戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜3
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人には使命があると聞いたことがあった。
そんなもの、税をあげてそれに苦しみ

そして、飢えていくだけだと思っていたのは
いつだったか。



【戦姫 3】



なぜか、岡井様はいつもそばにいらっしゃる。
ここぞって時ほど強く力を貸してくれる。


「姫、この後の予定はあるのですか?」
「いえ、特には」


その言葉を聞いた岡井様は無邪気な顔で言いました。


「なら、裏山へまいりましょう!」
「裏山ですか…いいですね、行きましょう」


なんとなく、蚊帳の外でお茶の後どの書物を読もうか
考えていると岡井様はどうやら、私も連れまわす予定だったらしく


「もちろん、愛理様もご一緒ですからね!」
「えっ!?」


だけど、予想に反して姫に賛成を出されてしまい。


「そうですね、愛理も少し気分転換しましょう」
「は、はい」


裏山に行くことが決定されてしまいました。


お茶の後、すぐ様、仕えの者につれていかれて
外着を見繕われている。


「愛理様、こちらはいかがですか?」
「良い格好です、ありがとうございます」



着替えさせてもらい幾分か動きやすくなって
気分も晴れやかになる。


部屋を出ようとしたその瞬間いつも姫さまの近くに居る
家老の上高と呼ばれている人に引き止められた。



「引止め失礼いたしました、
出かける際はこれをお持ちになってください」

「刃物は扱ったことがありません、
私が持っていても危険ではありませぬか?」


差し出されたのは黒塗りの小刀



「これは、護身用です、姫は敵が多く
持っていたほうが身のためです」



そこまで、言われては断れない。
私は差し出された小刀に手を伸ばした。



「ありがたくちょうだい致します」
「ご無事でのお帰りお待ちしております」


小刀を懐へしまった時に衣がこすれる音がした。
上高に手を振り、階段を駆け下りると岡井様と姫が待っていてくれたんだ。


「お待たせしてすみません」
「大丈夫ですよ」


にっこり笑いながら手を取ってくれた。



「何を言っているのですか、あんなにそわそわとしていたくせに」
「ちっさーの口を塞いでいきましょうか」


「ちょっと!姫っ、怪我させる気ですか!?」
「まさか、少し黙ってもらうだけですよ」


本気だ、目が本気すぎる。


「姫様、岡井様そろそろいきましょう?」



姫の着物の袖をつかみ問いかけてみると
険悪な雰囲気も消え


馬に乗せられました。


「え?いえ、あの…」
「どうかしましたか?」


馬は思う以上に高くそして、不安定な乗り心地で
何度か落ちそうになったりして


「もしかして、愛理様乗れないのではありませんか?」
「では、私と共に乗りましょう」


姫に下ろしてもらい、とてとてと姫の後ろに続く。


「こういう場合の為に修練は必須ですよ、姫」
「そうですね…乗れたほうが確かに良いですね」


鞍をはずし姫に手伝ってもらい馬に乗る。
前には姫様がいてこれなら、怖くないかも。



「帰ってきたら、修練しましょうね」
「はい!」



走っただけでは感じることの出来ない風。
感動はつきませんでした。


城を出てすぐ森への入り口が見え
山道を駆け上がって



「愛理、ここからは揺れるのでしっかりつかまりなさい」
「は、はいっ」



岡井様を先頭に追いかけるように馬は速度を上げる
木洩れ日がさす中を突き抜けて


振り落とされぬよう、姫の帯に捕まれど予想以上の揺れに
私の力では捕まりきれず馬からすべってしまい


「きゃっ!」
「愛理っ!!」


伸びた手は私の体を片手でしっかり引き上げてくれ
事なきを得て、姫に強く、強く抱きしめられました。



「ひめぇ…苦しいですっ」
「すまぬ…だが、あまり心配をかけないで」


その声が…あまりにも儚いもので落ちる瞬間に見た
空が綺麗だとはとても、言えませんでした。




























「遅いですよ」
「すまぬ、すまぬ」


ちょっとした、草原に出ると
岡井様が馬から下りて腕を組んで待っていて



「すみません」
「いや、よいです…それより、姫、弓をやりませんか?」



そういって、草むらにはって何かを取り出した



「ちっさー愛理が興味を持ちますゆえ、やめましょう」
「いえ、やりたいならやらせてもよいのではないでしょうか?」



足元に転がる弓を手にした。



「愛理っ」
「私は役立たずではありませぬ」



顔が青くなっていく姫になぜ、それほどにまで
嫌がるのだろうと思った、だけど、私は役に立ちたい。




「そのようなことは一言だって言っていない!
それに思ってだっていません!」



だから…やめてっ!お願いだからと
言葉にはせずとも聞こえてきた気がしました。



「姫、愛理は一度やってみたかったのです」
「それは…」



岡井様が矢を持ち隣に居る。




