戦姫〜千年華〜

□戦姫〜千年華〜
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青空に浮かぶ小さな雲
こんな世でも私は私で居られた。

あれは、5年ほど昔の事。



【戦姫〜千年華〜】



家族は逃げ遅れつぶれた家と運命を共にした。
私は、草むらを必死に走るも

後ろから追いかけてくる男の人に勝てるはずなんか
なかったんだ。



そう、助からないはずだった。



目の前に武装した男の人、刀を振り上げられ
目をつぶった瞬間の出来事。



「大丈夫ですか?お怪我などは」



気がつけば目の前には私を切ろうとしていた人と
綺麗な男の人




「あ、ありがとうございます」
「いえ、それより女子がこのような場所へ来てはいけませんよ」



正論を突きつけられるけど
私は好きで来たわけでもないのに


どうしていいかもわからず手を握り締める。



「…そこの村の子ですか?」
「…ぐすっ…はぃ」



顔を上げることすらも私は出来なくなっていて
だから、頭の上におかれた手に驚いてしまったんだ。



「っ…!」
「す、すまぬ…嫌でしたか」


「い、いえ…おどろいてしまっただけです」
「そうですか、それならよかった」


そう、笑った侍様はとってもやわらかい顔を見せてくれました。



「あなただけ逃げ遅れたのですか?」
「…いえ、私だけ…助かってしまいました」



そういうと、侍様は困った顔をして考え込んで
この方は色々な顔を持っていて近くに居るとそれだけで




なんだかあったかくなるような気さえしてしまう。





「そうなのですね…あなたさえよければ城へ案内します」





一瞬、なにを言われたのかわからないほどの衝撃。



「い、いえ!そこまでご迷惑をおかけするわけにはまいりません」
「迷惑などではありませぬよ?私が連れて行きたいだけですし
それにここに居てはいつ死ぬるかわかりません」



