短編 ベリキュー2

□時の灯火 5
1ページ/1ページ

大切な何かを私は知っている。
けど、遠い昔になくしたんだ。



【時の灯火 5】




力がこぼれ落ちていっているのを感じる程度には
私達に残された時間は少ないのだとわかっていた。





久しぶりに会ったあなたはとても綺麗になっていました。
封じたはずの気持ちが溢れ出してくるし


私は舞美ちゃん、あなたに出会ってしまった事で
取り返しのつかないことを…してしまったかもしれない。



「愛理、しっかり」
「は、い」



ところどころで聞こえる嗣永さんの声。
「ももって呼んでね♪」って言われたけど未だに言えずにいる。


わかっているはずなのよね。
この二人だってここへ入れる程の力があるのなら

こうなってしまった人間を連れ戻すなんて出来ないことくらい。
ただ、私にはこの術がある。


コントロールを誤りこんなきつい術をかけてしまった
自分への戒めも込め…私は記憶を渡る。





二人にはないしょで入口を探す。
支えられているから比較今までで一番楽に入ることができた。


これから、記憶を遡りながら本体を探す。



「…くっ…はぁ、はあ」



思う以上に負担をかけられる。
少し歩くだけで体が軋む。

それでも、出会った頃の舞美ちゃんがすごく近くにいる。
あぁ、懐かしい。


あんなに、小さかったのね。


沢山の笑顔に包まれる。
いつも、笑っているから知らないことも沢山あって


泣いてる事も同じくらいに多かったんだと知った。


悔しい思いも。

悲しい思いも。


舞美ちゃんは人として生き成長をしていった。




それでも、やっぱり私の知っている舞美ちゃんは
笑っている笑顔の舞美ちゃん。



扉を開けていく。



足を止めてまで見たそれは
今の姿に近いけれど少し幼い年頃だった。



そこにいたのは、うつろで魂が抜けてしまったかのような
抜け殻のあなた。


恋人を取っ替え引っ替えして
それでも、埋まらぬなにかを埋めようともがいていた。



扉をくぐればグラりと体が地面へ沈み込みそうになる。
けれど、私にはあいにく時間がない。


呼吸も落ち着かず。



いろんな舞美ちゃんを見た。
けれど、本当の舞美ちゃんは未だ見つからない。



「舞美ちゃん!…お願いっ…舞美ちゃん!!」


体は思うように動かず。
それでも、必死に歩き続けた。



どれだけ時間が経ったんだろう…。
このままでは、見つけずに帰るしかないけれど

もう一度入れるほどの力は…残っていないのくらい
私にだってわかる。


もう、この体では…なにも出来ない。




「舞美ちゃんっ!…まいみちゃっ!」



声の限り叫ぶ。



届けと…願いながら。




「やだっ、お願いだから…出てきて、まいみちゃん!!」



情けない声が出るのもお構いなし。
もう、視界すら危うい中、歩き続け


体に衝撃が走ったと同時に視界が変わる。
転んだんだとわかった。


「…いたた…」



大地に頬を預ける形になったけど
気にならないくらいにはわけがわからなくなっていた。




「…大丈夫?」
「…」

「どうしよう…動かしても大丈夫…だよね?」




ぼそぼそと聞こえたあとに抱き上げられたのがわかった。



「…ごめんね、いくじなしで…」
「ま、いみ…ちゃ、ん?」



その声は紛れもない舞美ちゃん。
だけど、別人かのように聞こえて…。



目が覚めるとそこは今よりも少し新しい
だけれど、見慣れたいつものお屋敷で


「あ、起きた」
「…舞美ちゃん」


起き上がると同時に倒れこむようなめまいに襲われながら
なんとか落ち着いた。


「なんか、辛そうだけど…」
「大丈夫だよぉ」



ピンクの着物を羽織ったあの頃よりも
大きく綺麗になった舞美ちゃん

沢山の後悔の中に今を見つけた。




「大きく…なったね」
「うん、やっと…会えた」



嬉しそうに笑いながら涙を零すその姿は
今まで見た中で一番心をぎゅっと掴まれたようだった。


「舞美ちゃんは体、辛くないの?」
「うーん、特には」


余程、強いなにかが守ってる?
もしくは、本人の力が強いのか。


「舞美ちゃん」
「なーに?」


二人きりの世界。
千聖も…いない。


「元の世界へ帰ろう?」
「うん」


あれ?


