秋風に吹かれて 完結

□12話
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最後に交わした敬礼が最後まで頭から離れなくて。
見すぎて所々折れたり千切れたりしているえりとの写真

もう、これで最後なんだ。



【秋風に吹かれて 12】



私は同じ出撃隊員でも出撃して散った隊員と
出撃前の隊員では越えられない壁があると思っている。


どれだけの恐怖があったんだろう。
栞菜の遺書はそれだけ次を待つ者にとっては

葛藤が見える分、死を考えさせられるものとなっていた。



ちっさーは業務的な遺書を残して行った。
でも、出撃前のちっさーの顔はぼろぼろだった。


あれは、舞ちゃんを死なせたくないと整備兵の出撃取り止めを
訴えたからだそうで。

上官がついさっきぽろっと愚痴のようにこぼしていた。




板に張り出された部隊も次で最後。
きっと、もうすぐだろう。



手から伝わる質感、無機質でとても冷たい。
さっきからする小さい振動。


地震…?いや、小さく音がする。
まさか、ここが見つかったんじゃっ…!





慌てて外へ飛び出すとすぐに誰かにつかまれて
口をふさがれ草むらに隠れさせられる。



「う゛っ!う゛うぅ」
「舞美、ももだから静かにっ」

暴れて逃げようとすれば息が切れた桃の声。
そして、腕に染みてくる生暖かい何か。


だいぶ、落ち着いてきた頃。
地面を見れば、桃の腕から結構な量の血液が流れていた。

「ま、まいっ」
「しっ…見つかるから静かに」


さっと、スカーフをはずし止血して包帯代わりに巻けば
出血はなんとか抑えられた。


だけど、顔はしかめたままで。
この時代、痛み止めなんてものは配給されていない


「歩ける?」
「大丈夫…」



でも、この辺で爆撃があったわけだし
まだ、油断は出来ない。

そう思った私はももを勢いよくおぶり
駆け出した。



「ま、まいみっ!」
「いいから、おとなしくしててね!」


触れている手から生暖かい液体が流れてるのが
分かる。


ももは、あと2時間で出撃でこんな体で行ったところで
体当たりなんかできるはずもない。

それに、成功を収めてる分、敵の警戒だって増してるはず
こんなの、行くだけ犬死するだけで…。


「舞美、舞美!」
「…」


ももの手が頬を覆う。


「もぉ〜何泣いてるの」
「…泣いてなんか…ないもん」


「名パイロットのくせにね」
「ももだって、そうじゃん」


呆れたような声色で全ての物事に諦めたかのような
雰囲気に私のほうが悔しくなってきて

野原にももを落とした。




「いたっ!ちょっと舞美!…まいみ?」
「諦めんな!最後まで抗え!」


分かってる、私のわがままだって。
抗えないのも、ももはだいぶ大人だったんだ。


「なんだ、舞美にはばれてたか」
「…っ!」


言葉が出てこない。


「分かるでしょ?舞美だって明日出撃なんだから」
「…それは」


清清しいほどの笑顔に息が詰まる。


「ももはね…最期くらい華々しく散りたい」
「なにいって、ももは生きていなきゃ、ももこそ生きていなくちゃ
駄目な人でしょ!」


色々な苦労をしてやっとみやと出会って。
やっと、やっと見つけたつかんだ幸せなのに。


「最期くらいね、必要とされたかった、だからいいの」
「みやにこれでもかって程必要とされてるでしょ!」


また、そんな微笑欲しいわけじゃない。
分かってるよ、抗えないって死ぬしかないのも。


でも、そんな無抵抗に2時間後を迎えて欲しくなかった。
私はもものことがとても大切だったんだ。


心のそこからあなたの幸せを願っていた。



「もも…っ!」
「変な所、強情なんだからさ」


そういって、抱き寄せられた。
私のほうが大きいから変な感じだろうけど。


こんな、こんなになにも出来ないんだ。
ただ、流れっぱなしの涙はそのままにももを強く抱きしめかえした。


「もも…ももっ」
「本当にさ、舞美と出会えてよかった」


ももから離れるとももまで泣いていて。
でも、やっぱり笑顔は崩さなかった。


「みやに出会えた事も…私はとっても幸せ」
「もも…」


そんな、笑顔のももに急に手をとられた。
笑顔は消え、真剣な顔をして。


「だからこそ、親友の舞美に忠告ね」
「え…」


痛いくらいの手の力。


「えりかちゃんのことももを思ってくれる以上に大切なんでしょ?」
「なっ!」


今度は優しい顔に変わる。


「ふふっ、見てれば分かるよ?だからこそ逃げてないでちゃんと
向き合いなさい」

「うっ…だって」
「だってじゃありません、怖いのも分かるけどさ」


また、手を引かれももの腕の中へ誘われる。
ぎゅっと強くも優しい強さで抱きしめられる。


なんとなく、無意識に頭を撫でてあげたら
吃驚したように顔を上げてまた、笑ってくれたっけ。





−−−−−−−−



目の前には航空機に乗ったもも。
今回は一人での出撃となる。

整備兵はえりが担当していた。


ついさっきまで、目の前で話していたのに。
ついさっきまで、体温を感じられるほど近くに居たのに。


同じ隊員なのに、送り出してばかりで
いつか、送り出されるはずなのに実感がどんどん薄れていく。


どんどん、仲間が居なくなる
辛い訓練を共にした仲間が。


ももの言うとおりちゃんと向き合おうと思う。
大事な家族なんだから。


ももの出撃後、私はえりの所へ向かった




つづく

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