戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜2
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衣がすれる音。
虫の声。

そして、姫様の笛の音。



【戦姫 2】



朝餉を前に私はいまだに驚いてしまう。
こんな、贅沢…私が許されてもいいのだろうか…。


「これ、うまいな」
「本当、うっ…おいしい」


岡井様が男言葉を使い姫様もつられそうになる。


「これ、はしたのうございますよ」


すぐに、窘められて。


「いいではないか…どうせ男と変わりなどない」
「千聖様、そういうことを言うのではありません」


岡井様は黙られてしまったけれど
姫様は少し複雑そうな顔をしていた。




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暇をしないようにと、姫様が勉学を教えてくれる
でも、私が興味を持ったのは囲碁で


その、結果。私は、囲碁を教えてもらっている。
でも、姫様は初心者の私から見ても


とても、強い。



「愛理は飲み込みが早くて教えがいがあります」
「そ、そうですか…?」


最初はうまくいくのだけれど。
ぱっと見ると最善の一手が悪手に変わっていて。

私は姫様に翻弄させられっぱなし。


「やっぱり、姫様には敵わないなぁ…」
「まだ、負けませんよ」


そう、ふふって笑う。



「けれど、愛理は才能があります…すぐ、私にも勝てるようになりますよ」
「頑張ります!姫様に勝ちます!」

「あまり、根をつめては駄目ですよ?」
「はい!」


いつだって、姫様には敵わなかった。
でも、いつだって…姫様は私をほめてくれたんだ。



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「萩原さま」
「愛理様、舞とおよびくださいと何度言えば」


お花見の当日。


愛理に押し切られて私は今一人で居る…。
愛理はどこかといえば


「舞ちゃん?」
「はい、愛理様」


でもね、声は聞こえてくるんだ。



「それ、私なんか様ってつけられる身分ではないし」
「姫の持ち物ですから、そのような恐れ多いことできません」


持ち物、おもちゃ。
城のものにはそういわれるけどそういうのじゃないんだけどなぁ。


「姫と同じくらいってこと?」
「そうです」


だけど、愛理は舞ちゃんより何枚も上手だったようで


「では、命令できますよね?」
「え?…」

「命令です、様などいりません」
「えぇえ!ちょっ…愛理さ」


愛理の持ち得る魅力なのかな。


「ほ〜ら?あと、もうひとつ」
「まだ、あるんですか…」

魔法にかけられる。

「友になってください…あ、これはお願いです」
「…姫の…ものに大してそのような」

手を握って、もう一度目を見て言う愛理に
舞ちゃんはきっと落ちるだろう。


「…愛理」
「舞ちゃん」

笑いあうその姿をみれば
一安心。これで、寂しい思いはさせずにすむ。




壁に背をつけるとちっさーが来ていた。




「姫様…後ろが、がら空きですよ」
「ちっさー」


ちっさーは書状を懐からとりだして


「これは命令ではないそうです」
「もう、こんなに」



愛理は生きるべき人間
守るべき対象だから。

やっと、私に戦う意味が見出せたんだ。


「姫様…?」
「来春と書いてありますが秋頃には出ましょう」


私は私で居られる。


「あの子は…」
「舞ちゃんがいるから、置いてゆけます」


「承知いたしました…大きな戦になります、御覚悟を」
「…覚悟など、とうの昔に出来ています」



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御花見を終えて、なんだか硬い雰囲気の城内。
戦の前準備などをしていて


姫様は私が来てからも2度ほど戦へ赴いている。


「愛理?」
「あ…」


囲碁の相手をしていただいているとこでぼんやりしてしまった。


「どうかしましたか?しんどいなら一度休みましょう」
「いえ、大丈夫です」


安心したように笑う姫様には光から出来る影が差し込んでいて。
もう、夏がやってくる。



私は城へ来てから書物を読む回数がとても増えた。
それは、知識を増やすことへの欲もあるけれど


一番は…策を練れれば姫様の役に立てるのでは
と、私なりの考えだったり




気をそぐ気合の声が響く。


「やあああぁあ!!」
「ちっさーは大振りが過ぎます」


岡井様のわき腹へ重い一撃が打ち込まれた…。
あれは…痛いと思う。


「いぃ゛っ!」
「あ…すまぬ」


案の定、うめき声をあげ座り込んでしまわれた。


「姫様は手加減がなさすぎです!!」
「ちっさーが軟弱なのですよ」


すごく、納得がいっていないんでしょう
岡井様は呆れ返るような眼差しで姫を見つめていた。


「ちがーう!姫様が強すぎるのですよ!無敗のくせしてぬけぬけと…」
「…私は千聖がいなければこの世にはいません」


一瞬の間だったけど、確かに岡井様と姫様にある絆の
年数の重みが私を締め上げるんだ。


私では…岡井様のように姫様を助けることすら出来ない。
いっても、足手まといだから。


「へへっそりゃー姫様はすぐに気がそれますからね」
「なんですかーそれは私に対する挑発と取りますよー?」


そういって、また取っ組み合いを始めて
私はどちらかというと舞ちゃんのほうが姫様っぽいと思っていた。


こっちが姫ですよって言われたら信じてしまうかもしれない。

そのくらい、印象では舞美様に姫の印象が…あまりないのよね…。




「今度こそー!!」
「学習しませんね」


戦略につかうからと言っていたけれどあの知識の広げ方は
すこし違和感を感じていた。


「同じ手にそう何度もかかるかぁあ!」
「つっ!」


珍しい、姫様が竹刀を落とした
岡井様の攻撃は流れるようにしなやかでした。


「ほーら、姫様は気がそれすぎですよ」
「なっ!」


なにかを言い返そうとした姫様に詰め寄って
こぶしを姫様の…胸に当てた。


ここからでは…よくきこえない。

………。


駄目だ、私は少しでも多く知識を増やさなければ。
少しでも姫を守れるように…。


「愛理ー!!」
「へっ!?」


どたどたと聞こえたと思えば突然の衝撃。
持っていた兵法を落とし拾う前に後ろを振り向けば


岡井様が笑っていた。


「岡井…様?」
「似てただろ?姫の真似だ」


笑いながらまた、愛理と呼ばれる。


「真似などしなくてもよろしいですよ、お好きにおよびください」
「…さすが姫のおもちゃ。


そう、言い放った瞬間だった。
後ろに立った姫からの拳骨に岡井様はまたしても


蹲る羽目になられた。


「ひ、姫様」
「うぅ…いっつ…」

「まったく、おもちゃではないと何度言えばいいのですか」
「いてて…姫、少しは手加減をしてください」


頭をさすりながら立ち上がり姫様のほうを見る岡井様に
すこし、ハラハラ。


って、姫様はそんな理由で岡井様を叩いた…いや
殴ったのね…。


「だから、言うたではありませんか…大切なものがあると…」
「…わかっています」


目の前で繰り広げられるそれに呆気にとられる。
私はただ、見ているしか出来なかった。


「頭のいい姫ならお分かりでしょう、あなたは戦姫です…お忘れなく」
「千聖」



顔を上げて姫様を見れば
見たことも無いくらい余裕が無い顔をしていて

拳すらも握り締めていられた。


「…姫さま?」
「愛理…そのような書物を読んではなりません」


そう言い兵法の書を拾い


「そろそろ、お茶にでもしましょう」
「姫…」


腕をひかれ部屋へ連れて行かれる。
私は…姫に笑ってほしい。
姫様、あなたが民のために戦うのなら


私はあなたのために戦います…。



つづく

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