短編 ベリキュー2

□楠の下で
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大きな楠の下。
沢山の返り血の中に私はいた。


【楠の下で】



これは、誰かの奥底に眠っている記憶。
私は人の記憶を見ようと思えばどこまでも見ることが出来る。


「どう?なんか見えた?」
「…うんん、なにも。ごめんね、役に立てなくて」


あからさまに不愉快な表情を向けられる。
人の記憶を勝手に覗くなんて最低な人間のすることだと思ってる。

しかも、意識のない人の。よこしまな気持ちの第三者に教えるわけはない。
けど、ばれてしまって、利用されているからには、その状況を利用して生きてるから

やっぱり、ずるいことに変わりはないかも。



放置されて行った目の前の見知らぬ子をとりあえず保健室まで
こんな所に放置もかわいそうだし。



「すいませーん、高橋せんせー!」
「ごめん、ごめん、…倒れちゃった!?」

「違います…いじめられてたみたいで」
「ほ〜か…連れてきてくれてありがとね、矢島ちゃん」


高橋先生はすごくフレンドリーだったりする。
今も、わしゃわしゃと頭をなでてくれて。


「…ん〜」
「どうかしました?」


申し訳なさそうな顔で


「悪いんやけど〜…ベットまで運んでくれると助かるんやけどな〜?」
「わかりました!どこでも大丈夫ですか?」

「全部空いてるから、好きなところでいいやざー」


連れて来る時も思ったけど、身長の割りに軽すぎる気がする。
端のベットへ降ろして布団をかけてあげると手をつかまれて

涙を流すその子は苦しそうだった。


駄目だってわかってたけど、手と手を触れ合わせる。



「…愛理…泣かないで。私はずっと…そばにいるから」


言い切った後にいつも後悔する。
触れていた手がしっかり握られ安心したかのように安らかな寝顔になって。


安心したんだ。って分かるのにしちゃいけなかった気がして
「愛理」の手を軽く握り返す。

 


――――――――



「ありがとう、矢島ちゃん、けど知り合いやったんけ?」
「いえ、名前を呼ばれていたのを聞いたので、これで失礼します!」



先生の制止を振り切って保健室を出る。
大丈夫、いつもの元気な私でいられる


だから、ももに会いに行こう。



「ももー!」
「へっ?ちょっ!?す、ストップ!」


って、いわれても、もう遅いよね。
私は、ももに思いっきり飛び込んで盛大に二人してこけた。



「いたた」
「うぅ〜それはこっちの台詞だからっ!もぉ〜」


うん、いつのも私だ。
ももに会うと安心するのも定番。


「今日は早いね」
「うん、逃げ切った!」

「う、うそっ…早く学校から出なきゃ…!追われるじゃん!」


そういって、手を引かれる。
走り出すと風が耳をふさいでくれて心地良い。




早く、あの子から気持ちを離さなきゃ…。
私はあの子に同情してるだけなんだ。



「舞美…今日はもものお家においで?」
「…うん」


気がつけば歩みは止められて真正面からももに話しかけれていて
もものうちにあがってしまえば、もう駄目だった。


愛理が頭をひたすら占めて。
しかも、あの子は大切な人を目の前で殺されていて。

逃れられない運命にあの年で抗っていた。


かかわっちゃいけない。
私は、人に見れないものをみてしまって動揺して

気になっただけ。



「はい、とりあえずおやつもらってきたよ」
「…」

「舞美?」
「さ、さわんないでっ!!」


少し揺さぶられて気を抜いてたから映像が頭の中を走る。
ももの最近の記憶。



「ごめん…」
「うんん、なんかあったんでしょ?」



私の力を知ってるのに付き合ってくれる腐れ縁。
幼馴染だったり。



「無理に聞き出そうなんてしないけど…
一人で抱え込むのだけはなしだからね!」
「うん、ありがと!」


ももが持ってきてくれたクッキーをひとつ口に含む。



「おいしい!」
「好きなだけ食べていいよ〜」



こんなクッキーに使われる小麦の記憶まで見えてしまうのだから
どうしようもないか。








−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






大きな広い空、流れる風にゆさゆさ揺れる小麦。
よくある、田舎の風景。


なんだろう、さっき見た愛理と呼ばれていた子の映像とかぶる。
あの子の見えていた記憶の背景もこんな…今時、珍しいくらいの田舎だった。



楠の下で睦まじい様子の二人。
…まだだ、まだ見える。


遠くに見えるのは海…?
これは…島?


「ぃ…み…まいみ!」
「へっ…!」


体を勢い良く起こすと激しい吐き気に襲われた。


「ちょっ!ほらっ、袋に口つけて」
「うっ…おえっ…ぐっ…はぁはぁ」


あれ?私なんで横になってたんだろう…?
確か、クッキー食べてたはずなんだけど


横目でちらっとももを見るとやたらと真剣な顔をしていた。


「もも?」
「落ち着いた?水持ってくるから吐き気強かったらトイレ駆け込んでね!」


早口で用件をいってすぐに部屋から飛び出していった。
なに?ももはなんであんなに焦ってたの?




「なんで吐くって分かったの?」
「力が暴走すると毎回こうなってるでしょ」


そうだっけ?
少し熱いくらいのお茶を出されて
口に含む。


吐き気はだいぶおさまった。



「なんとなく、今日なるなーってわかったよ」
「そっか…ごめんね、迷惑かけちゃって」


軽く叩かれて、ほっぺをむぎゅ〜ってされた。


「何があったか知らないけど私にそんな遠慮は無用だから」
「あ、ありがほぉ〜」


二人でお茶を飲みながらさっきのクッキーを食べる。



「これ、思った以上においしいね」
「うん、おいしい」





くすのきの子。
私はその子が気になって仕方なくなっていたんだ。






つづ…かない

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