秋風に吹かれて 完結

□最終話
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過去は今につながる。
昔は今に今は未来に未来は大きな希望に。



【秋風に吹かれて 15】



えりが私の乗る航空機を調整してくれる。
音で分かる、この航空機はすごく調子がいい。


横で、えりの仕事ぶりを眺めながら
色んな抵抗から生まれた命が助かる瞬間。

整備兵の出撃免除。


ちっさーが願ってやまなかった
舞ちゃんのこれからがつながって

それが私が願ってやまなかったえりのこれからを作る。


なっきぃは…残念だったけど
それでも、これでよかったって今なら言える。



最後の出撃。
私が本当の最後。

えりの後ろで待機してる皆を見ると
浮かない顔をしてる。


前を向きなおせば真剣な顔で機械をいじくるえり。


「強くなれ、何かの犠牲の上になる幸せは偽善だから…矢島ちゃん生きろ。」
そんな言葉を少し前、田中さんにもらった。


田中さんも亀井さんを守るために頑張ってる。
私と同じ信念の元に生きてる人。



この、出撃が終われば…私たちと同じ年代の子達が
沢山、国の為に人柱となる。

もう、運命は変えられない。



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「矢島伍長…健闘を祈ります」
「ありがとうございます…えり、負けないでね」


せっかく人が泣かないように必死に取り繕ってんのに
あっさりと名前を呼んで、笑いかけてくる舞美。

まったく、大型犬は健在なんだから。


「では、行ってきます!!」


大きな声を聞いて、翼を降りる。
少し走れば舞美が心配そうな顔をしながら手を振っていた。

手を振り返せば満面の笑みに変わって航空機は地上から飛び立っていった。



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長く続く海の上を飛ぶ。
皆、泣いてたなぁ…。

あんなに泣いてもらえるなんて予想してなかったから
吃驚した。

エンジンの音が心地いい。
なんだろう、麻痺したのかな。


怖くない。


何度かドックファイトしたりして打ち落とせた。
この命、敵艦へ体当たりする以外には使わない。

絶対成功させてみせる…!



「なに…あれ」


雲を抜けると黒く大きな軍艦を見た。
あれはまさしく、敵艦だろうけど…大きい上に数もある。


あんなの、勝てるわけない。


「ち、ちがっ…私は…」



呼吸が荒れる、手も微かに震えて。
誓いが揺らぐ。


指を噛む、血が零れ落ちるほど。
ちっさーや栞菜なっきぃ…それにももだって。


この中、行ってるんだ。
私が行かないでどうする。


「ぐはっ!くっ…!」


急降下させてまっすぐ、すさまじい銃撃にだって負けない。
痛みは感じなかった。ただ、必ず当てるそれしか頭になかったんだ。


「うわぁぁああああ!!あたれぇぇえ!!」




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舞美が飛び立って数ヶ月。
あの戦争は終止符を打った。

上の読みは正しく、敗戦したけれど
この国は急成長を遂げた。


あの、戦争からはもう、数年が経っていた。
どれだけ待っても舞美が戻ってくることは無く

泣けども泣けども心の穴が埋まることも無かった。



今日は終戦の日。
スーツに花束を持って沖縄まで

今日の為に数年ずっとお金を貯め会いたい一身だったの。


崖から花を落とす。


「…舞美」

うちは…平和な世界に別れを告げた。


舞美がいなければどんな風景もモノクロだし
これからを一人で生きていく気もない。


あんたの居ない世界に幸せなんかないんだから
どこまででも、うちはあんたに会いに行く。




おわり

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