短編 ベリキュー2

□おぼろけなり
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まだ、夏が夏としてあった頃
私達の物語がそこにはあったんだ。



【おぼろけなり】



私の好きな人はある場所に居続けた。
多分、とても大切なのに

私が居ても嫌がらない。
それは…私が見えていないからだろう。


「…」
「隣いい?」

「…」
「…座るね?」


座った後に隣を見ると
いつもと、変わらず生気のない目が水面を眺めていた。

いつからだろう、名も知らぬ彼女は
いつもここに居る。

私が知る限りは…いつも。



「…波が高くなるから少し上へ行こう?」
「…」



どんなに声をかけてもこの様で
でも、本当に危ないんだ。



彼女の体に触れた瞬間
彼女は走って町へと消えてしまった。




「初めての行動が逃げるかぁ」



私のそんなむなしさは波にさらわれた。
























普段は昼間に外には出ないけど
その日はなんだか別で

出ないというか禁止されてるから
こっそりと蔵を出た。


少し陽が傾き始めた頃。
田が囲む田舎道を数人の学生が通って

その中には彼女がいた。



「それでさぁももがこうじゃないだろ!っていったんだよぉ」
「ももはそういうとこだけは頼りになるもんね」

「失礼なんですけどー!」
「でも、確かにももはしっかりしてないように見えて
しっかりしてるもんね」


「でしょー?さすが舞美見る目あるなぁ」
「ももってば調子乗りすぎ」

「みやは手厳しいんだよ!」
「なにぃ!」



ギャルちっくな人と小さい子が
ぎゃんぎゃん言い合ってる中、名無しの彼女

もとい、舞美とよばれた彼女は笑っていた。


あんなふうに笑えるんだ。
ちゃんと、動いてる。

よかった、彼女はちゃんと生きていた。



きっと、見すぎたんだろう。
彼女の目はこちらを捉えていたことに気づいたのは

大分後だった。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


陽が暮れてからゆっくりとさっき歩いた道を引き返す。
監視なんてちゃんと見てないから

人形を置いておけば
気づかないしね。



「…やっぱり居た…」
「…」


防波堤の少し影になった場所。
そこは彼女の定位置。



いつもと、同じ。
隣に座ろうとしたときだった。


「っ…!許さないっ」
「えっ…!」


いつもと同じ目でいつもと同じように海を眺める
だから、私もいつもと同じように座った。


「私の友達に危害を加えたりしたら消すからっ」
「いたっ!…え、危害…?」


ぐっと岩場に体を叩きつけられて
彼女に胸倉を掴まれたまま固定された。

足が水に浸かって少し冷たい。



「こうして隣にいるくらいならと許したのに…っあまつさえも
友達にまで手を出そうなんて…」
「…私、あなたと仲良くなりたいだけだよ、危害なんて」



そう口にした時に思わず黙り込んでしまうくらいの
眼光にうつむいてしまった。



「妖怪風情が私と仲良くなんて…出来るとでも思ってるの?」
「へっ?妖怪?…誰が?」



不思議な単語に下がっていた頭も飛び上がる。
周りを見渡しても誰も居ないし。

何より押さえつけられたまま
私に向かって言ってるからその言葉は


…私宛…?

「お前以外誰が居るんだ」
「わ、私、妖怪なんかじゃないよ!って妖怪なんているの!?」


夜とはいえ、夏だから暑い。
夜風は緊張感の中、適度な安らぎをもたらしてくれる。



「…そんなオーラ纏っておいて何言ってんの」
「…え?オーラ?」



自由な手を眺めてみるけど
別になにも見えない。



「…はぁ…私は矢島舞美、付きまとうなら私だけにして」
「舞美ちゃん?」

「そう、消されたくないならいい子にしててね」
「…うん」



返事をすると、脇に手を入れられて
いつも座っている所まで抱き上げられてしまった。

待って!この人こんなに力あるの!?
同じくらいの身長なんだけど!

