戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜10
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最初の出会いから数年。
今や、時代は私すら歯車にして


巡り始めていたのです。




【戦姫 10】



いつものふんわかとふざけている様な
そんな空気ではない。


後藤様は紛れも無く、権力者だったんだ。
そんなことを思い知らされる



今は…出るべきではない…と思う。
幸い、気づかれる前だしと

私は書庫へと足早に踵を翻した。





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






「愛理様」
「ぅう…ん…くろ…?」



いつもの、私が知る黒。



「はい、おはようございます」
「おはようございます…」



挨拶を返すと、黒はすぐにお小言を言い始めた。
いつも、言われてることだけど

ついつい…ね。



「まったく…朝餉の支度が出来ていますよ」
「まぁ!早くいきましょう!」


ちらちらと、昨日のことが頭をよぎる。
不安なんて追いやろうと、黒の手をつかんで

後藤様の元へ向かったのです。



「今朝は元気がいいね〜」
「おはようございます、後藤様」


いつもと、変わらない口調に表情。
こういう所はきっと、私も見習わなければいけません。


その場は一度落ち着き、食事を取ろうという雰囲気になり。
焼かれた魚に箸をつけようとしたその瞬間だった




「失礼いたします、後藤様!先ほど文が!!」
「…!!うーん…とうとう来たね」



目の前でやり取りされるその光景は
この、のどかな日々には聊か似つかわしくないものだった。


「二人は隠れてなさい、カネヒラ、後は頼みます」
「仰せのままに」


是も非もなく私たちはかねひらと呼ばれた
後藤様の家臣に抱えられて連れて行かれたのです。




「後藤様!…ごとっ!っ」
「…」



お屋敷の裏門を抜けてすぐ、裏山へ走っていくのが
見える。

私に黒を抱いているのに、景色の変わる速さは
私が走るよりも、とても、早いものでした。



「…いきなりで、申し訳ありません」
「いえ…助けていただき感謝しています」

「これくらいしか、持ち出せませんでした」



かねひらと呼ばれた人は申し訳なさそうに
白い装飾の太刀を私に差し出した。

それは、姫様からいただいた大切な武具のひとつでも
ありました。



「十分です、本当にありがとうございます」
「この山を越えますと、大きな川がございます」



かねひら氏の説明はくろが聞いてくれる。
私はただ、太刀を大切に抱きしめることしか…出来ませんでした。



「それでは、御武運を祈っております」
「はい、お互い武運を…それと後藤様にもお礼を申しておいてください」

「御意」



そういった、かねひら氏は刹那と共に目の前から
姿を消した。



「こういう旅立ちは…二度目ね…」
「今回は、野宿になりそうですし来るたび悪くなるのでしょうね」




正直、そんな生活のほうが私には合っている気もするけど
黒は私をお嬢様だと思っているし

上品に振舞うのをやめれば
もしかしたら、見捨てられてしまうかもしれない。




「愛理様、日が暮れる前には眠れる場所を探さねばなりません」
「そうね、参りましょう」



あぁ…でも、私、野生的な所も黒に見られているし
今、気にするところでもないかもしれませんね。







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姫のお気に入り、愛理様を逃がして戻れば
お屋敷には幾人もの侍が押し寄せていた。

兵を呼ぶまもなく襲撃されたその様は
呆気ないもので天下の後藤家も形無しといったところ

苦しそうに息をする後藤様を足蹴にして
切り捨てようとしていた侍を後ろから切りつける



近くに居る武者を片っ端から切り捨てて
後藤様の傷の手当をする。




「ごふっ…いや〜こんなあっさりやられるとはね…」
「軽口叩いてる場合ですか!傷が…少し痛みますよ」



この状態でも冗談をいう元気があるのだから
驚いてしまう。



「う゛ぅ゛っ!」
「これは、応急処置ですから、煎じた薬草を取りに行ってきます」

「たしか、黒が…そこにおいていったはず」
「え、あいつは…」




屋敷から離れ、裏山の洞窟に身を潜めた。
あの、後藤様もかなり衰弱し不安に駆られる日々が続いていた。



そんな中、長い沈黙を破ったのは後藤様でした。



「姫様の約束守れなかったなぁ…」
「黒は優秀な奴です…きっとあいつが守ります」

「すまないね、カネヒラ…あの子達を守ってやっ…て」
「はい、必ず。全うして御覧に見せます」




黒のおいていった薬草も矢傷、刀傷にはかなわず
数日苦しみながら、後藤様は息を引き取った。



握り締めたこぶしは、行き場無く床に打ち付けられ
痛みを感じるまもなく、私の心が痛みを蝕んでいく。





「ぐくっ…う゛ぅ゛っ…」





後藤様に拾われ、早数年。
教え子の黒と呼ばれたあの子も立派になり。

思い出が駆け巡る。




「せめても、黒を…あの子達を守らねばなりませんね」





そんな、大きな独り言は淡くも消え去った。








つづく

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