「え?」
「でもね、私帰り方しらないんだ」



もっと、ごねられるかと思っていたから
ちょっと、拍子抜け。



「力を貸して欲しいの」
「もちろん!出来る事はするよっ!」



帰ると決まれば準備へ別室まで移動する。


「愛理」
「なに?」


振り返ったらニコニコした舞美ちゃんが
私を持ち上げるところでした。


「えっ!?」
「辛そうだしね」


「だ、大丈夫っ!私歩ける!」
「うん、でも愛理を全身で感じたいの」



そう言われたら、なにも言い返せない。
少しの道のりだったけれど、舞美ちゃんにしっかり抱かれながら

連れて行かれたんだ。


「ありがとう」
「こっちこそ、ありがと、愛理ってこんなに小さかったんだね」


下ろされて(少しむっとしながら)すぐに戻るための準備を始めた。
巻物を開きながら陣を組んでいく。


「私に出来ることある?」
「うーん…」


もうひとつの巻物を舞美ちゃんに握らせ



「この陣を組んだら元に戻ると思うから開くのはお願い」
「…開く?」


「巻物を開いて血をまっすぐ引くの」
「わ、わかった…」




なんだか、すごく真剣。
大丈夫かな…。



書き終わった陣のうえに乗ってふと見回す。
したいことはあったけれど…時間がない。


「愛理」


舞美ちゃんの少し強い声に見上げれば
あの頃と変わらない顔で私を見つめていた。



「舞美ちゃん」
「ハグしたまましていい?」


ハグってなんだろう?
とりあえず、しながら出来るならいいよね。


「いいよ」
「ありがとう、愛理」


そういって陣の中に入ってきて
ぎゅっと抱きしめられた。

ハグって抱きしめることをいうのね。



「じゃぁ、いくよ」
「うん、いつでもいいよ」


舞美ちゃんの服を握って力を込めた瞬間
目の前が真っ暗になったんだ。







































よくわからないまま、事が運んで
質問もできないまま、役目をもらった。


愛理ともっと話したい。
言いたいことだって沢山ある


必ず、帰って見せるんだ!




愛理の体ががくっと崩れ落ちる。
それが合図。

私は巻物をばさっと開き指を噛んだ。
開いた巻物に出血している指を押し付けると




竜巻のような風が起こり。




腕に収まるくらいだった愛理は私と同じくらいまで大きくなった。



「あ、愛理っ!?」



そのまま、飛ばされて引きちぎられそうな痛みの中
愛理を絶対離さないようにと抱きしめ続けていたんだ。





気が付けば闇の中を彷徨っていた。





腕の中にはぐったりした愛理。
あの小さい愛理は消え


私と変わらない身長差。



確かめるように、もう忘れないように
しっかりと抱きしめる。


あんなに大切だったのに。


八年も忘れたままだった。



「愛理…」


ほっぺを少し叩いてみてもぴくりともしない。


「帰れるのかな…」


そんなつぶやきさえも誰にも届かず消えてしまう。


「うわっ!」


瞬間、羽織っていた着物が引っ張られて
大きな流れに投げられた。


光と闇を高速で超えていく。
…どうすればいい?


私は今、どこにいるの?
どこから、帰ればいいの…!



「…!あ、あれ」


少し慣れくると今度は、はっとする。
大分、昔に閉館してしまった遊園地を見た。


「ここ、時間の中だっ…」


あっちこっちに移動するものの目に入る。
沢山の人の笑顔が消えていく姿が。


過去から未来へと飛び続けている。



そろそろ、今を通過する。



――舞美ちゃんっ!



咄嗟に声のした方へ腕を伸ばした。


「ちっさー!」


腕は…ちゃんと掴んでくれたんだ。
引き上げられる衝撃で私も意識を飛ばす事になったけど。







つづく

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