「私は帰るから、また明日」
「うん、また明日」


私の言葉を待って、ニコって笑って頭を撫でられた
すごく、優しい笑顔。

私にも笑顔をくれた!
ずっと欲しかったものが手に入ったんだ。


そのまま飛ぶように消えたけど
また、明日、それが私の好きな言葉になった。




−−−−−−−−−−−−−−−−



昼間は外へは出れない。
だけど、私には友達が居る。

数百年前に死んでしまったって言う
物知りな幽霊。

妖怪は見たことないけれど
幽霊ならいつも見れる。


「はぁー」
「ため息ばかりついてどうしたの?」


生前の名前は清水佐紀って言うらしい。
佐紀ちゃんって呼んでる。


「やっと、名前教えてもらえたの」
「やったじゃない、でも何でため息?」

「…知ったことによって、出られない境遇に」
「そうね、私達が出会ってから12年だものね」


そう、3歳から蔵で生活させられている。
だから、佐紀ちゃんとは12年のお付き合い。


私の年齢は15歳、中学3年生に適する年齢になっていた。


「学校、行って見たいなぁ」
「…最近は言わなくなったと思ったら」

「だって、そうしたら沢山会えるじゃない」
「そうだろうけどね、学年やクラスが違えば今と変わらないよ」


この人、なんでこんなに現世に詳しいんだろう。


「そういえば、舞美ちゃんにオーラが変って言われたんだけど」
「そうね、人間のそれとはかけ離れてるね」

「だから、すっごく喧嘩売られたんだ」
「そう…喧嘩!?」

「うん、岩場に叩きつけられて背中打っちゃった」
「ちょっと、大丈夫なの!?早く見せなさい!」


急に怒り出した佐紀ちゃんにされるがままに
ベットに横になれば服がまくられた。

そう、佐紀ちゃんは幽霊だけど
触れることが出来る。


これは私の体質の問題らしい。
佐紀ちゃんに関わらず触れられる。


「…まったく、青くなってるじゃない」
「痛いよ佐紀ちゃん」

「我慢なさい!」
「はいぃ」


シップを叩くように貼り付けられて
少し悶絶してるとタオルケットをかけられた


「少し寝なさい」
「眠くないんだよね」

「じゃ、何かお話してあげるから」
「私そんなに子供じゃないんだけどなぁ」


ふと、思い浮かんだ。
もしかしたら、佐紀ちゃんなら舞美ちゃんを
知っているかもしれない。

なんか変な服着てたし。
特殊っぽいから。



「愛理?」
「…佐紀ちゃん、矢島舞美って知ってる?」

「矢島って矢島神社の見習い巫女でしょ」
「巫女?」

「そう、神の声を聞いたりする人のこと」
「そうなんだ」


「好きな人って巫女ちゃんの事?」
「うん」


背中をゆっくりと擦る手が気持ちよくて
まどろんでしまう。


「あの子なら私、顔見知りだからよかったじゃない」
「…え、えぇええ!!」


佐紀ちゃんの驚き発言で思わず飛び起きると
チョップされた


「うるさい」
「いたっ!」

たまに居ないと思ったら
いつの間に仲良くなってたんだろう。

私、結構長いこと海岸へ通ってたんだけどなぁ


「でも、舞美は愛理の事会ってみたいって言ってたんだけどな」
「…ん?それ私のことはなしたの?」

「そういう流れでね」
「どんな流れなの」


話しているうちに眠気に襲われて
意識が落ちていく様ぼんやりと遠くに聞こえたんだ。


「おやすみ…私の可愛い愛理」


佐紀ちゃんの声が。


























目が覚めるといつもの蔵の天井が目に入った。


「佐紀ちゃん…?」

声は闇に消え、一人なんだと悟った。
いつも、いるくせに…。


そっと、音を立てないように蔵の扉を開けると
そこには父が仁王立ちをしていて

腕を掴まれて蔵の中へと連れ戻された。


「私はお前に何度外へ出るなといえばいいんだ!」
「ごめんなさいっ!だから二階はいやっ!」

「ダメだ、少し二階で反省しなさい」
「やだー!お父さんっ出してー!!」


二階はもっと薄暗い。
もっと不気味で、嫌いな蔵がもっと嫌いになる。
そんな場所。


「グスッ…ふぇっ…っ」

ひとしきり泣き止むと、暗がりに周りが見え始めてくる。
薄暗くて怖いけど、やっぱり同じ蔵。

ギシギシと音がなるけど
頑丈なつくり。


佐紀ちゃんはどこへいったんだろう。
私は外へ出れるところがないか探索を始めることにした。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



