短編

□希望と闇の渦潮に
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絵里はずっと雨が嫌いだった
濡れるし、寒いし、気分も滅入るし

その、中でも一番は
もう、ずっとこのまま晴れない気がするから


絵里の心が曇っていくから
雨は嫌い


【希望と闇の渦潮に】


「絵里はまた空を見てるの?」

雨のふる空が好きだねぇ〜ってさゆが言った

『え、えりは雨、嫌い。』
「そっか〜私は好きなんだと思ってた」

『…うへへ〜レッスンに集中しないとね』
「無理に笑ってもいい顔は出来ないの」

そういってみんなの中に戻っていった

なんとなく、今は一人で居たかった



気が付けば絵里は非常階段の踊り場みたいな場所で
膝を抱えていた

何かが心を持っていく
今は苦しくないのに

もう、トップアイドルの一員なのに
もう、暗くなってる暇ないのに

そんな思考とは対象に気持ちはどんどん落ちていく


そして、窓の外から見えた時計で自分がレッスンを結果サボってることに
気が付く

でも、正直どうでもよかった
色々な気持ちがぐるぐる回る

吐きそうになる
もう、いいやって思った瞬間


「絵里?」
『え、…さゆ?』

「もうっ!すっごい探したんだからね」
そういいながらも切ない顔をする彼女に罪悪感が沸いてくる

『ごめん』

そう言って逃げようとする絵里をさゆは見逃してはくれなかった

「絵里、どうしたの?」
『さゆには関係ない』

「でも、わたしには絵里すごく切羽詰って見えるの」
『別に…大丈夫だもん』

「メンバーは何も言わないけど心配してたよ」
『…』

メンバーが何か言いたげな表情でなんどもこっちを見てたから
流石に知っていたけどその優しさに絵里は甘えて逃げ出した


『さゆっ…こわいよぉ』
「えり?」

『雨、怖い』
「そっか、じゃー怖くなくなるまでこうしてようね」

「何があったか聞く気はないけど少しはメンバー頼って欲しいなの」
『あ、ありがとう』

『ごめんね、さゆもさぼらせちゃったね』
「ん?わたしも絵里もサボったことにはならないの♪」

『え?』
「絵里が出て行ったときメンバーに伝えて早退にさせてもらったから」

しばらくして、絵里は急にさゆに今の気持ちをぽつりと独り言のように
もらしていた


『雨は嫌い』
「うん」

『雨には嫌な思い出があるから』
「そっか」

『でも、雨の日に淡い期待を抱いて空を見ているのも事実で』
「…」

『嫌いな雨は絵里に希望もくれた』

抱きしめながら頭を撫でてくれるさゆにほっとしながらも
言葉はとどまることを知らなかった


『嫌なあの日から変わりたくてモーニング娘。に入ったの』
「そうなんだぁ」

『うん、絵里はあの日のままどっか止まっててもう一度会える気がして』

『雨が嫌いだけど雨が降ると落ち着いちゃう自分が嫌いで怖い』

返事の代わりなのかたまに背中にぽんぽんと手が当たる
大丈夫だよって言われてるみたいで心が暖かくなる

「絵里はきっと変わってきてるよ」
『そうかな』

「すっごくキラキラしてるもん」

「話してくれてありがとね」

『うん』


「雨が希望で恐怖なら私が恐怖を抜いてあげるね」
『うへへ〜』

涙があふれてくる
笑ったつもりが涙もあふれてきて

絵里は笑い泣きをした

「怖くないよ私がいるもん」
『うん』

「雨は恵みの雨なのだから嫌な事だけじゃなく
いいことも運んできてくれるはず」

『さゆぅ〜大好き〜♪』
「私もだよ〜えりり〜ん♪」


初めて雨を違う見方が出来た
これはさゆのおかげ

ちょっとくらい濡れても
恵みの雨

絵里は少し雨が好きになった

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