戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜5
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決断のとき
焦りは破壊への導き。



【戦姫 5】



部屋で武具の手入れをしていると
聞こえてくる姫と…いや、舞美ちゃんと

愛理の声。

そして、笛の音。

笛の音なんか久方ぶりに聞いた。
とても、安定した暖かい調べ。


けれど…それではいけぬのです。


あの方は姫は姫でも…戦姫なのですから…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌朝、同じ時間に同じ場所で稽古をしているのを知っている千聖は
なんとなく、姫のもとへ向かった。
こんな気分だったからかな…

「おはようございます、姫様」
「おはよう…どうしたのそんなに改まって」

朝から、千聖はおかしかったんだ。
きっと、そうなんだ。


ちょっとした苛立ちが口論になり



「そのままでは困ります!しっかりしてくださいっ!」
「千聖…?どうしたのです?少し冷静になっ」

言葉をさえぎる様に

「分かっていられないなら言ってさしあげましょう!」
「ち、ちさとっ」


「姫のおもちゃはおもちゃにございます!血縁関係でも無い
ただのおもちゃ!命を懸けてまで守る義理も義務ものうございます!!」
「お黙りなさい!!」

「っ!」
「…すまぬ」


姫を傷つけるような事を言ってしまったんだ。

それから、数時間がたち
夜になり、それでも話がしづらくて

忘れようと鏃の調整をしていると陰が出来た。

あっ!と思う頃にはもう遅くて。


「千聖」


困ったなーって顔をした愛理が千聖から奪った
やじりを手に持ち目線を合わせるかのようにしゃがんだんだ。

「何しにきたんだよ」
「朝の会話聞いてしまいました、すみません」

…聞かれてたのか。
って事は文句でも…いいにきたのか?
「文句あるなら姫にいえ…必要なことを言ったまでだ」
「文句はございません、…ありがとうございました」

そういい、頭を下げられる。
…違う。

千聖はこいつにこんな顔させたくて言ったわけじゃない!!
姫を傷つけたかったわけじゃない…!
そんなことを自覚させられたからか
涙が滲んで来て、惨めで悔しくて情けなくて

どうしていいか、わからなくなった。


「やっぱり…」
「なんっ、だよ…やっぱりって」

言葉を言い切るちょっと前だった。

「辛かったんじゃない、まったくもー」
「ちょっ!?あ、あいりっ??」


ふわって体を包み込みながら千聖をどこまでも子供扱いする。


「頭、撫で回すな」
「またまた〜嫌ではないでしょ?」

「うっ!うっさい!」
「はいはい、いいこでちゅねー千聖ちゃん♪」

「や、め、ろー!」

同じように頭を撫で回してやるとふがふがと聞き取れない
滑舌と早口で何言ってるのかまったく分からなかった。

























朝、着物を着せてもらっていると姫様が飛び込んできた。
いつもは、走っただけでも窘める御付人の人も黙り

でも、それはすぐに分かる。

「愛理」


姫様の着ている着物は戦用だったから。


「舞美…様」


姫が口を開いた瞬間。
後ろから千聖が慌てて走ってきた。

「舞美ちゃん!刀忘れてどうするのさ!…愛理様」

そして、片膝をつき頭を下げる。
千聖も同じように武装なされていて。

「まっ…姫様」
「…愛理」

距離を置いてるんだ。
姫様は

「情報が入りました…この地域も戦場になりましょう」
「…姫は…?」

でも、やっぱり優しい姫様。


「私は…戦場へ千聖と共に向かいます」
「そ、そんなっ!姫が危のうございます!」


なんとなく、分かってはいたのだけれど。
それに、私はこの舞美ちゃんに助けられた。


姫様が助けてくれたんだ。


「愛理と二人にさせてください」


そう、姫様が言うと千聖が皆を連れて行ってくれた。


「愛理、すまないね…でも、危ないからしばらくはここに居るのですよ?
それと抜け口がありますから攻め込まれる寸前に皆と逃げるのです」
「私も…私も連れて行ってくださいっ!」

みっともないくらいに縋り付いた。
それほどに、私はあなたが大切になっていたのだと

思い知らされた。


「今までもあったことでしょ?また繰り返すだけ…ですからいい子で
待っていて、愛理」
「…」

逆らっても仕方がない。
ここはぐっと気持ちを押さえ込むしかなかったんだ。

「…ご武運を」
「ありがとう、また会いましょう」


そういって触れた手が私の心をぎゅっと締め付ける。


見送り、見えなくなっても手を振り続け
いつも二人でいたこの室で兵法を読みふける。

一人って良くないのだと思う。
つい、考えすぎて…しまう。


重い鎧を身にまとい
女子の身の上で行かなくてもいい戦に駆り出され


強く見せているあの背中でどれだけのものを
背負ってきたのだろう…。

姫様や千聖はただ、国をよくするために動き
その働きは戦にまで及び

どんなに望もうがその命をさらけ出さねばならなかった。


刀や弓を持ち
馬にまたがりどれだけの重責だっただろう

あとから、追いかけるかのように武術を磨き
先のことを見越した千聖の好意に甘え

私などが生き残れるほど甘い世界ではないのだろう…。
けれど、強くなりお傍に居たいと



私は――決めたのだ。





つづく

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