秋風に吹かれて 完結

□5話
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大空を駆け巡る。
大きな夢を目標を乗せて旅立つんだ。



【秋風に吹かれて 5】



当たり前だけれど、選抜隊に選ばれてから
舞美が航空機に乗っているのをよく見る。

同期だけど、ルートが違う私達。
こうして、同じ隊に選ばれて、毎日を駆けていく。


散り際は潔く。

この国の軍隊の志。


「えり〜」
「あ、舞美…いいのこんなところにいて」


ニコって太陽みたいに眩しい笑顔で笑う。


「うん、今日の任務はおしまい」
「そっか、私も終わったばかりだし…散歩でもする?」


「うん!」


犬みたい。
まるっきり犬だよこれじゃ。


遠くに見える、ちっこい子。
あれは、舞美と同種。

舞美が大型犬ならあれは小型犬だと思う。



「えりかちゃーん!」
「うわっ、危ないって」



抱きつかれて、いや飛びつかれてよろめくと
舞美が支えてくれた。



「だってさぁ、今日隊長に褒められて嬉しいんだ!」
「そういえば、褒められてたね」



舞美も見ていたらしく、よしよしとかしてる。



「あれ、舞ちゃんは?」
「あ、そう。探してるんだ」

「舞ちゃんなら調整してたから、まだ飛行場かも」
「ほんと?ありがと!」


そして、また走り出そうとしていたのを
なぜか止めた。



「ちっさー」
「なに?」

「明日は軍服だからね」
「え?そうだっけ?」



やっぱりなーって顔をして教えてる。



「そうだよ、さっき隊長が言ってたでしょ?」
「あ、そういえば、そうかも」

「忘れちゃだめだよ?」
「はい!伍長、感謝してるであります!」

「もう、なにふざけてるの」
「えへへ、じゃーね舞美ちゃん」



走っていく千聖を見送って。
また、手を繋いで歩く。



「えり達も集合かけられてる?」
「うん」

「…そっか」
「…」


少し俯いた舞美に息を飲む。
なんて、声をかけていいか分からなかった。


翌日、任務は無く集合かけられていたので
軍服に着替えて、しっかり整える。



軍人のくせに着慣れない。
理不尽な事で殴られるのは日常茶飯事だから

なるべく、言われる場所を消していくのは
基礎の基礎。


飛行場へ行けば、わらわらと集まっている。
こうしてみると、同じ軍服姿にどっちがどっちだか分からない。


「あ!えり!」
「舞美」

手をぶんぶん振って嬉しそうな大型犬しかり舞美。

見慣れない、舞美の黒い軍服姿。
とってもよく似合っているけど、なんか複雑だったりする。


「なんか、新鮮。えりの軍服姿」
「そう?舞美の軍服姿も新鮮だけど」


そういえば、そうかな?そうかもって笑って空を見上げた。
直後に戦闘機が真上を通った。


「うわぁ、かっこいい」
「……」


いつも、見ているはずなのに。
下から見上げる航空機は無機質な感じが目立って


とっても怖かった。


うち達が整備した、それは人を殺す目的で使用されるんだと
知れたのはつい最近でそれも舞美の大怪我を見て思った。



隊長が来れば皆、すばやく整列。

「今日は…知らせが入ったので報告がある」


なんだか、嫌な予感がした。
背中につーっと流れる汗がうちをドキドキさせる。


「初回の出撃日が決まった、メンバー詳細は
板で確認するように…貴様らに失敗は許されない心しておけ!」

周りの声に圧される。
まだ、知らない。なにかがある。



解散後は舞美を捕まえて人気のないばしょまで
ずるずると連れて行った。


「いたっ、痛いって、えり〜」
「…舞美」


うちの雰囲気を感じ取ってか、おとぼけをいれてくる。
そんなのに、騙されないよ!


「もう、出撃まで時間ないよね?」
「そうだね」

ニコニコ、いつもと変わりない笑顔。

「ねぇ…なにを隠してるの?」
「…なにも」


そんなわけがない、そうじゃなきゃ…あんな顔しない。
なんで、特攻班の隊員だけが暗い顔をしてたの?


「これは…うちの予想だけど…」
「うん」

少し曇った顔をする。


「最悪の想定なんだけどね」
「うん」


想定でも予想でも言いづらい。
そんなの、認めたくない。


「…必ず死ぬ作戦」
「えっ!」


心底吃驚みたいな声と表情。
これが予想が正しいと表している。


「そんな気がしたんだけど…」
「…」

気まずいのか、目が泳ぐ。
知りたくない、分かっていても…

それが現実だって…思いたくないよ。


「ごめん…えり…」
「…特攻って…体当たり?」


俯く舞美から困惑が見て取れる。
あの元気な千聖をあんだけ暗い表情させる。

それだけで、十分だった。
けど、真実は知っておきたい。


「もう、説明してもいいか」
「舞美?」


顔を上げた舞美は目がうつろなのにしっかりした
なんともいえない表情をしていた。


「整備兵では…えりだけだと思う、知ってるの」
「うん」

「皆、いえないって言ってたし」
「でも、多分、皆…気づいてるよ」


こっちも、こっちで現実を伝える。
すると、みるみる悲壮な面持ちになり、唇を噛んで堪えてる。


「舞ちゃんとか…夜泣いてるし」
「そっ、か…」


「作戦内容は内密に」
「うん」

「もうすぐね、始まるの」
「…なにが?」

また、俯く。
その瞬間、風が吹いて、髪がなびいて。

はっきりと、悔しさを露にする舞美に吃驚したっけ。


「特別攻撃って言ってね、爆弾を積んで敵艦に体当たり」
「うん」

「その、実践をまかされてる…花形だよね」
「え?」


「もうすぐ、始まる特攻作戦の実験だよ」
「…実験」


思わず、倒れそうになった。
けど、まだ、この表情は隠してるな。



「ねぇ…」
「なに?」

「何で、私たちまで…戦死届けだされるの?」
「あっ…えっと…」

あからさまに、何かに困っている。

「…えりたちはね」
「うん」

「最後に乗るの」
「え?」


「だから、最後の部隊が行くとき一緒に突っ込むって」
「…なにそれ」


だから、えり達が来たって聞いたとき吃驚して
泣きそうになったって言ってた。


「行くなら、舞美と行きたいな」
「私も、えりと行きたい」


すっきりしたのか、ニコニコ顔に力が戻った。
けど、そっか、ここに居る隊員は全員死ぬんだ…。

そう、思ったら途端になんだか悲しくなった。


「えり、散歩でもしよっか」
「…うん」


星空を見上げたり、金木犀の香りではしゃいだり。
秋を存分に感じた。



朝、着慣れた作業服に身を包み、ふと気づく。
うちは実は全然ショックを受けていない。

どちらかといえば、ウキウキしてくるらいで。
途中で、舞ちゃんに「えりかちゃん…きもいんだけど」

とか、厳しい突込みを頂いたくらいだし。


「ねぇ、愛理」
「なーに?」

「残されるのと、一緒に行くのってどっちがいい?」
「もちろん、後者だけど…なんで?」


栞菜が愛理に説明してる。
数時間後、同じようにすっきりした顔をしていた栞菜と

ウキウキしている愛理を見て、皆同じだよねなんて思ったのは
ここだけの話。



それほど、この世の中は狂っていて。
戦争は人を麻痺させていた。



上を飛び交う、戦闘機を眺めながら見えた青い空がとても綺麗だった。






つづく

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