短編 ベリキュー2

□時の灯火 6
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八年前の馴れ初めの場所。
そして、今、別れを告げる。





【時の灯火 6】





三日目の夕暮れどき
千聖達は愛理と舞美ちゃんの近くにいた。


「直前でわかるものなの?」
「わかるよ、愛理はちゃんとサインだすから」

「そうなんだ…」


ごくっとつばをのんだ。


いつものことならそれでいい。
なんの問題もないけれど


今回は少し特別なんだ。


愛理は限界を超えているから
帰りは舞美ちゃん一人で道を開かなければならない。

それって、帰って来れる確率はぐんとさがってしまう。



「千聖」


人の声にはっとした。
そうだ、今は一人じゃない。


「ももちゃん」


にかって笑って。
でも、心配もしていて。


時間なんか関係なかったんだ。



「ねぇ、千聖」
「なに?」

「うちらに出来る事があるなら教えて」
「雅ちゃん、ありがと」


ふたりの申し出はありがたく受けさせてもらい。



「チャンスは…一回だけ愛理が陣を発動させた瞬間の波を捕まえる事」



逆を返せばここを逃すと永遠に会えなくなる。
もう、二度と…一緒に話すことすら出来なくなるんだと

しっかり胸に刻み込む。





「もし…もし、失敗したら」




痛いほど手を握った。
唇から血が流れるのもわかった。


だけど、失敗したときの痛みはきっとこんなものではない。


これ以上、えぐり取られるような痛みに耐えられる自信はない。
もう、二度と…二度と人として生きるのは嫌なんだ。






「千聖を消滅させてほしい」




ふたりは目を丸くさせてお互いの顔を見合わせていた。





「それって、殺せって事?」




千聖はその言葉にこくりと頷いた。




雅ちゃんの真っ青な顔。
ももちゃんの震えた声も全部、ぜーんぶ


初めて聞いた。



いや、人がこんなに動揺するのを見たのは
初めてだった。



静まり返ったその中に見つけたのは不安と
小さな想い。



「消えたくないから力を貸してくれる?」
「「まかせて」」


即答してくれた。

千聖が不安になるのは、きっと、反則だ。
決めたなら信じるしか、道はない。





―――――――――――――――――――――――




失敗したら、殺してくれなんて真剣な顔で頼まれて
ももは、返事ができなかった…。


元々、緊張感が漂っていたけれど
千聖の発言のおかげで更に緊張感が漂う。


みやなんか、黙りこくってるし。



任務はどっちにしろ遂行できるけれど
こんなに後味の悪い終わり方は絶対いやっ。



何が何でも成功させなきゃっ!



そんな事を考えていたのが最終日の子一刻。(23時頃)


残すところ、あと一時間。



ももたちは二人のそばで小さな力の波すらも見逃さないように
気を張り巡らしていた。


もちろん、ずっと出来ることではない。
最善の一手を考えたらこうなっただけで出来て一時間。


それも、力を使い切った事を前提にの話で

だから、つかんだときの為にみやと千聖は待機。
ももが一人でなんとかつかみたいところ。




「…ごほっ!うぅ…」

「もも」
「近づかないで…力もらっちゃう…」



気を抜けばみやは来てしまう。



千聖はももと同時に最大限引き出すため
力を変形させるとか言って印を組んでいた。


力を最大限まで使うことって正直あまりない。
限界ギリギリまで使うと血を吐くのだと知ったくらいだし…。


もう、倒れるなーなんてぼんやり思っていた時だった。



一瞬、ほんのわずかだったけれど
さっきまでと違う流れを感じ取った。


「みや!千聖!」


叫んだ事は覚えてる。
けれど、そこからは一切記憶にないの。


ももはここで意識を失った。





―――――――――――――――――――




叫んだ瞬間倒れ込んだももをどかしてるうちに
千聖が愛理の体に触って叫ぶってほどじゃないけど

普通よりは大きい声で呼びかける。



「愛理っ!あいり!…っ!舞美ちゃん!?舞美ちゃん!!」



見つけましたと言わんばかりの反応に慌てて駆け寄る
そのまま、後ろから抱きついて力を込めると


すぐにももの辛さがわかる。



「…うそでしょ…」



少し力を入れただけで鼻血が垂れ落ちてくる。
これ以上、込めたら…どうなるんだろう…?


