秋風に吹かれて 完結

□10話
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笑いながらいつもの笑顔で手を振った栞菜。
その日は秋風が優しく吹いているような日だった。



【秋風に吹かれて 10】


机に置かれた杯を煽る。
真剣な顔をしてる割に3人は笑っていて

緊張感が緩む。


「なっきぃ?」
「ん?」

一人、航空機の前で確かめるかのように触っていた。


「後から行くから」
「…うん、でもさ、なんか不思議」


笑いながら翼に手をかける。
撫でるかのように本当に大事そうに目を細めて

機体を撫でている。


「何が不思議?」
「自分が整備した機体に乗ることになるとは思わなかった」


そうこぼすなっきぃを見ているともしかしたら
パイロットだろうと整備兵だろうと関係ないのかもしれない


「それに今なら舞美ちゃんや栞菜、千聖の言ってた事がわかる」
「なっきぃ?」


「ただ…最後に熊ちゃんに会いたかった…なぁ…」

そう、上を向いて小さく…本当に小さく呟いたなっきぃに何故かうちが泣けてきて
逆になだめられてしまったりした。


2機の整備および確認は愛理と舞が受け持っていた。


うちは列に並んで見ていた。
乗り込んで翼の上で最後の会話を交わす。


栞菜&なっきぃには愛理が
千聖には舞ちゃんが


栞菜も千聖もなっきぃだって笑っていた。
愛理も舞も笑ってる。


私たちはどこへ行くんだろう。
もう、会えないなんてそんなことない気がして。


きっとすぐに帰ってくるんじゃないかと航空機が見えなくなるまで
手を振った。




でも、見えなくなった瞬間。
愛理が佇んだまま、静かに涙を流していた。





感情をまったく見せずに最後まで送りきって
見えないところでこうして泣くなんて栞菜じゃなくても

きっと不安になる。
そっと、肩を抱いて宿舎へ戻ろうとしたら

後ろから抱きつかれた。
舞美だ、愛理と二人でがっつり抱きつかれてうなる羽目になった。






---------------



出撃してから1時間くらいした頃
声が聞こえてきた。

無線だ。


「どうしたの?」

応答はない。

でも、ぶつぶつと聞こえてくる。
何だろう、なにがあった?


でも、刹那はっきり聞き取れた。
まさか、栞菜から聞くとは思わなかったけど


「死にたくない…死にたくないよぉ」
「え…?」

「死にたくない、怖いよ…あいりぃ」


聞こえた言葉にふと上を少し見れば操縦桿を握る栞菜が見えた。
泣いてる…。

なっきぃは必死で栞菜の背中や頭を撫でてあげてる。


「栞菜、聞こえてる?」
「…」

「栞n…かんちゃん、応答しろって!」
「ち、千聖…?」


「そう、千聖」
「どう、した?」

なんだか、不安だ。
とっても不安。


「もう、そろそろ着くから準備に入ろう」
「了解」


そして、これが栞菜と交わした最後の言葉になった。
先ほどまでの様子も嘘だったかのように変わり迷いなく

一直線に軍艦へ突っ込んでいった。


その後に続くように千聖の航空機もスピードを上げる。
ぐんぐん近づいてくる、遠く見るのと近くで見るのとはまるで違う

その巨大な敵へ…。


「千聖だって怖いよっ!舞ちゃん…っ!」




大きな爆発があがる。
戦果は翌日軍部に知れ渡ることとなる。






つづく

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