「それに、私を助けそして学ぶ楽しみを与えてくれたのは姫です」
「これは、勉学ではありません」


ふいに、手を取られ。
向きあわさせられる。



「弓は命を奪う道具です、私は愛理に命のやり取りをさせたくはないのです」
「姫…わかりました。私は戦いません」


目を見つめて、今にも泣き出しそうな
姫様の顔を見て誓いました。


「では、私は木の実でも取りに行きますね」
「ま、まて、私が行こう」


そういって、小走りで森へ戻っていった姫に
苦笑を浮かべている岡井様。


「岡井様?」
「姫は愛理様が大切なのですよ」


笑いながらちゃかされながら言われて
反撃をしようとしたその瞬間、激しく睨まれた…ような気がする。


「それなのに、あの体たらく…あれでは早死にしてしまう」
「姫を悪く言わないでください」


今度こそ、本気で睨まれた。


「愛理様、あなたの出現で姫は気が緩んでしまいました、でも…それでは困るのです」
「そんな…私はどうすれば」


岡井様を見てもなにも変わらない。


「私はあなたに去れと言っているのではありません」
「では、私に何を望むのですか」


岡井様は姫を大切にしていられるんだ。
だから、こんなふうに言う。


「自身の身の守り方を教えます」
「え?い、いえ…でも」

「答えは急がずとも待ちます…詳細は今夜。裏庭にお越しください」
「…わかりました」


詳細?詳細とは今の世に対する事?
それとも、今、姫や岡井様が置かれている状況?
岡井様を見ればなんだか苦しそうな顔をしていて。
私はどうすればいいのかな…。


「愛理っ!ちっさー!もってきたよー!」


すごい速さで駆けてくる姫を見て
すべてが吹っ飛んだのは言うまでもありません。




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私は何も知らず。
戦術だけ知っても意味はないし。

岡井様は政治に精通していて
私は姫の近くに居ることを許されているから


だからこそ、今どういう状態に置かれているのかを
知らなくてはならない気がして


無知は最大の罪とはよく言ったと思う。



「愛理?裏山は疲れましたか?」
「え?」


姫に声をかけられ持っていた箸が滑り落ちた。


「あぁ…替えを」
「はい」


仕えの人が消えてしまうと心配してますという目で見られる。
気まずい…。



「なにかありましたか?」
「いえ、空が綺麗だなと見ていたらつい箸がとまってしまって」


実際、綺麗だったし…。


「そうですか、ならよかった」
「心配かけてすみません」


にっこりと笑って「いいのですよ」と頭を撫でられた。
私はまだ、迷っている。


私が落馬しかけた時の姫の様子があまりにも辛そうで
姫にあのような顔をさせてはいけないとわかっていた。



私は…どうすればいいのだろう。

































裏庭へ歩を進めると岩に腰掛ける岡井様を見つけた。


「聞く気があるってことだよね?」
「はい、聞かせてください」


「まずは、この国の動き情勢から」
「お願いします」


どれだけ経っただろう。
岡井様の口から出た言葉に私は

動揺が隠せないでいた。


書のように書き出していく岡井様の筆を追っていく。


「…本当にこのようなことに?」
「これはまだ、最小限で食い止められている地域での出来事です」


書を懐にしまいまわりを見渡す。


「岡井様?」
「あぁ…姫は感がいいからさ」



今、ばれては厄介だと慎重になっているらしい。



「今年の秋頃には発たねばならなくて」
「そんな早くに…」


「今回の戦は今までと違いかなり大きいから…」
「今が変わる戦いですものね…」


「そう、時が長く掛かることであろう」
「…そうですね」



だから、武術の基礎を知り
自分の身を守れるくらいの力をつけてくれと



「姫はあんたのことが大事なようだから、千聖に出来る事であれば
手伝うよ、だから、なんでも申せ」



あの小さき岡井様からこんな言葉が出てくるとは思わなくて
動きが止まるほど驚いた。



「ありがとうございます、岡井様」
「あー…千聖でいいよ」

「では、私のことも愛理と呼んでください」
「はいよ、愛理、改めて…よろしくな!」




握手を交わし翌日から私の日々は多忙を極めることになった。




「愛理、探しましたよ」
「すみません」


心配そうな顔から仕方ないなぁって顔になる。



「今宵はもう遅いので床に入りましょう」
「はい」


また、同じように布団の中で手をつなぐ。
でも、あのときの笑顔とは全然違って


不安やおびえが混じった
そんな、笑顔でありました。


すがるような手つきで繋がれていた手を頬に当て
ふっと目を瞑り



「おやすみなさい…愛理」
「姫?…」



すぐに眠りに落ちた姫の頬に触れ




「おやすみなさい…姫様」







つづく

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