久しぶりに外へ出た。
もう、あれこれ5年ぶりくらい。


前は巫女見習いの舞美とよく会話をしていた。
修行は辛く厳しいとよく泣いていたっけ

思い出すとほほえましさに思わず笑みがこぼれる。


愛理が外へ出るようになってからは
私は待つようになった。

あの幼子には厳しい環境
不憫な境遇だ。


誰かが待ち、出迎え抱きしめてあげる
そんな事が心を溶かしていったのをよく覚えている。




「まだ、通ってるのね」
「ずいぶん、久しぶり…佐紀」


数年ぶりにみた彼女は大きく成長していた。
身も心も霊力すらも。



「愛理に会ったみたいだけど、随分手酷くやってくれたわね」
「え…愛理?あの言ってた子?」



あれ?舞美のこの様子じゃ知らない?
会ったって言ってた巫女ってこの子よね?


「矢島舞美って複数いるわけ?」
「この町には少なくとも私一人だけど」

「この前、岩場に叩きつけた子あれ愛理なんだけど」
「…え、嘘っ私知らないで酷い事しちゃった」


教えた途端に動転しだす。
こういう所は、変わらないなぁ


「いや、知らなかったなら仕方ないけれど珍しいね暴力的なんて」
「オーラが人間のと違った上に友達を品定めするように見てたからさ」


お腹空かしてみてたのかななんてとか言い出すから
思わず噴出してしまえば


「もう、そんな笑わないでよ…ごめんね佐紀の大事な子に」
「うんん、不憫な子だけどいい子なの…仲良くしてあげてくれると嬉しいかな」


昔と変わらない笑顔を見せてくれて
なんだか安心を覚えたんだ。

少し話し込んでいると家の方からすごい妖力を感じた。
それは舞美も同じらしく

二人で、すっ飛んでいけば、そこには
刀を持った愛理が居た。


もれなく、見た目は妖怪化しているけれど。


「…佐紀あれ」
「愛理だわ」

「あ、佐紀ちゃん、舞美ちゃん」

楽しそうにかけてくる愛理をみて
呆然とする舞美。


「どうしたのその姿」
「姿?」

「愛理…だよね」

舞美が懐から手鏡を出して
見せたら呆けていた愛理が叫びだした


「お、落ち着いて!」
「お父さん来ちゃうから!」

二人で無理やり蔵へ戻すと
愛理は少し落ち着いたようで

ハッとした。

愛理の姿は普通に戻っていた。


「あれ、さっきのなんだったんだろう」
「…戻った?」

「「うん」」


「そういえば、さっきの刀あれどこからもってきたの」
「二階にあったの…使ってって声をかけられて」

そうだったー!
愛理は何でも触れられてしまう…。

二階はまだ見てないから
盲点だった…。


「って事は妖刀か、なにかかな」
「…いいの刀なんかもってて」

舞美は職業柄って感じだし
私も思わず口をついて出たのは現実的な言葉だった。

「大丈夫だよ刃はないから」

ほらっておもむろに柄に手をかけて
抜いてくれた。

抜いた瞬間に光の刃が出るわ
愛理の姿は変化するわ。


「これはダメなやつ」
「これは、外出るなって言われる」


耳が尖り目も少し鋭くなり
歯が全て尖って挙句角まで生えた。

その姿はまるで…。


「鬼みたいだね」
「みたいではなく鬼だと思う」

「最初は驚いたけど、なんか慣れたかも」





ちからつきたーー

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