それでも、柔らかい顔で手をとってやさしい言葉をかけられて
私が折れるのに時間はかからなかった。


私には失うものがなにもないから。




「ありがとうございます」



そう言えばすぐに抱き上げられて走り出した侍様。



上の方で結われた髪が頬をくすぐる。




「さ、侍様っ」
「この辺り一体は合戦で危ないのです、だから急ぎます」



しゃべるなというのだと思う。
重い甲冑に私を抱いて走っているはずの侍様は





異様に足が早かった。







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「姫さま!?」


門へつくなり大声で驚いていると
侍様がおろしてくれた。



「上高、この子合戦に巻き込まれた子で…中へ入れてもよろしいですか?」
「駄目に決まっていましょう!?」


「まぁ…そう怒らずに」
「怒らずにいられますか!!」


なぜか、侍様はすごく怒られていた。


「この子を引き取るのならよろしいですか?」
「…ご冗談を」

「冗談ではありません…放てはおけぬのです」
「お父上様やお母上様にはなんて説明するのです…」


「…上高、協力をお願いします」


侍様がとても困ってる。


「侍様、私」
「村の子…遠慮はいりません」


侍様でなく上高とよばれた老臣らしき人が
諦めたように笑ったの。



「上高、よいのですか?」
「舞美様の我侭など貴重ですから、この上高が協力いたします」


「よかったぁ!ねっ!村の…あ…」



侍様に体をぶんぶん振り回されて
そして、急に止められ



「村の子、詳しくは後に説明しますが…
村の子では難儀です、名を教えてください」




侍様だと思っていたこの方は姫と呼ばれ
そして――舞美様と呼ばれていた。



「愛理と…申します、姫様」
「様などいりませぬよ、名はなんと呼べば?」


「お好きにおよび下さい」
「ん〜じゃぁ、愛理」



私の手をとって城へ駆け上がっていく舞美様に
転びそうになったのはここだけの話。







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数ヶ月が過ぎ。
お披露目も終わり。




やっと、詳しく説明してくれる刻が近づいてきたけれど
さすがの私だってどういう状況におかれているのかぐらいはわかる。



「説明が遅れてすまないね」
「いえ、ありがとうございます、ひめさま」



つい、様とつけてしまう。
そうすると、お拗ねになられて

かわいらしい。



「ですから、様などはいりませぬと…」
「あ、どうかご堪忍を……ひ、ひめ…。」



やはり、少し言いづらくて頭を垂れていると
姫様は頭をなでてくれた。




此処に来て数ヶ月。
姫様は頭を撫でたり抱きしめたりと

ふれあいをとても大切にしていられた。



「姫様、そろそろお時間です!」
「わかった、では愛理またあとでまいりますね」



私のお部屋というのを与えられ。
今は、私のお部屋で話をしていたのだけれど

勉学は受けていないのでとても退屈な時間でもあって。
だからか、私は姫様に少しわがままを言ってみた。




「あ、あの!ひ、姫さま」


声に驚いて歩みを止めてくれた


「ん?どうしました?」



言いやすいようにやわらかい口調で聞いてくれて
目線を合わせるかのようにしゃがんでもくれて

後ろで仕えの者があわててやめさせようとしていた。



「わ、私も…勉学を見てみたいです」
「…勉学を?つまらぬけどいいのですか?」

「はい!その…姫様がよろしければですが」
「全然よいです、そうですか、気に召せば共に受けてもいいかもしれません」




恐れ多いと丁寧に断りを入れたけど
姫様は私の手を掴んで勉学室まで連れて行ってくれた。





「では、姫様こちらを」
「うーん…」



姫様は恐ろしいくらいに知識を広げることに長けていた。
次から次へと迷う様子も無く筆を進めていく。



「愛理もやってみますか?」
「わ、わたしは…」



本当は、本当は…?
ここまで、こんなにお世話になって

甘えすぎではない…?


「愛理…?」



声が近くで聞こえる。



「…遠慮はいりませんよ」
「姫様…」



痛いくらいに手を握る。
どうすればいいの?


「愛理…一度、部屋へ戻りましょう」






勉学を切り上げて部屋へ戻ってくれた。
私のせいで少ししか出来なかった…。


私のせいで…!


