秋風に吹かれて 完結

□11話
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落ち葉が奏でる秋の音。
下を見れば軍靴。


【秋風に吹かれて 11】


決まっていたいろいろな決め事がほとんど消えた。
3部隊目だった出撃も最終部隊へ回され

最終部隊だった千聖が第一部隊へまわされた。

そして、とうとう第一部隊が出撃した。
結果は今朝大成功を収めたと聞いた。


それは、散ったって事でどうしても素直に喜べなかった。
ちっさーと栞菜の荷物を実家へ送るために整理をしていたら


隅に箱が見えた。


「…これ…」


工場まで走り続けた、あの泣いていた愛理が
どうしても、頭から離れなくて


どうしても、なんとかしたくて
でも、えりみたいになにか声をかけてあげられるわけでもなくて


「ちょっ!舞美!」
「うわっ!あ、ごめっ」


ぶつかってしまったのはももで
腕を取られて一回とまる。


「何そんなにあわててるの」
「はぁはぁ…もも」


私の顔を見てすぐに真剣な顔をする


「…なんかあったの?」
「あ、あいり…はぁはぁ…」



背中をさすってくれて深呼吸、深呼吸なんて言ってくれる。
だいぶ、落ち着いてきて、そうだ愛理を探さないと!


「栞菜が愛理にあてた手紙があって」
「え!?…渡さないまま出撃したんだ…」


手紙を伝えてすぐにいつもぶりっこでにこにこしてるももが
泣きそうな顔をした。

一瞬だったけど、素を見たんだ。


「愛理は整備兵の宿舎にいるからいこっ!」
「う、うん!」


ももに手を引かれ走った。
すぐに私が引く形になったけど。


宿舎のドアを思い切り開けてももに怒られて
えりにあきれられて愛理が奥から出てきた。




「愛理…これ」
「舞美ちゃん?」

「栞菜の場所から出てきたの…」
「…」

手紙を受け取った愛理は心なしか緊張とうれしさで複雑そうな顔をしていて
えりも愛理と同じような顔をしていた。


愛理の手は震えていて、でも目を通せばみるみるうちに
涙が流れ出す。



ばさって音がしたから、愛理のほうを向きなおせばうわごとのように
栞菜、栞菜って手を伸ばして呟いていた。


それが、えりにかぶって見えて
覚悟したはずなのに私の意志なんかお構いなしで

ガンガン揺さぶられる。



落ちた手紙を拾い上げると文字が映る。
それは、栞菜らしさが出た文章だった。




私にこんな遺書かけるだろうか。



次の出撃はきっと私だと思う。
えりに言いたいこと言わなきゃいけないこと何一ついえないまま


ふと、目に入った隅で服を握り締めたままうずくまってる舞。
戦局はどんどん変わっていくその都度、被害も変わってくる。

変えなきゃ、まだ希望はある。



泣いてる暇はないんだ。
私たちには出来ることがまだある…!



えりには生きていてほしいから。
おばちゃんになって、おばあちゃんになっても元気で居て欲しいから。


そのためなら私は英霊にだってなれる。




「舞美!」


ももに強く呼ばれて顔を上げれば泣きそうな顔で見つめられた。
みんながこっちを見ていた。


うずくまっていた舞ちゃんまで。




なんで、みんなそんな顔をしてるの?


「舞美ちゃん…そんな顔しないでよぉ」
「怖いなら怖いって言うのも大事だよ!」


「え?」
「なんだよ、その間抜けた顔は (笑」


皆がなだめてくれる。
怖いって、怖いはずないのに


「怖くなんかないよっ!私は絶対成功させる!」
「…うん、そうだね舞美」



手を握ってくれる、えりは私に対して微笑んでいた。
でも、そんな顔をさせちゃいけなかったんだ。


だから、罪悪感を拭うかのように私は手を握り返して
今、出来る楽しいことを話した。


「ねぇ、皆」
「なになに?」


ももが率先して悪乗りしてくれる。


「空は歴史をつないでくれてるんだ、いつまでもずっと
この空は繋がっていく」

「う、うん」


「だから、寂しくなったら空を見よう?空には皆が居るんだからさ!」



悪乗りしていたももが一番おとなしくなった時
えりが同意してくれた。



「そうだね、空には皆居るもんね」
「そうだよ、空はいつも上にある!」


ただ、ここまで来たら言っちゃいたかった。
えりに、本当の気持ちを。


だから、がーって



「えり、本当に大好き、愛してる!」
「へっ?、ま、まい」



あわててるえりをしっかり抱きしめてぎゅっと服をつかむ。
硬い服の質感、暖かい体温、ドクドク音を立てて動いてくれてる心臓。



あぁ、生きてるなって実感する。




まだ、私は生きてる。
でも、別れの時は刻一刻と近づいてきていた。




つづく

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