ちょっとした、畏れ。
それが人を傷つけるんだと思い知る事になる。



「いっ…!雅ちゃん!離れて!」



千聖の声に驚いて手が少し浮くと
千聖の腕が弾きとんだ。


「千聖!?ご、ごめっ…」


こんどこそ離さないとしっかりしがみつき
力を込めなおす。

鼻からも口からも出血して量も増えていって
…怖い。


「雅ちゃん…離れても大丈夫だから無理しないでいいよ」
「…嘘付いちゃダメだから、千聖は集中しなさい」



うちが込めていてもかまいたちのように体に生傷が増えていく
千聖を見れば、離した瞬間どうなるかくらいは想像に難しくない。




ちょっとした間があってふわって体が軽くなった。




「…ありがとう…みやびちゃん、んへへ、やーっとおわっ…」



言い終わる前にうちに倒れ込んできた千聖を慌てて抱き抱えると
部屋いっぱいに煙が充満しはじめて視界は一気に悪くなった。


「こ、今度はなんなの…」


ももや千聖は倒れて意識ないし…こんなところで
一人なんて…やっぱり…怖いっ!


顔を伏せた状態で影を感じて慌てて顔を上げると
そこにいたのは矢島さん。


「や、矢島さん…?」
「はい、ご迷惑おかけしました」


こんな霧の中ですら存在がはっきりしていて
なんて、頼もしいの


「愛理、もう出来る?」
「出来るよー」


少し奥から声がして声がしてからまもなく
瞬間的にモヤは消え去っていた。


うちの顔を再確認した矢島さんがテンパった様子で近づいて



「ど、どうしよう…私のせいだ…」
「うんん、やじ…舞美のせいじゃないから」


それでもとしょげる舞美に手を差し出す。


「夏焼さん?」
「うちは雅、みやとでも呼んで」

「…みや?」
「うん、舞美、少し力を分けてくれない?」


そういえば差し出した手を痛いくらいの力で握られたけれど
なんだか、笑いが止まらなくてうちはしばらく笑い転げていた。


「落ち着いた?」
「おかげさまでー…ところで後ろの人はどちらさま?」



その問に応えたのはその人ではなく舞美で



「やだなー愛理だよ」
「あー愛理かー…え?まって、うち頭が働かないんだけど」



からっとあははなんて笑ってるけど
いやいや、人が伸縮自在なんて聞いたことない。


本当に特殊な存在なんだ。



濡れタオルで鼻や口についた血液を落としていると
ももが起き上がってきた。


「いたたっ…え、だれ…」


伸びをしたかと思えばだよね、普通は聞くよね?


「愛理だよ」
「嗣永さん、愛理です」


説明を聞いて少しするともう楽しそうに喋っていた。
本当に順応が早いんだからさ


「ちっさーが起きないね」
「…無理しすぎたの…きっと」


愛理と舞美が千聖の方をみながら心配そうな顔。


「もも、いいよね?」
「言うと思ったー…今回だけだからね」


すこしふてくされて、でも本当はしてあげてって思ってる
ももに心があったかくなりつつ


千聖の寝ている真横につく。


「…」


ひとつ、深呼吸。


久しぶりだし、あんなに力使ったあとだから
すこし不安だけれど…安心させてくれたお礼くらい

言いたいんだよ、うちだって。



「顔色戻ってきた」
「みやってすごいね」


深い、とても深いキスをする。
そこから妖力を分け与えてやる。

注ぎ込むように…


「みやって、もものことは嗣永さんっていうのにー!」
「もも?」

「舞美はおっけー、はい、あいりは?」
「えー…も、もも…」


「赤くなってかわいいー!」
「や、やめてぇ」



…集中できない。


「もも…?」
「ごめんなさい、続けてみや」



結局、こんな感じなんだよね。



三回目にしてようやく目を覚ました。
うちは、死にそうなくらいがんばった、うん。


「…雅ちゃん?」
「よかった…」


すこし離れると、愛理が近づく。



「心配かけました」
「本当です、愛理様はすこし自覚を…え」


説教をしていた千聖も愛理の姿を確認して
固まってしまっていた。


「なんで戻ってるの?」
「術をかけていられるほどの力が残ってないの」


驚き方がうちらと違ったのは色々知っているから…かな。
どうやら、愛理の本体はあの姿だったらしく



「愛理と千聖ってもとの年齢差ってどのくらい?」
「同じ年です」

「子供の頃から同じように育ったの」
「幼馴染というやつです」




一晩は夕餉を囲みながらみんなで騒いで
いつの間にか眠りについていた。











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