「そんなに強く握ると怪我をしますよ」
「…お許しください」




握っていた手を解かれてふわっとかぶせられる。




「こちらこそ、愛理の気持ちも考えず…すまない」




姫様に謝られて急すぎて申し訳なくてあわてて頭を上げると
なきそうな顔をした舞美ちゃんが…いた。



「わ、わたしは!…いえ…すごく感謝しています」
「…愛理、嫌ならば嫌と言うてもいいのですよ、我慢はいけません」



やはり、なきそうな顔をしたまま必死に伝えてくれる。
姫を泣かせるくらいに迷惑かけて。



私の気持ちも何一ついえなくて。
自分がすべて招いた結果なのに、すべて自己責任なのに。


ただただ、困惑に私の心が先に折れてしまった。





「あ、愛理…?」
「お許しください…姫様、申し訳ありません!!」




姫様の手を握ってしゃがみこむ。
もう、無礼で首打ちになってもよかったんだ。





「愛理と二人きりにさせてください…」
「承知いたしました…引けー!!」




大きな音に包まれてやがて静寂がやってきた。





「愛理、姿勢を楽にして落ち着いて」
「ひめさ…まっ」



涙に詰まった私の声は情けなく響いて。


かぶせられていた手は背中へ回り
その手が背中を軽くたたく。




よしよしとあやすように。





「愛理、ゆっくり息を吸って」
「…」

「大丈夫ですよ、ゆっくりはいてください」
「…」




深呼吸させてくれている間も姫様の体に包まれていて
なんだか、すごくあたたかい。



「ありがとう…姫様」
「…!こちらこそ、ありがとう愛理」




お礼を、言っただけなのに
姫様は大きな目を更に大きくして

驚いている様子だった。




その夜は共に布団にはいり
遅くなった詳細を教えてくれた。



「そうなのですね」
「思ったよりも足早に事が進んでしまって…」



申し訳なさそうに鼻の上まで布団をかぶる
姫様がかわいらしくて




「ふふっ、とても感謝しております」
「ほ、本当!?」



急に起き上がって大声を出すから驚いたけど



「姫様、声が大きいです」
「す、すまぬ」


また、同じように布団をかぶって
そんな仕草にふとした疑問がよみがえってきたんだ。



「そういえば…姫様はなぜ戦場にいたのですか?」



そう、私の言葉にすごく驚いて。



「そ、それは…後に分かるはずです」



曖昧にかわされたのは私でも分かる事でした。



「そうですね、時を待ちとうございます」
「ありがとう…愛理」



布団の中で姫様は手を繋がれた。
握り返すと、ぱぁっと笑われたの。



「おやすみなさい、愛理」
「おやすみなさい、姫様」



明日が待ち遠しいなんて。
こんなに明るい気持ちを抱くことが出来ることに

感謝しながら姫様の手を握り
眠りに着いた





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少しまぶしくて寝返りを打つ。
…まぶしい?

慌てて起き上がると使いの者がいるだけで
隣にいたはずの姫様がいない。



「あ、あの!」
「おはようございます、姫様ならお庭ですよ」



聞く前に教えられて



「お、おはようございますっありがとうございます!」
「あ、愛理さま!お待ちください!」



駆け出すことは出来ないようで。
しっかり、着替えをさせられて1刻程の時が過ぎていた。




「もう、いいですか?」
「どうぞ、姫様に会われたら朝餉の用意が出来ていますとお伝えください」




そういわれ、あ、そういえばおなかすいたかも。


歩いていくと、小さい子とぶつかって転んでしまった




「いったぁ」
「どこ見て歩いてんだよ…」


しかも、口が悪い。


「お、お許しください…」
「え?…あ、失礼しました、ご無礼をお許しください」



私の顔を確認した途端、口の悪さが直り
手本になるくらいの綺麗な挨拶をされて



「いえ、こちらこそ失礼しました」
「姫の相方様ですね、岡井千聖と申します」




すっごく、丁寧で腰が低い。
さっきのさえ見なかったらきっと印象が違ったに違いない。




「姫様に助けていただきました…鈴木愛理と申します」
「愛理様、ところで姫はどちらにおいでかご存知ですか?」




千聖と名乗った子に姫様の行方を聞かれる。
けど…庭と聞いたものの広すぎて途方にくれていたのも現実で。





「庭にいると聞いたのですが…」
「庭ですか。ならば共に参りましょう」




岡井様と歩いていくと大きな広場に大きな木が一本
そこに竹刀で素振りをしている姫様を見つけた。



「ひm「姫ーっ!!」



やたら通る声にこっちをむいた姫様が
うれしそうな顔をしながら飛んできた。



「おはよー愛理!」
「お、おはようございます」



ぶんぶん、手をにぎられ振り回される。


「よくわかったね〜」
「岡井様が」


それだけいうと、岡井様のほうを向いた姫が
苦笑いを浮かべた。


「堪忍して、ちっさー」



あの口の悪さは姫にもありらしい。



「まったく、新しいおもちゃに夢中なのですね」
「愛理はおもちゃではありません」




けど、姫様も抵抗をする。
もしかしたら、この二人はこういう仲なのかも。


けど、すぐに真剣な顔になる。
なにを話しているのか私にはわからないけれど
きっと、とても大切なこと。



「そろそろ、戻りましょう」
「そうですね、ほら、愛理行きますよ?」



先に走っていった、岡井様が見えたけど
私は一面の桜に心奪われた。



「愛理…?」
「あ、姫様」



謝ろうと口を開く前に



「愛理は桜が好きですか?」
「はい、とても…好きです。こんなにたくさんの桜初めて見ました」



優しく頭に乗せられる手が心地いい。



「明日にでも御花見をしましょう」
「姫様…?」


手をとられ。


「ほら、朝餉を頂きに行きますよ」
「は、はい」



笑った姫様に手を引かれたんだ。






つづく

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