秋風に吹かれて 完結

□13話
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次だって、決まってた。
時間が無いってことも…知ってる。

だからこそ、出来ることがあることだって知ってるんだ。



【秋風に吹かれて 13】



見えなくなっても手を振った。
ずっと、いつか帰ってくる気がして。

千聖や栞菜は帰ってこなかった。
なっきぃも…帰ってきてない。


ももが行くって聞いたときも実感がなかった。
実際は、今も、飛び立った今ですらまた帰ってくる気がしてならない。


「みやっ!」
「舞美…?」


声がして振り返れば抱きつかれ顔を上げると
泣きそうな顔をした…舞美が抱きついていた。

なんで、舞美が泣きそうなの
泣きたいのはうちの方だよ……。



認めてないくせに泣くも何もないか。



「みや、泣きたいときは我慢しちゃだめだよ」

横から、ふんわりしただけど芯のある声がした。

「愛理」
「舞美ちゃんはえりかちゃんのとこいかなきゃ駄目でしょ」



仁王立ちして可愛く怒る愛理に思わず噴出して
やっと、理解できた。

そうだ、うちは舞美を悔いの残らぬよう送り出してやらなくちゃ。
まだ、間に合うんだから…


舞美を引き剥がし2人でおくりだしてやる。
困ったように笑いながら走り出した舞美の背中を眺めながら

二人で笑った。


「みや、支給品」
「支給品?」


愛理に渡された少し大きめの荷を解く。
これ…


「飛行服だよ…あとこれも」
「…手紙?」


ももからだった。

なんで、なんではっきりうちに言わずに逃げ回るようなことを
したの!?

もう、会えないのに…!
顔を見ることも出来ないのに、最後までこんな…。

「あと、マフラーもものだよ」
「…」


服に名前を書かなきゃと裏についているネームプレートを
確認すれば、そこには「嗣永」と書かれていた。


「え…これ、ももの…」
「よかったね、みや」


もうっ、本当にこんなこと…。
うちは、もっと話したかった。

もっと、ももの笑顔が…見たかっただけなのに。


「あい…りっ」
「みや、泣くの我慢しちゃ駄目だよ」


愛理の手がうちの頬に触れたときにはもう、涙は止まらなかった。



---------------



みやを見ていると離れるのにすごく躊躇しちゃったけど
栞菜の意志を継いだ愛理なら…任せられる。

それに、確かに、私には時間がない。

この、数時間で決まる。


すべてが。


「えり」
「…もう、用事は終わった?」


私にはえりしかいない。
…うんん、えりしか―――いらない。


「舞美」
「なに?」


えりの隣に座る。


「もう、これ以上変更は…ないよね?」
「…わかんない」

「立て続けの変更、これ以上はしようが…ないよね」
「うん、これ以上の変更があるとすれば…整備兵だと思う」


次で最終部隊。
私は、少なくとも次。

逃げるなんて思わないけど
恐怖からはやっぱり逃げることは出来ないんだなって

仲間を見送って次に怯えて

私は臆病で…でも、逃げるって選択肢だけは取りたくなかったんだ。


もし、変更があれば、えりたちの希望が見える変更だと思う。
私は操縦士として育ててもらい。

国に帰すときは今なのだと

そう、思ってる。



「この、作戦自体がなくなるって選択肢はないかな?」
「…ないと思う」

えりが必死に言葉を並べる。

「だって、最初に言ってた目的は達成されたよね」
「そうだね」

「それなら、その可能性だって…!」


ないよ、そんな可能性。
きっと、もう変更はない。


「目的は達成されてると思う」
「だ、だよね」

「でも、変更はないと思う」
「ど、どうしてっ」


目的は達成されてもまだ最後の仕事がある。


「口封じ、ここからは死にに行くのが…任務」
「…そんな」

「この作戦は負け戦だから…決行されてる」
「…」

「この先の事を願うためだけに亡くさないためだけに…若者と引き換えに
国を守ろうとしてる」
「…!」


「だから、だから」
「舞美…」

久しぶりのえりのぬくもり。
泣かない、絶対に。

私は揺らいじゃいけないんだ。


「だからね、私たちが死ぬのには…意味がある」
「そうだね」

「えりを…ぐすっ…守っ…えぐっ」
「舞美」


握られていた手はいつの間にか背中へ
少し影が出来て、包まれる。






私は、私が生きる意味を見つけられた。



それはきっと、幸せな終わり。





つづく

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