戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜6
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時代の流れに翻弄される。
そんな、私たちも歴史の一ページ


【戦姫 6】



ふと、気づくと明るくてハッとした。
慌てて起き上がると御付き人がもう外に待機していて

「おはようございます」
「おはようございます、お着替えはこちらにございます」

着替えも早々に廊下を歩く。

「愛理様」
「おはようございます…どうかなさいましたか?」

いつもはどっしりとして
威厳や貫禄がある高上が珍しく走ってきた。

「愛理様、早くお逃げください!こちらへ、走って!!」
「えっ!たっ、高上まってくださいっ」

私の言葉は受け入れられず
ただ、逃げ口へと急いだ。

洞窟のような土を掘った道が見えてきた頃
近くには人だかりが出来ていて。

「愛理様、こちらにお着替えください」
「ふぇっ…まって、まってってば〜」

いつの間にか、戦用の着物を着せられ
甲冑や、刀までいただいた。


「愛理」
「舞ちゃん…」



人の波がさーっと道をあけると
出来てきたのは着飾った綺麗な姫君で

いつも、着ていた着物と違う。
舞ちゃんが纏うそれは姫が着ていた

そんな綺麗な着物で。

「舞からはこれを」
「…そんなこれは舞ちゃんが大切にしてたものでしょ!?」

そう、姫にもらったと
嬉しそうに、私に話してくれたものだった。

おそろいの宝石のついた…簪。

「そう、だからこれを」
「ま、舞ちゃん…!?」


その簪についている宝石をはずし
私に握らせた。


「そ、そんな事をしてはなりませんっ!」
「わらわに出来る事はそのようなことしかありません」


だから、大切なものを半分こしたのですと
有無を言わさず突き放されて。

「愛理、そなたに出会えて良き思い出が出来
こればかりは、…姉上に感謝です。」
「…姉上?」

憂いを隠せずそれでも気丈に笑みを作るその姿に
姫とかぶった。

いや、姫とは何度もかぶった…
もしかして、とは思っていたけれど…

「舞美姫です。では…愛理、達者で生きるのですよ」


やはり、そうだったんだ…。


そう、言って着物を翻し御付き人をつれて
行ってしまった。

人の記憶とは現金なもので…。

楽しかった時間ばかりが頭の中に残るのです。





舞姫は最期まで気丈に振る舞い。
微笑みながら炎に包まれたと聞いた。

































「なぜです!?私も共に残ります!」
「お察しくだされ、舞姫や舞美姫の気持ちを」

舞ちゃんが去ってからしばらく口論をしていたけれど
あっけなく黙る羽目になった。

「…ですが…っ!」
「愛理様に一人で逃げろとは申しておりません」

そういった上高が右手を上げると
上高の真隣に黒い…衣服を纏った

頭巾をかぶる怪しげな人が現れた。

「ひっ…!」
「隠密の古株です、こやつを連れて行くといい」

そういって隠密の人と共に城から放り出される事になった。
洞窟の中を与えられた松明を掲げながら歩く事1時間。

「…あの」
「なんでしょうか?愛理様」

表情すらも見えない
得体の知れなさや暗がりにいることからくる

恐怖に私はあっけなく負けていて

「なんと呼べばよろしいですか?」
「お好きなようにどうぞ」

手に持つ松明の火がゆらゆらと揺れる。

「では…せめて名を教えてください」
「…隠密に名を教えろと?」

空気がさらに冷たくなる。
どうしよう…聞いちゃいけないこときいたみたい…。

「い、いえ!す、すみません…」
「…普段は番号で呼ばれていました。16番と申します」

16番…名をもたず。
番号で呼ばれるなんて、それは…

人としては扱われていない事を指していた。

「私は人を番号では呼びません」
「ですから、お好きに」

なんでもいい、とりあえずは仲たがいするわけにはいかない
それだけは伝わってきた。

「…黒」
「はい、愛理様」

「黒…でよろしいのですか?」
「私はお好きにどうぞと申しましたゆえ」

文句をいう権利はないらしい。

「では、黒。私の事も好きに呼んでください」
「今までと変わりなくお呼びいたします」

あっさりと言われて少し拍子抜けしてしまったけれど
これが、黒との出会いだった。





つづく

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