春一番 完結

□春一番 9
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れなは春が一番好きっちゃ

絵里は春が…一番嫌い




【春一番 9】




れいな視点



残念でもショックでもない
とうとう来たかって感じやけん


だからこそ、絵里のほうけた顔に、逆に吃驚した。


本気でびっくりしているあの顔が
れなの中で存在感を増して行く。


こんだけ待って、こんなとこまで来させられて
絵里を守ると決めたあの日、れなは今とても穏やかっちゃ


出撃命令の日程は明日。

あと、一日の命


「れーな」
「絵里」

「…おめでとう」
「…ありがとう」

無理やり涙をこらえた笑顔は
胸をギュッと締め付けた


昔は堪えきれなかった涙

今は抑えきっている涙



成長なのかもしれない
いろいろありすぎて麻痺してるだけかもしれんし

なんでもいいけど、絵里をそれ程苦しめていることに
変わりはないけんなんだかとても嫌な気分っちゃ



そういえば、絵里に何かを残そうと決めていた。
当たり前だけど、渡せるものが何もない。

あるのは軍服ぐらい


梅を見たとき以来、着ていない軍服
ずっと、飛行服のままやから

絵里の軍服姿もあれ以来、見ていない。



れなはその夜、軍服を取り出した。



今さっき書いた、絵里宛の手紙を軍服の上に置いて
そして、紙で軍服と手紙を包んだ。



昼間は絵里とご飯食べて散歩して訓練も受けて
最後のデートもしてれなは満足っちゃ



手紙にはいろいろ書いたけど
集約すると愛してると幸せだったと書いた。


それから、愛ちゃんとかぶるけど
生きてくれって

難しいのは分かってるけど書かずには居られなかった。
最後のわがままやけん、書くのだけは許して欲しいと。



そして、最後の朝



飛行服に身を包み、準備は万端っちゃ
心残りは絵里だけっちゃけど

今は、れなが突っ込んで
れなが絵里を守ると



その日は、風が強く梅も散り
春一番がやってきた日だった。

れなは宿舎を荷物と手紙を持って出た。



「絵里っ」
「…れーな」

「そんな顔しないでほしいと」
「…む、むりだよぉ…」

そういって、流れる涙を隠そうとする絵里に
れなはどうしていいか分からなかったけど

体は勝手に抱きしめていた。


「ごめんっちゃ…絵里、愛してると」
「…れーな…ごめんね…絵里もあいしてるよぉ」

泣かないと決めていたらしくそれを詫びていたのか
ずっとごめんを繰り返していた。

「ご、ごめっ…」
「えり、もう、あやまんな」

「でも」
「十分っちゃ」

「ありがと…」
「あ、これ」

「?」
「これは絵里にこれはガキさんにだして欲しいと」


そう言って渡した包と手紙


無言で受け取り
表情が変わった絵里にホッとする半面

強いなぁと思わざる得なかった。



「わかった…ありがとう」
「うんん、対したものじゃないっちゃけど」

「うんん、うれしい」
「にしし」

「あとで、開けさせてもらうね」
「おう」



絵里視点


れいなは呼ばれ行ってしまった。
撮影をするらしい。

最後にみんなで写真を撮るんだとか。


絵里は宿舎に戻って荷物と手紙を
自分の場所に置いた



そして、見送りの時


春一番が吹き荒れる中
戦闘機に乗り込むれいなの姿


(死なないって…努力するって言ったのに)


わかってはいたけど悔しかった。

国はやはり、昔と同じ方法を取るか
特別攻撃隊を組んで

想像は付いたけど
予科練に入ればいつかこうなると思ったけど。



想像以上に苦しくて痛いよぉ


さゆ…

藤本さん…

愛ちゃん…

れいなをよろしくね



元を正せば絵里を守るために入った
清らかで優しい、一人の若者がまた散って逝く

桜みたいに綺麗に舞い散る



笑って手を振るれいなに絵里は
笑って、敬礼した。

それしか、絵里にできることがなかった
それくらいしか、してあげられることがなかった。

飛び立っていったれいなを見えなくなるまで
見ていることしか出来ないから。


実は、絵里のマフラーとれいなのマフラーを交換していた。
れいなには絵里の一部を持って行ってもらうことにした。


宿舎に戻って、れいなからの包を開けた


中身は、れいなの軍服が入っていた。


思わず、それを抱きしめて堪えてた涙がポタポタと落ちていく
声を上げずに涙だけを流すのは何度目だろう

そして、ボーとした頭でガキさんへ
れいなから預かった手紙を出した。




さゆを失って

藤本さんを失って

愛ちゃんを失って

そして、れいなまで失って




愛ちゃんにもれいなにも悪いけど
絵里は死を願っていた。

れいなのいない世界で生きていく自信がなかった。
そんなの、出来っこないという自信はあった。



それから、何日たってもれいなは帰っては来なかった。









つづく

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