歩でもしておいで」
「う、うん」


おばあちゃんに声をかけられてどもる。
まぁ、暇だしね。



玄関に向かうと声をまたかけられた。


「なーに?」
「どうしたんだい?」


驚いたように聞き返され
声がした気がしたけどちがったのかな。






――着物を羽織るんだ




「っ!」





――さぁ、昔の君の部屋へ




声はした、けど男性の声だったんだ。
怖いのに体は当時の私が使っていた部屋へ向かっていた。




「まって!なっ!いやっ!!」



どさっと部屋へ体を投げ入れられ



「いたぁ…たたっ」



体勢を整えると変わりないあの頃と同じ部屋が目に入った
体はまたも勝手に動き少し大きなタンスの前にたたずむ。



閉じていた開き扉はどちらもバンッと大きな音を立てて開き
恐怖に慄く。


「き、もの?」



目の前に現れたのはタンスのスペース一面を使って飾られた
ピンク色の着物だった。






つづく
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