戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜4
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あなたの隣に私は居りたいのです。
ただ、寄り添っていたいと願うのは

この時代にはあってはならない事でありました。







【戦姫 4】








朝から、馬に振り回される私。



「ほらっ。愛理、手綱を引け!」



千聖の声で無意識に手綱を引っ張ってなんとか落ち着かせる
暴れられなくはなったおかげで大分落ちなくはなったけど


まだまだ、怖い。




「きゃっ!」
「愛理っ!」



またも、視界が逆転して落ちるっ!と目をつぶったけど
痛みは来なかった。




「姫さ、ま?」
「大丈夫ですか?」



地面をすべるように来た姫に抱かれ呆然とする。



「遅いですよ、愛理すでに何度か落ちています」
「もーちっさー…愛理、怪我はありませんか?」


「はい…ですが、姫。着物が…」
「着物など気にせずともよいのですよ」



姫様に抱き起こされて伝えられる。



「2人とも、朝餉の用意が出来ていますよ」
「それは、早く行かねば冷めてしまいます!」



千聖はそういうと走っていってしまわれた。
そういうところは本当に幼子のようで




「愛理、まいりましょう?」
「はい、姫様」



楽しそうに微笑む姫様に手を引かれ私たちは朝餉へと急いだ。



「すごく、豪華ですね」
「山菜のピークを迎えているからです、裏山で取れたものなのですよ」

「そうなのですね」
「はい、これもとても美味しいですよ」



姫の説明中でも箸を止めない千聖。
私の修練に付き合っていてくれてたからなのか

よほど、空腹だったようで



「うまいっ!」
「千聖様っ、そのようなお言葉はなりませぬとあれほど!」



しまったって顔をしても、遅いのですが。
千聖様はとても、自由なお方。


敬語を使い、敬いを見せる反面
同等にも見ている。



姫と千聖は同等の位置にいるようにも見える。



姫もそう思っている様子で。
一心同体な所もあり、周りの人もそう見ている。




とても、不思議な関係。






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あれから、幾日も過ぎ
夏の始まりを告げていた風や草木は


いまや夏の終わりを告げていた。


知識を溜め込む姫様のいない隙を狙い
千聖と待ち合わせをしていた。


「千聖〜!」
「やぁーっときたか」



いいのかな?
裏切っているような気分にさえなる。






姫との約束は……守れていない。








「雑念が多すぎる、的だけを絞って打つのです」
「はい」



通る様な千聖の声にはっとする。



今、私は馬術や剣術弓の使い方まで様々な武術を
教わっている。


馬術は姫様も公認だけど。




「よし、このくらいにしておきましょう」
「ありがとうございました」


「にしても、愛理さ」
「はい」


にかって笑った千聖はとても幼い。



「弓は才能あるよな、剣も馬術よりは上達早いし」
「…ありがとうございます、千、聖、様」




頬を引っ張りながらお礼を申し上げると
涙目で赤くなった頬をさする姿にふと、笑みがこぼれた。




「いたたっ…まったく乱暴な」
「千聖ほどではありませんよーだ」



悪態をつける人がいるということ。
笑い合える人がいるということ。

そんなことは、失わねば気づけぬと知るのは
人ならみな、同じなのでしょうか。




「では、また後で」
「はいよー姫によろしく」



去り際に吹いた秋風は夏の終わりを知らせていました。












































夕餉の後、室にもどり姫との会話をしている最中だった。


「大分…涼しくなってきましたし、外へまいりませんか?」
「外へ?」


そう、と申しながら、姫はささっと腕をひき階段を駆け下りる。


「ひ、姫さまっ」
「少し走りますよ」


少し走った先に見えた大岩。
その岩に登り座り込む。


「愛理はその岩に、ここは幾分か高いので」
「はい」

岩に座り姫のほうを向こうと視線を合わせると
空を見上げ月を見つめていた。


「姫様…?」
「愛理、ここの生活は慣れましたか?」


顔をこちらに向けてくれた姫様はいささか不満げな顔をしておられました。
なにか、してしまっただろうか…。


「はい、姫様のおかげで慣れ親しむ事が出来ました」
「そうですか…ならば良いのですが」


目が何回もいったりきたり。


「姫、なにか申したいことがあるのですか?」
「…愛理、千聖と話した結果なのですが」


千聖の名が出てドキリとしてしまい。
顔に出ないように必死に取り繕う。


「思った以上に大きな戦になりそうです…当日、城からお逃げなさい」
「へっ…!?」


呆然としてしまえるほどの衝撃。
姫を見ると神妙な顔をしている。



「ど、どうしてっ…!」
「ここも…すぐに争いに巻き込まれるはずです」

「そんな、そんなの…いやです、聞き入れはいたしません!」
「死んでしまっては元も子もないのですよ」



小さい子に言い聞かせるように
でも、分かってる。


それは、私が戦えないから。
だから、千聖が力を貸してくれているんだ。



「自分の身は自分で守ります」
「愛理…巻き込んでしまって…本当にすまぬ」



がっくりと肩を落とした姫様にもしかしたら
私はしてはいけないことをしたのではないかという

思いに駆り立てられていた。









つづく

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